第30話 ハツキからの試練?

 私の投げたフリスビーではなく円形の盾を置いかけて、2時間以上プリンツは走り続けていた。私の投げた盾の方向へ向かって一直線に走り続けた結果プリンツはようやく盾のある所まで辿り着くことが出来た。


 私の投げた盾はある湖の側に落ちていた。大きな竜の頭と一緒に・・・



 「この円盤を投げたのはお前か!」


 「・・・」


 

 プリンツは無敵の毛を逆立てて戦闘体制に入りながら、鋭い眼光である魔獣を睨みつけている。



 「ヴォルフ族が俺たち火炎竜族に喧嘩を売りにきたのか!」



 プリンツの目の前には2体の火炎竜王のフィラメントとフレア、そして、首が取れて倒れているプロミネンスがいた。


 プリンツが訪れたのは7つの厄災の一つである『赤の厄災』の爆炎湖である。爆炎湖の中央にある小さな島には精霊樹が生えており、この聖霊樹を監視するのが3体の火炎竜王とその仲間達である。エメラルドグリーンの綺麗な湖は、火炎竜王が住み着いてから、火炎竜王から抜け落ちた鱗が湖に沈澱し、その鱗から炎が溢れ出し炎の湖の爆炎湖となったのである。



 「プロミネンスは、そこにある円盤によって頭を斬り落とされてしまった。俺たちの命は三体全員が死なない限り、細胞が再生する三位一体魔獣だ。プロミネンスは瀕死状態だが、俺たちが生きている限り時間をかけて再生するだろう」


 「残り二体を倒せばいいのだな」


 「そうだ!ヴォルフ族が一人で乗り込んでくるその度胸は認めよう。しかし、ヴォルフロードでなく、まだひよっこのヴォルフ族が1人で来るとは自殺行為だぞ!」



 プリンツは『赤の厄災』である爆炎湖に来たことは、私からの試練だととらえていた。



 「ハツキお姉ちゃん・・・僕がオークの大群にビビって何もできなかったことをちゃんと見ていたんだ。僕の臆病な性格を鍛えるために、円盤を投げて『赤の厄災』の住む爆炎湖に向かわせたんだね。僕1人で3体の火炎竜王を倒すのは不可能だから、1体だけはハツキお姉ちゃんが倒してくれたというわけだね。僕は残りの2体を倒せばいいんだね」


 とプリンツは大きな勘違いをしていた。



 「僕はいずれ『黒の厄災の王』になるヴォルフ族のプリンツだ!お前達を倒して王の器であることを証明してやるぞ」


 「いい度胸をしているな。しかし、『赤の厄災の王』である俺らが小僧相手に負けるわけにはいかない」



 火炎竜王は体長10mほどで全身を赤い鱗で覆われている。この赤い鱗は絶えず2000度の高温を保ち鉄でさえ一瞬で溶かしてしまう。そして、丸太のように太い尻尾に自由に空を飛べる2つの大きな翼を持っている。これは明らかにプリンツに勝ち目はない。



 「そこにいるだけで体力が消耗するだろ」



 目の前には2000度の鱗を持つ火炎竜王が2体いる。そばに居るだけでも皮膚が焼け落ちてしまいそうである。しかし、プリンツには無敵の毛がある。プリンツの無敵の毛は火炎竜王の発する熱気さえ遮断する。



 「僕に炎は通じないぞ」



 プリンツは体を球体にし大地を蹴ってフィラメントの体に突進していく。



 「舐めるなよ!」



 フィラメントは口から燃え盛る炎を吐き出した。勢いよくでた炎はプリンツを弾き飛ばし、プリンツは地面に叩きつけられ炎上する。しかし、プリンツは燃え盛る体を起き上がらせて戦闘姿勢を保ち、再度地面を蹴ってフィラメントに向かっていく



 「さすが無敵の毛を持つヴォルフ族、俺の爆炎砲をくらっても平気とはな。しかし、これならどうかな」


 


 フィラメントは大きな翼を仰ぎながら、口から爆炎砲を吐き出す。



 「俺も加勢するぜ」



 フレアも同じように大きな翼を仰ぎながら、口から爆炎砲を吐き出した。


 凄まじい勢いの突風に動きを封じられたプリンツの体に無数の爆炎砲が襲う。いくら無敵の毛に覆われているプリンツでも、鋼鉄をも溶かすほどの爆炎砲を際限なく打ち込まれたら、表面的なダメージはないが、無敵の毛の内部の体にはダメージが蓄積していく。そして、数分後には立っていることもできなくなり、プリンツは地面に這いつくばってしまった。



 プリンツが絶体絶命のピンチに立たされていた時、私の前に黒いモヤが現れた。



 「ハツキさん、プリンツが危険な状況です。ハツキさんの判断を仰ぎたいたいと思います」



 黒いモヤの中からヴォルフロードが姿を見せたのである。



 「ロードちゃん、お久しぶりね。プリンツちゃんに何かあったのかしら?」


 「プリンツは、あなたが与えた試練である『赤の厄災の王』火炎竜王と戦っています」

 

 「何それ?身に覚えはないわ」




 ヴォルフロードは自分の息子達と念話をすることができる。ヴォルフロードはプリンツと念話をして、今のプリンツの状況を把握していた。プリンツが危機的状況になっているが、手助けをしていいのか確かめるために私の元に来たのである。


 そして、この黒いモヤの正体は『ブラックロード』と呼ばれるヴォルフロードの固有スキルであり、自分の息子達の居場所へ自由に移動できるスキルである。私の麦わら帽子にはアンファンの魔石が付いているので、私のところへ移動することができたのである。


 私はヴォルフロードの説明を聞いて、すぐにプリンツを助けに行くことにした。



 「プリンツちゃん待っててね。すぐに助けに行くからね」

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