第16話 試験クエスト

 「冒険者試験は1人でクエストを達成するのが基本です。誰も手出すけはできません」


 「それはわかっている」



 ムスケルたちはシャンデを睨みつけながら返事をする。



 「では、ハツキさんの冒険者試験を始めます。まずは素性調査をしたいと思いますので、こちらの部屋に来てください」



 私はギルド内にある小さな部屋に案内された。ムスケルたちは私のことが心配で部屋のドアに顔を近づけて様子を伺っている。



 「そうだ!ヘンドラーさんからこれを預かっていたわ」



 私はヘンドラーから預かった紹介状をシャンデに見せた。



 「これはヘンドラー男爵様から紹介状ではないですか!こんな需要な物はすぐにお渡しください」



 シャンデは紹介状に目を通した。



 「ヘンドラー男爵様の紹介であれば、素性調査は必要ありません。しかし、いくらヘンドラー男爵様の紹介であっても、クエスト試験は受けてもらいます」


 「はい」



 面倒だった素性調査がなくなったので私はホッとした。シャンデは受付カウンターに戻るために部屋のドアを開けると、盗み聞きしよとしていたムスケルたちが倒れ込んできた。



 「ムスケルさん何をしているのですか」


 「扉にホコリが溜まっていたから掃除をしていただけだ」


 「そうだ」


 「そうよ」


 「・・・」



 シャンデは呆れて何も言い返すことはしなかった。



 「ハツキさん、それでは今から冒険者になるためのクエストを受けてもらいます。初心者が1人でこなせるクエストを私が選びますので、もし無理だと思ったら別のクエストに変更もできますので、遠慮なく言ってください」


 「はい」


 「では、ハツキさんには一角ラビット1匹の討伐を依頼します。一角ラビットは俊敏ではありますが、攻撃力は弱く初心者冒険者にもってこいの依頼だと思います」


 「わかりました。一角ラビットを討伐してきます」


 「ちょっと待ったぁ〜」



 ムスケルが大声で叫ぶ。



 「一角ラビットは、確かに攻撃力は弱く初心者冒険者にうってつけの討伐だ。しかし、お嬢ちゃんは魔力量が0なんだぞ。もし、一角ラビットの角に当たって怪我でもしたらどうするのだ」


 「そうだ。そうだ。一角ラビットの角に当たって怪我をした初心者冒険者を俺は何度も見たことがある。しかも、お嬢ちゃんの装備を見てみろ。白のワンピースに麦わら帽子だ。今からピクニックに行くような服装で一角ラビットの討伐をさせるなんて受付嬢として失格だ」


 「まずご指摘にあった服装の件に関しては、きちんとした装備品を用意できなかった本人に落ち度があります。そして、一角ラビットの角の件ですが、一角ラビットに襲われて怪我をした者はたくさんいますが、すり傷程度の軽症であり死んだ者はいません。私なりに最善の配慮をしてこのクエストを選んだのです」


 「いえ、あなたの見立ては間違っているわ。お嬢ちゃんは武器を持っていないわ。魔法が使えないのならせめて武器は持っておかないと、一角ラビットを討伐するなんて不可能だわ。それともシャンデさん、あなたは素手で一角ラビットを倒せと言っているのですか」


 「その件についても武器も防具も持たずに冒険者試験を受けにきたハツキさんの落ち度です。私ができるのはできるだけ安全なクエストも選ぶことだけです」


 「しかし、お嬢ちゃんに一角ラビットの討伐なんて不可能だ!俺が簡単なクエストを見つけてくるぜ」


 「俺も手伝うぜ」


 「私も」



 『肉の壁』のメンバーはギルド内に張り出されているクエストを一つ残らず確認をする。



 「くそ!どれもお嬢ちゃんにキツすぎるぞ」


 「本当ね。どうしようかしら」


 「そうだ!いい案を思いついたぞ」


 「どのような案だ。ニーゼン」


 「俺たちが依頼を出せばいいのだ。お嬢ちゃんが1人で達成できるクエストを」


 「名案だぜ」


 「それしかないわね」


 「シャンデ、今から俺たちはギルドに依頼を出すぜ」


 「・・・」


 

 シャンデは呆れて返事すらしない。



 「シャンデ、フリーデン草原での薬草の採取の依頼を受けつてくれ」



 フリーデン草原とは町のすぐそばにある草原である。フリーデン草原には薬草が生えているので、魔獣が近づかないように耐えず冒険者が魔獣を駆除している安全地帯であり、貧しい平民たちがお金を稼ぐために薬草を採取する場所である。



 「だめだ!ニーゼン」



 シャンデではなくムスケルがこの案を否定した。



 「どうしてだ。フリーデン草原なら安全地帯だぞ」


 「フリーデン草原にはたくさんの花が咲いているのだ。その花の蜜を吸いにミツバチが飛んでくるのはお前は知らないのか?」


 「そんなことは知っている。でもミツバチは魔獣じゃなく昆虫だぞ。そっとしておけば問題ないだろう」


 「ばかやろ〜!!!お嬢ちゃんの細くて綺麗な白い肌にミツバチが針を刺したらどうするのだ!お嬢ちゃんの白い肌は赤く腫れ上がってしまうだろ!」


 「・・・すまない。俺の考えは浅はかだった・・・」



 ニーゼンは膝を付いて床を叩く。



 「ニーゼン、誰にも間違えはある。気にするな。俺がお嬢ちゃんに適したクエストを考えてやるぜ」



 ムスケルは腕を組んで考え込む。



 「そうだ!これなら問題ないだろう。シャンデ、俺たちはお腹が減ってきた。だから『豊穣の満腹亭』にデリバリーを依頼するぜ」


 「そうね。私も小腹が空いてきわ」


 「俺もだ」


 「デリバリーならデリバリー業者に頼めがいいのではないでしょうか?そのような依頼を受けると私がギルドマスターに怒られます」


 「今はギルドマスターはいないと言っただろ!それに、そのお嬢ちゃんはヘンドラー男爵様の紹介だろ」


 「・・・わかりました。その依頼を受付しましょう」



 シャンデは渋々ムスケルの依頼を受け付けたのであった。



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