第17話 ハツキ冒険者になる

 私の意見を聞くまでもなく私の冒険者試験のクエストの内容が決まってしまった。私は一角ラビットの討伐で全然問題なかったけど『肉の壁』の方々のご厚意を無下にするわけにもいかないので、シャンデと同様に渋々了承した。



 「ハツキさんの冒険者試験のクエストが決まりました。『豊穣の満腹亭』に行き、満腹定食を4つ買ってきてください。代金として銅貨8枚お渡しします」


 「シャンデ、俺たちは満腹定食を3つ頼んだはずだ。なぜ4つも必要なのだ」


 「私の分よ!私はクビを覚悟でこのくだらないクエストを受理したのよ。弁当の1つでも貰わないとわりにあわないわ」


 「そうだな、それなら仕方がない奢ってやるぜ」



 こうして私は銅貨8枚渡されて、『豊穣の満腹亭』に弁当を買いにパシらされることになったのである。



 「なんで私がおつかいをしなければいけないのかしら?」



 私は愚痴りながら『豊穣の満腹亭』を目指す。『豊穣の満腹亭』までは地図をもらっているので、迷うことなく行けるはずである。しかし、私のことを心配している『肉の壁』のメンバーは、私に見つからないように後ろをそっとついてきている。



 「大丈夫かしら」


 「不安だぜ。もし転んで怪我でもしたらどうする?」


 「やはり、俺が出したクエストは失敗だったのかもしれない。もっとあのお嬢ちゃんが安全にこなせるクエストを用意するべきだったぜ」


 「今から後悔しても仕方がないわ。私たち『肉の壁』はお嬢ちゃんに傷1つつけることなく無事にギルドへ戻れるようにサポートするのよ!」



 私は地図を見ながら『豊穣の満腹亭』を目指して歩いていく。私はカノープスの町の土地勘は0なので、地図に目を取られて前方が不注意になる。私が宿屋の前を通り過ぎる時、いきなり横から人が飛び出してきた。


 

 「危ない!」



 ムスケルは全速力で走り出し、私にぶつかりそうな男を放り投げた。しかし、私は地図に夢中でムスケルが助けてくれたことに気づかずに地図を見ながら『豊穣の満腹亭』を目指す。


 私が『豊穣の満腹亭』に着くまで、何度か人とぶつかりそうになったが全て『肉の壁』のメンバーが投げ飛ばし危険を回避してくれた。


 私はそんな『肉の壁』の働きに全く気づかずに『豊穣の満腹亭』に着いたのである。私は銅貨8枚渡して満腹弁当を無事に買うことができた。



 「よし!弁当を買ったわよ。あとはギルドに戻るだけね。なんか全然達成感はないけど、これで冒険者証をもらえるならラッキーだわ」



 私は無事?に弁当を買うことができたのでギルドに戻ることにした。



 「そこのお嬢ちゃん、その重たい荷物をお持ちしましょうか?」



 あきらかにムスケルと思われる屈強な体をした覆面をした男性が私に声をかけてきた。



 「ムスケル、ナイス判断だぜ!弁当箱を4つなんてあのお嬢ちゃんが持てるはずがない。お前が飛び出さなかったら俺が飛び出していたところだぜ」


 「これは偶然重たい荷物を持っていたお嬢ちゃんを見つけた冒険者が、あくまで親切として手助けをしているので、冒険者試験の違反をしたわけじゃないわね」


 「そうだぜ。これは親切な行為であって不正行為ではないはずだ」



 「大丈夫ですよ。私これくれいなら1人で持てますよ」


 「無茶はだめだぜお嬢ちゃん。人からの親切は笑顔で答えるのがレディの嗜みってやつだぜ」


 

 と言ってムスケルの思われる覆面姿の男は私から弁当箱の入った袋を奪い去る。



 「もう我慢の限界だ!お弁当を買うというクエストは達成できたはず。帰り道は俺がお嬢ちゃんを危険から守るぜ」



 ニーゼンも覆面をつけて私の前を先導して歩き出した。



 「偶然通りかかった冒険者が、か弱い女性の通る道を先導するのは紳士たる冒険者の勤めだわ。これは決して冒険者試験の手助けをしたことにならないわ」



 こうして、帰り道はムスケルが荷物を持ち、ニーゼンがギルドまで誘導する形で帰ることになった。



 「弁当4つ買ってきましたぁ〜」


 「待っていたのよ。『豊穣の満腹亭』の満腹弁当はとても美味しいのよ」



 シャンデは、ムスケルの持っていた弁当をすぐに取り上げる。



 「はい。これ冒険者証よ」



 シャンデは私に冒険証を渡すと受付カウンターに弁当をひろげて美味しそうに食べ出した。シャンデには『肉の壁』の行動は全て想定内だったので、驚く様子は全くない。私はシャンデの姿に唖然としたが、冒険者証をもらえたので何も言うことはない。



 「お嬢ちゃんよかったな。実は俺はムスケルだったんだぜ」



 ムスケルハ仮面を外して素顔を晒す。



 「あぁ〜ムスケルさんだったのですね!」



 私は正体は初めからわかっていたが、私のことを親身になって心配してくれたムスケルのご厚意に感謝の意を込めてわざとらしく驚いてみせた。



 「実は俺もニーゼンだぜ」


 「あぁ〜本当だぁ。全然わかりませんでしたぁ〜」


 「俺たちの変装は完璧だぜ」



 2人は私のわざとらしい驚きに気をよくしているみたいである。



 「お嬢ちゃん冒険者試験合格おめでとう。これからは冒険者を名乗ることができるが、決してクエスト受けちゃだめだぞ」


 「そうだぜ。もし、どうしても、クエストを受けたいときは『肉の壁』が一緒にパーティーを組んであげるぜ」


「それは嬉しいです」



 私は笑顔で返事をした。



 「今日はいろいろと手伝ってくださって本当にありがとうございます!無事に冒険者証を手にすることができたので、家に帰ることにします」


 「気をつけるのだぞ」


 「はい。気をつけて帰ります」


 

 私は冒険者証を手にしたので、早速町を出ることにした。

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