第12話 クロイツ子爵の横暴


 「クロイツ子爵様、ヘンドラーの娘セリンセの誘拐に失敗しました」


 「確実に捕まえて来いと俺は言ったではないか?なぜ失敗したのだ」


 「確実に成功をするためにイーグルネイルの『真紅の爪』のリーダーであるアードラーにセリンセの誘拐を依頼をしました。『真紅の爪』はイーグルネイルの4つの『爪』の最も残忍で凶悪な組織です。そして、依頼の成功率は100%を誇りこの町の護衛騎士団よりも強くて優秀だと聞いていました」


 「それならなぜ失敗したのだ」


 「それがわかりません。ヘンドラーの護衛についていたのは『月華の雫』と呼ばれるCランク冒険者であり、この町で最も優れた冒険者と言われています。しかし、『真紅の爪』は『月華の雫』ですら恐れ慄いておしっこをちびると言われるほどの組織です。ギルドからの報告によりますと、『月華の雫』が命と引き換えにして『真紅の爪』を撃退したとの事でした」


 「思っていたより『真紅の爪』が弱かったか?」


 「それはございません。『真紅の爪』のリーダーであるアードラーは元A級冒険者でありドラゴンをも真っ二つする魔法剣の使い手であります。そのアードラーが『月華の雫』に負けるとは思えません」


 「しかし、アードラーは負けたのだろ?」


 「はい」


 「言い訳など聞きたくない。俺はあの美しいセリンセが欲しいのだ。俺はヘンドラーの店に行った時、美しいセリンセの姿を見た時に俺は運命を感じたのだ。セリンセは俺の15番目の妻に相応しい人物であると。しかし、あの成金ヘンドラーは俺とセリンセの婚姻を断ったのだ。おかしいだろ?金で成り上がって男爵になったヘンドラーが、貴族として生まれ長年シュナルヒェン家に仕えてきた俺様に反抗するとは愚かな行為だと思わないか?」


 「はい。その通りでございます」


 「しかし、あの成金ヘンドラーは財力にものを言わせて、町の役人たちを手懐けて人徳者として祭り上げられているではないか!俺には全然支援をせずに貧しい平民には寄付をして生活の補助をしていると聞いている。平民などにお金を配るくらいなら俺の元にお金を持ってくるのが筋と言うものだ!それにあいつの妻はカノープスの町で1、2を争う絶世の美女だ。あいつはクソだ。金に物を言わせて全てを手に入れようとしている」


 「クロイツ子爵様の言う通りでございます」


 「あいつの娘だけは必ず俺のものにしてみせる。どのような手段を使っても構わない。絶対にセリンセを俺のところへ連れてこい」


 「わかりました。しかし、予算の方が底を尽きています。新しい予算を用意してもらわないと動きようがありません」


 「ヘンドラーから資金調達をしてこい!」


 「それは・・・難しいのではないでしょうか」


 「名門貴族であるズューデンス家が支援を要請しているのだ。一度くらい支援をしてもらっても良いだろうが」



 領主であるシックザナール・シュナルヘェン伯爵につかているクロイツ子爵は、いろいろな便宜をはかってもらいたくさんの税金を不正に抜き取っている。しかし、14人の妻にそれぞれ家を与え豪華な暮らしを維持するために、クロイツ子爵はいつも金銭的に困っていたのである。その金銭的な穴埋めをしてもらうために何度も何度もヘンドラーに資金援助を要請するがいつも断られている。


 クロイツ子爵の税金の不正の抜き取りにより、この町の平民は貧しい暮らしを強いられているのだが、それを援助しているのがヘンドラーである。なので、ヘンドラーは町の人から愛されていて、役人たちからも厚い信頼を得ている。





 「ヘンドラー男爵様、クロイツ子爵様から使いの者が来ております」


 「いつもの金の無心だと思うので、外出中だと伝えておいてください」



 ヘンドラーはクロイツ子爵が娘の誘拐の黒幕だと睨んでいる。しかし、そのことは誰にも言っていない。今回クロイツ子爵の使いの者が訪れた理由は、本当に金の無心なのか、それとも事件について探りを入れているのかわからないので、いつものように追い帰すことにした。



 「わかりました。旦那様」



 ヘンドラーの執事であるルフトクスはいつものようにクロイツ子爵の使いを追い払う。



 「待ってください。お話でも聞いてください。そうしないと私はクロイツ子爵様に殺されてしまいます」


 「いつもそのような泣き落としをしていますが、あなたは毎回元気にお金の無心をしにきているではありませんか」


 「今回は本当なのです。大金貨100枚でいいのです。ぜひ支援をお願いします」



 この世界では銅貨1枚が100円、銀貨1枚が1000円、金貨1枚が1万円、そして大金貨1枚は100万円を意味する。なので。1億円の支援を要求してきたのである。



 「そんな多額の支援できるわけないでしょう。さぁ〜出て言ってください」


 「クソォ!覚えておけこの成金男爵が。必ずお前らには天罰が下るはずだ。後から後悔しても知らないぞ」


 


 クロイツ子爵の使いの者は、負け犬の遠吠えのように吐き捨てるよに叫びながら屋敷を出ていった。





 



 

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