第11話 黒幕の正体

 ヘンドラーの屋敷は私が思っていた10倍の大きさはあった。屋敷は私が入院していた病院ほどの大きさもあり屋敷というよりも旅館やホテルと言った方が適切だと思った。しかし、大きいのは理由がり一階の半分は食堂と魔道具店であり、残りの半分はアイリスの工房であった。2階は会議室や従業員の寝床まで用意されており、3階と4階が家族が居住するスペースになっていた。


 屋敷は大きな塀に囲まれており、入り口の門には護衛の兵士が配備されていている。屋敷には大きな馬車を駐車するスペースが完備されていて、ヘンドラーの馬車だけでなく、ヘンドラーの店にくる貴族が駐車するスペースも用意されている。


 

 「すごい大きな屋敷ですわ」


 「大したことはありません。貴族の豪邸に比べたら私の屋敷など店と工房と住まいを一緒にしたゲテモノ屋敷と言われています。しかし、ここの屋敷のお店は会員制になっていますので、誰でも入れることができるわけではありません。お食事をしながらゆったりと魔道具を手に取ることができる特別な空間です。なので、貴族様たちには大変気に入ってもらってます」



 ヘンドラーさんのお店はこの屋敷以外にも数店舗町にあるらしい。屋敷のお店は会員制の特別なお店だということであった。


 私は店舗にも興味があったが、ヘンドラーさんがどうしても話したいことがあるというので屋敷の3階の大きな部屋に向かった。



 「ハツキさん、今回の盗賊事件の依頼主に私は心当たりがあるのです」


 「そうなのね!それならすぐに警察・・・じゃなくて領主様に報告しなきゃ」



 この世界では警察はない。事件が起こった時は領主に報告して領主の権限で事件を裁くのである。領主は国王から町を治める権限を与えれていて、領主は自分の権限ないで自由に事件を捌くことができるのである。



 「それが、アードラーの部下が子爵様と言っていたので、この事件の黒幕はシックザール・シュナルヒェン伯爵の部下であるクロイツ・ズューデンス子爵の犯行だと思うのです」


 シックザナール伯爵は領主なので、この事件を報告しても部下が起こした悪事を見逃す可能性が高いのである。そして、シックザナール伯爵も事件に関与していれば逆に偽証罪として罰せられる可能性もある。



 「どうされるおつもりなのですか?」


 「ギルドには事件のことは報告するつもりですが、領主様には報告するつもりはありません。クロイツ子爵を相手取って訴えても勝ち目はありません」


 「そうですか・・・それが懸命な判断なのですね」


 「はい。それでハツキさんにお願いがあるのです」


 「わかりました。その領主と子爵をぶっ飛ばせばいいのね」



 あまり目立つことはせずに、スローライフを送ってみたいと思っていた私だが、神様が与えてくれた頑丈な体と人並外れたこの力、私は正義のために使ってみたいと思ったのである。



 「いえ・・・そんな物騒なことはおやめください。それに、領主様をぶっ飛ばしたとなると、領主様を任命した国王様に目をつけられる可能性もあります。確かな情報を手に入れるまでは何もしないことが懸命です」


 「そ・・・そうなのね」


 「はい。私がお願いしたいのは娘の護衛です。今回の事件で娘が狙われていることがわかりました。ハツキさんはどこからどうみても可愛くて可憐な少女にしか見えません。まさかハツキさんが護衛者だと誰が気づくでしょうか?いきなり娘に屈強な護衛者をつければ、私たちが子爵の企みを気づいたと勘づかれる恐れがあります。しかし、ハツキさんならその点も問題ないでしょう」



 確かにヘンドラーの言っていることは理にかなっている。しかし、いつ襲ってくるかわからない相手から私はセリンセを守る事ができるのであろうか?



 「ハツキさんは住むあてがないと聞いております。娘の護衛をしていただけるなら、この屋敷での衣食住の全てをこちらでご用意さしげます。もちろんプリンツさんも屋敷の中で自由にお過ごしください」


 「喜んで引き受けます!」


  

 私は町に着いたけどこれからどうすればいいのか迷っていた。お金はヘンドラーから命を救った謝礼としてかなりの額をもらえる予定だったのでしばらくは問題ないが、14歳の女の子がこれからこの異世界でどう過ごせばいいのか考えていた。


 セリンセの護衛期間は未定だが、しばらくはセリンセの護衛をしつつ今後のことを考えることにしたのである。



 「ありがとうございます。娘の護衛ですが外出時のみで結構です。娘は午前中は家庭教師に魔法などの勉強を教えてもらい、午後からは店の手伝いをしています。なので、娘が屋敷にいている時間はハツキさんは自由にお過ごしください」


 「わかりました。でも、私も暇な時はセリンセちゃんと一緒にいるわ」


 「それは助かります。娘は友達も少ないので喜ぶと思います」



 ヘンドラーは話を終えるとギルドへと向かった。






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