第10話 魔法が全ての世界

 私はアイリスから町のことを聞くフリをして、この世界のことを聞き出す事にした。それはこの世界の通貨や習慣など日常生活を最低限必要なことを。そして、1番気になるのは魔法についてである。もしかして私でも魔法が使えるのではないかと淡い期待を抱いていたのである。


 魔法に関してわかったことは、この世界の人間は必ず魔力を持っていて、その魔力を使って魔法を使うらしい。そして、魔法には適性がありその適性を活かして自分に合った魔法を使うということである。


 ヘンドラーは、鑑定魔法に秀でた才能があり、鑑定魔法を駆使して商人として成功を収めたらしい。しかし、戦闘魔法はイマイチなので戦いには向いていない。アイリスは創作魔法が得意であり魔道具から料理まで物作りの才能に長けいて、ヘンドラーが大商人になる手助けをしたとのことだった。


 セリンセはまだ14歳なのでどのような魔法に適性があるかわからないらしい。魔法適正は15歳の誕生日に神殿に赴きその人の魔法適性を判断してもらえる。なので、15歳になるまでは魔力の使い方の練習と魔力の仕組みの勉強をしている。


 この世界にも学校はあるみたいだが、学校に行けるのは一部の裕福な人間のみであり、大抵の平民は広場に集まってボランティアの大人たちが子供に魔法の使い方などを教えてあげている。


 セリンセは学校には行かずに家庭教師を雇っている。学校は10歳から14歳までの魔法の基礎などを学ぶ魔法学院と15歳から17歳までの専門魔法学院がある。専門魔法学院は高度な魔法の使い方を学ぶ専門的な学校で厳しい試験を突破した者しか入学することはできず、いくらお金を積んでも入ることはできない。


 私は学校にはほどんど行くことができなかったので、異世界では学校に通ってみたいと思っていたが、魔法の試験があるのでかなり難しいと感じた。


 


 「もうすぐ町に着くみたいですわ」


 「もう町に着くのですか?まだまだ聞きたいことがあったのに」


 「それでしたら私たちの屋敷に来てもっとお話をしましょう。それに、お礼をしなければいけませんので」


 「私が行ってもいいのですか?」


 「もちろんです。それにハツキさんは泊まるところは決まっているのかしら?もしよろしければ、しばらくの間私たちの屋敷に泊まってもいいのよ」


 「それはさすがに厚かましいと思いますので遠慮するわ」


 「そんな遠慮しなくても良いのよ。ハツキさんは命の恩人です。私たちはできるだけのことはしたいと思っているの。それに、娘のセリンセもハツキさんのプリンツちゃんをえらく気に入っているみたいなので、もう少し一緒に居させてあげたいしね」



 セリンセは私たちとの会話に少し入ってくる以外はずっとプリンツ抱きしめてプリンツを可愛がっていた。私はセリンセが少しでも盗賊に襲われた恐怖を思い出させないためにもプリンツと一緒にいるのは良いことだと判断していた。



 「わかりました。それでは今日はご好意に甘えて屋敷に泊めさせてもらいますわ」


 「そうしてください。私料理が得意なので美味しい料理をご用意してあげますわ」


 「本当!嬉しいですわ」



 私は外食などしたことはない。それに、ほとんどが病院の食事または流動食や点滴などの栄養補給だったので、美味しい物が食べれると聞いて心の底から喜んだ。


 

 「ハツキさん、町に着きました。今から手続きをするので馬車から一旦外に出てもらってよろしいでしょうか?」



 町に入るには身分証を見せれば簡単に入ることができるし、ヘンドラーのような貴族などは顔パスで通ることができるらしい。しかし、私は違うのである。私は身分証を持っていないので、通行税を払って町へ入らなければいけない。しかも、ただ通行税を払うのではなく審査を受ける必要もある。それは身分証がないイコール怪しい人物だからである。


 私は馬車から降りてヘンドラーと一緒に門番の審査を受けることになった。



 「この子は私のところで使用人として働くことになったハツキという女性です」



 私がスムーズに町へ入ることができるようにヘンドラーは、私を使用人として連れてきたという設定にしていた。



 「ヘンドラー男爵様、護衛の方はどうしたのですか?」



 門番は私の事には全く関心がなく、護衛者がいないことに異変を感じたようである。



 「実は、盗賊に襲われてしまったのです。しかし、冒険者たちが命かけて私たちを守ってくれたのです。町に入ればすぐにこのことは冒険者ギルドに報告をするつもりです」


 「それは災難でしたね。その女の子の審査は不要にしますので、急いで冒険者ギルドへ報告してください」


 「それは助かります。ここに通行税とチップを置いていきます」


 「いつもありがとうございます」



 門番はニヤリと笑ってとても嬉しそうである。後からヘンドラーから聞いたのだが、ヘンドラーは町を出るとき戻る時には、必ず門番にチップを渡している。

それは、平民から貴族に成り上がったヘンドラーを不快に思う人物も多いので、少しでも敵を作らないようにするためである。



 「ハツキさん、審査は不要になったので馬車の中に戻ってください。私は早急にギルドへ向かいたいのですが、ハツキさんにお話ししねければいけないことがあるので、先に私の屋敷に向かいます」



 私は馬車に乗り、ヘンドラーの屋敷に向かうのであった。

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