第9話 いざ町へ!
「わかりました。私がギルドへ提出しましょう。しかし、誰がアードラーを倒した事にすれば良いのでしょうか・・・」
「通りすがりの冒険者がサクッと倒した事にすれば良いのよ!」
「それは無理でございます。多額の懸賞金付きの盗賊を退治したのに、その賞金を放棄して立ち去るような冒険者はいません」
「でも、私はサクッと倒して懸賞金を放棄しようとしているわ」
「ハツキ様がおかしいのです。普通は放棄する人なんていません」
「それなら、あなたがを護衛していた冒険者が命をかけて守ってくれた事にすれば良いんじゃない」
「それは・・・素晴らしいアイディアだと思います。それなら、私たちを守って命を落とした冒険者の方々に名誉を与えることができ、アードラーの懸賞金で冒険者の家族にお金を差し上げることができます」
「それなら決まりね!私はあまり目立ちたくないのでとても助かるわ」
こうして、盗賊達を倒したのはヘンドラーの雇った冒険者にしてもらった。これで私は目立つ事なく平穏に町に滞在できる事になるだろう。
「こんなところで長話をするわけにはいきませんので、ハツキ様は馬車にお乗りください。私が馬車を運転します」
「あ!そうだ。さっきからハツキ様と呼んでるけど、様はいらないわ。そして、そんなにへりくだって喋る必要もないわよ。私はただの平凡な女の子なのよ」
「しかし、命の恩人に失礼な態度を取ることなんてできません」
「私が良いって言ってるのよ。それにまだあなたのお名前も聞いていなかったわ。お名前を教えてくれるかしら?」
「わかりました。しかし、私は商売がらこのような丁寧な喋り方をしていますので、あまり変化がないことをご理解してください。そして、遅くなりましたが自己紹介をさせていただきます。私はカノープスの町で商人をしているヘンドラー・マーチャントと申します。カノープスの町で商人として大成功を収めて男爵の爵位を授かった下級貴族です。そして、私の妻のアイリスと娘のセリンセです」
「私は通りすがりの平凡な少女のハツキよ」
「はい。ハツキさんは平凡な少女という事にしておきます。ハツキさん馬車にお乗りください。今から私たちは町へ戻りたいと思います。私は馬車の運転をしますので、何か町の事で知りたいことがあれば妻のアイリスに聞いてくださると良いと思います」
「わかったわ。でも少しだけ待ってね。私のペットを呼びたいわ。プリンツ出てきなさい。今から馬車に乗って町へ向かうわよ」
プリンツは私の邪魔にならないように草むらで待機していたのである。私の呼び声を聞いて、嬉しそうに笑顔で草むらからプリンツが飛び出してきた。
「可愛いです」
ずっと怯えていたセリンセが、プリンツの姿をみて笑顔で微笑んだ。セリンセは金色の長い髪のお姫様のような可愛い女の子なので笑顔がとても良く似合う。
「このワンちゃんプリンツちゃんというのですか?」
「そうよ。とっても可愛いでしょ」
プリンツはヴォルフ族の魔獣である。なのので、本当のことを知れば大混乱を巻き起こす恐れがあるので、小型犬という設定で推し進める事にした。
「うん。とっても可愛いわ。抱っこさせてもらってよろしいかしら」
「良いわよ。プリンツの毛はモフモフでとても気持ちが良いのよ。ねぇ〜プリンツちゃん」
私はプリンツの目をみんなに怪しまれないように睨みつけた。プリンツは私の意図をすぐに察知して、無敵の毛を弾力のあるフワフワの毛に変化させる。
「本当にすごくフワフワで気持ちがいいわ」
お姫様のような可愛いセリンセに抱きしめられて、まんざらでもない様子のプリンツである。
「セリンセ、馬車に乗るわよ」
「はぁ〜い」
セリンセはよほどプリンツを気に入ったのかプリンツを抱きしめながら馬車に乗り込んだ。
「ハツキさん、娘があなたの大事なプリンツちゃんをすごく気に入ったみたいなの。町に帰るまでいいからプリンツちゃんを娘に預けてもらっていいかしら」
盗賊に襲われて怖い思いをしていたセリンセが、その恐怖を忘れたかのように笑顔を取りもして元気な姿を見せているのが、アイリスにとってとても嬉しかったのだろう。だから、私にこのようなお願いをしてきたのであろう。
「かまいませんわ。プリンツも喜んでいるみたいだしね」
もちろん了承し、私も馬車に乗り込む事にした。馬車の中は思ったよりも大きくて、大人が6人乗っても余裕がありそうな大きさである。なので、私たち3人しか乗っていないので、とても広くて心地よい空間である。そして、馬車のシートもフカフカで気持ち良い。さすが商人として大儲けしているだけのことはあると私は感心していた。
「ハツキさん。本当に助けていただいてありがとうございます。主人から聞いていますが、何か町のことをお知りになりたいとか?」
「そうです。実は私ど田舎の出身のためあまり物事を知らないの。だから町で暮らすのに困らないような知識を教えて欲しいのよ!」
「そうですか。それならなんでも聞いてください。私の知っていることならなんでも教えますよ」
こうして私の質問タイムが始まったのである。
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