第8話 命石
「これで良かったのよね」
私は10人もの盗賊を殺してしまった。自分がどれだけ怪力なのかまだ把握はできていないが、殺さないように手加減はできたかもしれない。しかし、私は盗賊達を退治しないといけないと思った。
「助けていただいてありがとうございます」
馬車の扉が開き、背の高い身なりの良い男性が馬車から降りて来て、私に声をかけてきた。その男性は清潔感のある栗色の短髪で、顔立ちもスラッとしていてかなりのイケメンであった。
「ご無事で何よりです」
私は笑顔で返答した。
「しかし、こんな可愛い少女があのアードラーを倒すなんて驚きです。アードラーはイーグルネイルの『真紅の爪』のリーダーであり魔法剣士としてかなりの腕前だと聞いています」
ヘンドラーは馬車の窓から私と盗賊達との戦闘を見ていたみたいである。
「まぐれですよ。オホホホ」
私はあまり詮索されるのが嫌だったので、笑って誤魔化すことにした。
「さぞかし名のある冒険者なのでしょう。でもこんな可愛い少女の冒険者など聞いたことはありません。よろしければお名前を聞かせて貰ってよろしいでしょうか?」
「私はハツキです。冒険者ではなくただの通りすがり平凡な少女です」
「わかりました。そういうことにしておきます。助けていただいたのに余計な詮索をして申し訳ありません」
ヘンドラーは深々と頭を下げる。
「では、私はこれで失礼しますわ」
「ちょっと待ってください。まだ私はハツキ様にお礼が出来ていません。どうか、私にお礼をさせてもらえないでしょうか?」
「お礼の言葉ならさっき貰いましたわ。それで十分よ」
「いえ。私たち家族の命を救っていただいたのに、きちんとしたお礼をしないわけにはいきません。それに、もしハツキ様の許可を頂ければ町に戻るまでの護衛をお願いしたいと思います。残念なことですが私が雇った冒険者は殺されてしまいました」
「どうしようかしら?」
「是非ともお礼をさせてください。それに、イーグルネイルのアードラーを討伐したのですから、町に戻ってギルドに報告すべきだと思います。アードラーには多額の懸賞金がかかっています」
「町?この辺りに町があるのですか?」
「はい。ここから馬車を1時間ほど走らせばカノープスの町に着きます」
プリンツが目指していた町はカノープスの町である。目的地が一緒なら先程の護衛の依頼を受けても良いと思った。それにヘンドラーからこの世界のことをいろいろと教えて貰えば今後の私の町での振る舞いにも役に立つと思ったのである。
「それなら先程の護衛の依頼を受けようかしら。それと、お礼のことですがこの世界・・・いえカノープスの町のことを教えてもらう事でお礼とさせてもらうわ」
「護衛の件ありがとうございます。しかし、お礼はきちんとさせてもらいます。もちろん、カノープスの町のことはなんでもお話しします」
「あなた・・・もう大丈なの?」
馬車の中から美しく妖艶な姿をした女性が降りてきた。そして、その女性の手を強くにぎりしめて小刻みに震えている私と同じ歳くらいのお姫様のような可愛い少女がいた。
「お父さん・・・大丈夫」
「みんなもう大丈夫だ。ここにいるハツキ様が盗賊達をやっつけてくれてのだ」
母親と少女は怖くて馬車の中でうずくまって震えていたので、私の戦いぶりを見ていなかった。
「こんな可愛い少女が助けてるれたの」
「そうだ」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
少女と女性が頭を下げてお礼をする。
「気にしないでください。当然のことをしたまでです」
「ハツキ様に町に戻るまでの護衛を依頼した。もし、また盗賊が襲ってきても問題ないだろう」
「それは助かるわ。安全に町まで戻れるか不安だったのよ」
「ハツキ様、アードラーの命石をお拾いください。それをギルドに持っていけばアードラーの討伐の証拠となります。そして、一緒に殺された冒険者の命石を持っていけばアードラーの悪事を立証することが出来ます」
「命石?」
「命石を知らないのですか?」
「はい」
「命石とは魔獣でいえば魔石みたいなモノです。魔獣は死ぬと魔石が体から出てきますが、人間は命石が出てきます。命石はその人の情報が記録されています。そして、命石と身分証を魔力で紐付けすることで身分証に個人情報が随時更新されるのです。なので、命石をギルドに持っていけばアードラーを討伐した証拠になるのです」
「身分証?」
「ハツキ様は身分証を持っていないのでしょうか?」
「持っていないわ」
「原則として身分証のない方は町へ入ることはできません。しかし、小さな村などに住んでいる者は身分証を持っていないので、通行税を納めることで短期間の滞在を認めらる仕組みにはなっています。しかし、町に長期間滞在したり、何度も出入りするには身分証が必須です。ハツキ様は身分証を持っていないのなら、通行税を払えば町に入ることはできます」
「通行税・・・私お金持っていないわ」
「安心してください。私がお支払いをしたい思います。それに町に行けばアードラーの懸賞金と私からの謝礼をお支払いをいたしますので、お金の心配をする必要はありません」
「私あまり目立ちたくないのでアードラーの命石はいらないわ。よかったらあなたにあげるわよ」
アードラーはイーグルネイルの大物であり。もし、こんなか弱い可憐な少女がアードラーを倒したとなると、それは町で大騒ぎになること違いない。それに、イーグルネイルから復習される危険もあり、私がこれからおくる平穏な生活に支障がきたすと思ったのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます