天安寺裏参道 その7
素空が大門の前の広場まで来た時、フッと
素空は、裏参道に漆黒の闇が潜んでいるように思い、1町ほど先まで歩を進めた。
月明かりの中で、辺りは青白く形を現わしていたが、道の
素空が闇の手前で言葉を発した。「汝は何者であるか?闇の中で蠢くは
素空は既に
闇の中で、悪鬼となった
素空は、悪鬼と自分のために
素空の経が辺りに響き始め、素空の結界から、桑原博堂の結界へと伝わり、結界の中の桑原博堂に、のた打ち回るような苦しみを与えた。悪鬼はここで苦しみを受けることは、地獄で鬼に苛まれるのと同じだと思った。違うとすれば地獄の苦しみは永遠に続き、この結界の中での苦しみはすぐに終わり、朽ち果てた邪悪な魂が1つ転がることになるだけだった。
絶体絶命の苦しみの中で、悪鬼は鬼の名を呼んでひれ伏した。地伏妖の冷徹な顔を思い出しながら、何度も何度も頭を垂れた。
素空は、苦しみながら赦しを請う素振りを見せた悪鬼を見ながら、なおも緩むことなく経を唱え続けた。
桑原博堂は次第に萎えて行き、あわやこれまでと言う時になって、結界を破る黒い影が、萎えて消えそうになった桑原博堂を
素空は経を止め、暫らく鞍馬谷の方を見遣っていた。
素空は厳しい顔で
興仁大師は、素空が珍しく夜分に訪れたことに異変を予感した。
「素空や何事かあったのかな?察するに、火急の用なのかな?」興仁大師には何らかの異変が持ち上がったことはすぐに分かった。
素空は夜分の訪問を詫びた後、地伏妖の名と、悪鬼の様子を具に語った。
「お大師様、ただならぬことです。今もなお、鞍馬谷に通じる参道に悪鬼悪霊が潜んでいる模様です」素空は裏参道の往来がもはや危険で、常人の通行ができなくなったと言った。
興仁大師は
素空は、興仁大師に報告をすませた後、
玄空大師の部屋では夜分の訪問には触れずに、率直に本題に入った。
玄空大師はジッと目を閉じ意を決して語り始めた。「素空よ、我らは御本山にあり、悪鬼悪霊の害を受けにくいため、僧と言えども却って無防備であろう。地伏妖と言う鬼の正体を見極め、駆逐することは仏道を守ることに他ならないのだよ。素空よ、そなたが市井に下るのであれば、心して過ごすようにするのだ。
素空は、この日図らずも2度目の訪問をし、最後の時を喜びのうちに過ごした。そして、最後に1つの願い事をした。「お大師様、明日良円様の遺骨を抱えて御本山を下りる時、同行の僧をお1人付けて頂きたいのです」
そこまで言った時、玄空大師が言葉を遮り語り始めた。
「素空は、同行の僧が悪鬼悪霊に取り付かれた時どうするつもりかな?」
素空が答えた。「同行の僧はそのような不覚を取ることなどないと存じます。万一取り殺されるとも、お覚悟はできていようと存じます」
玄空大師はその僧の名を聴いて驚いた。
「
素空は、
「栄覚も心配しながら同行を許しているようじゃ。しかし、
素空は黙礼して、釈迦堂へと帰って行った。
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