エピソード12
……私はリビングのソファの上で固まったまま動けなくなっていた……。
◆◆◆◆◆
時計の針が15時を指す頃蓮さんが『風呂に入るぞ。』って言った。
だから素直に蓮さんと一緒にお風呂に入った。
一緒に浸かったバスタブの中で蓮さんは『親父のとこに行くから風呂から出たら準備しろ。』って言ったからバスルームを出た私はクローゼットに向かった。
昨日、買ってもらった服でいっぱいになったクローゼットから淡いピンクのワンピースを取り出した。
いつもミニスカートやホットパンツにキャミやチューブトップが定番だけど今日はそんな格好じゃだめだと思った。組長とは初対面だから。
それにきちんとお礼を言わないといけない。
メイクをして髪をきれいに整えて淡いピンクのワンピースを着た。
最後に私は、香水をつけた。
甘く優しい香りに包まれた。
鏡の前で耳のピアスを見ていると後ろから声がした。
「よく似合ってる」
蓮さんは目を細めた。
「蓮さんの車で行くの?」
準備が終わりタバコを吸っている蓮さんに聞いてみる。
「いや、迎えに来る」
「誰が?」
「マサト」
……マサトさんが来てくれるんだ……。
人見知りな私だけどマサトさんだったら昨日会ったし、優しい笑顔を見せてくれたから大丈夫な気がする。
私は呑気にそう考えてタバコに手を伸ばした。
それと同時に音を発する蓮さんのケイタイ。
相変わらず蓮さんはケイタイを耳に当てたまま何も言わない。
しばらくして『あぁ。』と一言だけ言ってケイタイを閉じた。
多分、電話の相手はマサトさんなんだと思う。
昨日の電話もそんな感じだったし……。
私がタバコを銜えようとしたとき玄関の方でドアを開ける音がした。
……あれ?
なんか足音が多い気がする。
一人じゃないのかな?
「失礼します」
昨日と同じ言葉と声。
そこには、頭を下げる黒いスーツ姿のマサトさん。
「入れ」
蓮さんの言葉でやっとリビングに入ってきたマサトさんは、ソファの上でタバコを銜えた私を見るとポケットからジッポを取り出し火を差し出してきた。
昨日も見たけどその速さに思わず後退りしてしまった。
そんな私にマサトさんは「姐さん、どうぞ」と優しい笑顔を向けてくれた。
断れる雰囲気ではないと思った私は恐る恐るタバコを火に近付けた。
「ありがとうございます」
お礼を言う私に「いいえ」と頭を下げた。
「どうだ?」
蓮さんがマサトさんに声を掛けた。
「はい。もうすぐ終わると思います」
何が終わるんだろう?
なんで蓮さんの単語だけの言葉でマサトさんは会話ができるんだろう?
……てか、なんでマサトさんは物凄い速さで火を差し出すんだろう?
それもこの世界の“決まり”なんだろうか?
もしそうなら、この人の前ではタバコを吸わないようにしよう……。
私はそう心に決めながら何気なくリビングのドアの方に視線を移した。
「ひぃ!!」
私の口から声が漏れた。
その声の原因は……。
リビングのドアの前に立っている人達。
その人達はドアの前に整然と並んでいた。
厳つい顔で、手を後ろに組んでいるスーツ姿の一目でそっちの世界の人だと分かる人達が私達が座るソファを見つめていた。
「どうした?美桜」
声にならない悲鳴を上げた私に蓮さんとマサトさんが会話を中断して視線を向けてくる。
だけど、私は恐怖で固まったまま動く事も言葉を発する事も出来ない。
「おい、お前ら。恐ぇ顔で姐さんを見てんじゃねぇーよ」
状況を理解したらしいマサトさんが口を開いた。
『……すみません。』
その人達は謝って困った表情を浮かべた。
その厳つすぎる顔は元々のもので、彼らはただ真剣な表情をしていただけ。
だから『恐い顔するな。』って言われても困るんだろう。
それは分かる。
分かってるんだけど。
恐いものは恐い。
『……あっ!!』
困った顔をしていた人達の一人が突然何かを思いついた様な表情をした。
みんなの視線がその人に向けられる。
その人は小さく咳払いをして背筋を伸ばした。
な……なに?
何が始まるの?
オロオロとする私にその人はまっすぐと顔を向けた。
……そして……。
満面の笑顔を浮かべた。
それを見ていた他の人達も納得したような表情をして同じように満面の笑顔を私に向けてくる。
「……!!!」
……恐い。
さっきよりもっと恐い!!
残念ながら……厳つすぎる顔の人はどんなに笑顔を浮かべても厳つい事に変わりはない。
むしろ厳つい顔にその笑顔はあまりにもミスマッチで……。
「余計恐がってんじゃねぇーか」
蓮さんが笑いながら言った。
「お前たちはバカか?余計に恐がらせてどうすんだ?」
マサトさんが呆れた様に溜息を吐いた。
「……」
……ごめんなさい……。
せっかく私のために笑顔まで浮かべてくれたのに……。
「美桜」
蓮さんが私の顔を覗き込む。
「こいつらはうちの組の人間だ。お前がここを出る時に警察の気を引く為に来ている。お前に危害を加える事はない。安心しろ」
……そうだったんだ、わざわざ私の為に……。
「ごめんなさい」
私はリビングのドアの前に立つ人達に向かって頭を下げた。『気にしないでください。』
その人達は私の言葉に自然な笑顔を浮かべた。
その笑顔は本当に自然で私は全く恐怖を感じなかった。
少しだけ部屋の雰囲気が和やかになった時マサトさんのケイタイが鳴り響いた。
「……はい。……分かった」
マサトさんはケイタイを閉じると蓮さんに視線を向けた。
「準備ができました」
その言葉を聞いた蓮さんが真剣な表情で頷いた。
それを見たマサトさんがリビングのドアの前に立つ人達に視線を送った。
頭を下げリビングを出て行く人達。
それから5分程して蓮さんが立ち上がった。
「美桜、行くぞ」
◆◆◆◆◆
マンションの地下にある駐車場。
蓮さんの部屋がある階からエレベーターで降りてきた私と蓮さんとマサトさん。
私達はガラス張りになっているエレベーターホールから駐車場の様子を伺っていた。
マジックミラーになっている壁のお陰で外からは中の様子が分からない。
でも、中からは外の様子がはっきりと見える。
大きな柱の陰にはスーツ姿の2人組が身を潜めるように立っている。
2人組の1人はケイタイを耳に当てて話しているようだった。
スーツ姿だけど、マサトさん達みたいなスーツじゃない。
蓮さん達とはまた違った雰囲気を纏っていて、厳しい視線で辺りに視線を向けている。
「行くか」
蓮さんが静かに口を開いた。
「はい」
マサトさんがケイタイを耳に当てる。
「出ろ」
低く静かな声で言った。
その瞬間、駐車場に停まっていた蓮さんの白いベンツが急発進した。
あっという間に蓮さんのベンツは駐車場から姿を消した。
その後ろから来たシルバーの普通車が2人組みの男の前で止まった。
その車に飛び乗る2人。
そして、その車もタイヤの音を響かせながら、急発進した。
シルバーの車が駐車場を出てしばらくすると私達の前2台の黒い高級車が静かに停まった。
蓮さんが私の肩を抱き歩き出した。
マサトさんがボタンを押し自動ドアを開けてくれる。
そして、もう1台の車から降りてきた人が私たちの目の前の車の後部座席のドアを開けてくれた。
「乗れ」
蓮さんに言われて私は車に乗り込んだ。
私の後から蓮さんが座席に座るとドアが閉められた。
マサトさんは助手席に座った。
斜め後ろの車がゆっくりと動き出し、私達が乗った車がその後ろを追うように動き出した。
マンションの駐車場を出てしばらくしてマサトさんのケイタイが鳴った。
小さな声で話していたマサトさんはケイタイを耳から話すと蓮さんを振り返った。
「撒けた様です」
「そうか」
蓮さんの返事を聞いたマサトさんは前を向きケイタイを耳に当てて電話の相手とまた話を始めた。
「蓮さん」
「うん?」
「施設の退所手続きって終わったんでしょ?」
「あぁ」
「じゃあ、なんで私が警察の人に見られちゃダメなの?」
「ダメって訳じゃねぇーけど……」
「……?」
「まだ、面通しがまだだからな」
「面通しってなに?」
「簡単に言えば、“紹介する”って事だ」
「……紹介……」
「今回、正式に親父にお前を紹介したら組織内に通達が出る」
「通達?」
「あぁ。通達が出ればお前は組織関係者に俺の女だと認識されるんだ」
「へぇ」
「そうなれば組織はお前を守ろうとするから警察も下手に手出しが出来なくなるんだ」
……なんかよく分からないけど……要は、組長に会うまでは私は警察の人に顔を見られないようにしないといけないって事だよね?
「……分かった」
私はコクコクと頷いた。
◆◆◆◆◆
車は繁華街から少しだけ離れた住宅街に入り静かに止まった。
目の前には頑丈そうな大きな門。
その門がゆっくりと開いた。
車は門を潜り中へと進む。
そこには、車が数十台は止めれそうな駐車場が広がっていた。
その奥にはまた門がある。
その前で車が止まった。
マサトさんが車から降り蓮さんの方のドアを開けた。
蓮さんが車から降りて私に手を差し出してくれる。
その手に掴まって私は車を降りた。
◆◆◆◆◆
……気持ち悪い……。
こんなに緊張するのは生まれて初めてかもしれない。
通された部屋。
広い部屋に敷き詰められた高級そうな絨毯。
本当にこの上を土足で歩いていいの?
テーブルにソファ、調度品の全てが高級品のようだった。
こんな状況じゃなかったらこのフカフカのソファの上で飛び跳ねて喜んでいるはずなのに……。
部屋の端に飾ってある大量の花を見て『すごい!!』って感動しているはずなのに……。
今の私にはそんな余裕なんて全く無い。
私は今からご対面する組長の事で頭がいっぱいだった。
どんな人なんだろう?
やっぱり厳つい顔なんだろうか?
マサトさんやさっき私に満面の笑顔を向けた人達の親分さんなんだから恐い人に違いない。
蓮さんとは比べ物にならない程の情報網を持っているらしい組長。
組員が100人以上もいるらしい組の親分さん。
……私にはどんな人なのか全然想像できない……。
ここに日本刀とか拳銃とか持って登場したらどうしよう……。
私、撃たれたり刺されたりしないでしょうね!?
……もう、ダメだ……。
……帰りたい……。
「大丈夫か?お前、顔色悪ぃぞ」
「……私、殺されるのかな?」
「は?誰に?」
「……組長」
「なんで?」
「分かんないけど……」
「理由も無いのに殺さねぇーだろ」
「……」
……。
理由があったら殺されるの?
どんな理由だったら殺すの?
私が会った事も無いのに引き取り人になってもらった事は理由にはならないの?
聖鈴に組長のコネで編入する事は理由にはならないの?
……やっぱり私は殺されるのかも知れない……。
「親父はお前を殺さねぇーから安心しろ」
「……本当に?」
「あぁ、それよりどう考えたらそういう結論がでるだ?」
蓮さんは楽しそうに笑っているけど私は笑えないし……。
できればもう逃げたい。
がっくりと肩を落とし大きな溜息を吐いた私は近付いてくる足音に気付いた
身体が強調って鼓動が速く大きくなる。
頭がクラクラした。
静かに開いたドア。
男の人が姿をみせた。
穏やかな表情の男の人。
その男の人は私の想像とは正反対の人で、落ち着いた優しい雰囲気を纏っていた。
……この人が組長?
その人は私の向かいのソファに腰を下ろした。
「はじめまして」
穏やかな口調と優しい笑顔。
私は緊張が解れるのを感じた。
「……はじめまして、美桜です」
人見知りが激しい私がはっきりとそう言えたのは目の前にいるこの人が蓮さんに似ていたからなのかもしれない。
「美桜さん、今日はわざわざ来てくれてありがとう」
「……いえ……」
漆黒の瞳。
力強く自信に満ち溢れた瞳。
その瞳は蓮さんの瞳にそっくりだった。
「……親父、美桜は俺の女だ。通達を頼む」
「あぁ、分かっている。だが、美桜さんに一つだけ確認したいことがある」
確認?
私に?
組長の視線が私に向けられる。
「美桜さん、蓮がヤクザだって事は知っているね?」
「はい」
「蓮がこの世界にいる限り一緒にいる君にも危険が及ぶことがある」
「はい」
「それでも蓮と一緒にいたいと思うかい?」
真剣な表情。
まっすぐな視線。
私の本心を探るような瞳。
蓮さんが私の横顔を見つめているのが分かる。
組長が言っている事は現実問題だと思う。
昨日みたいな事が蓮さんといれば当たり前のように起きるんだ。
目の前で血まみれのケンカが繰り広げられたり、人から罵声を浴びさせられたり、警察に目を付けられたり……。
今の私じゃ想像できないような恐怖を感じる事もあるのかもしれない。
……でも、私は自分で決めたんだ。
だから何も迷わない。
私の答えは決まっている。
私は小さく息を吐き出し口を開いた。
「私は何があっても蓮さんと一緒にいたいです」
私の答えに組長の表情が和らいだ。
張り詰めていた空気が解ける。
「分かった。すぐに通達を出そう」
「あぁ、頼む」
「あの……」
組長が私の顔に視線を向けた。
「私の引き受け人になって頂いてありがとうございます」
組長の顔に穏やかな笑顔が広がる。
「いや、私も君の事を勝手に調べたりして悪かったね」
「いいえ」
「君は私が出した条件をのんでくれた。だから礼なんて言わなくて良いんだよ」
穏やかな口調で話す組長。
「美桜さん」
「はい」
「私は勉強も大事だと思っている。でもそれ以上に学校でして欲しい事があるんだ」
「なんでしょうか?」
「友達を作りなさい」
「友達ですか?」
組長は静かに頷いた。
「たくさんじゃなくていい。一生付き合える友達を作って欲しいんだ。その友達と思い出をたくさん作りなさい。学生時代の思い出は歳をとってからも色あせる事がない。君にとって一生の宝になる」
「はい」
頷いた私を見て組長は満足そうに微笑んだ。
組長の言葉は友達がいない私の胸に響いた。
「マサト」
組長がドアに向かって声を掛けた。
「はい」
すぐにドアが開きマサトさんが顔を出した。
「綾を呼んでくれ」
「はい」
……あや……さん?
誰だろう?
蓮さんがタバコに火を付けた。
その蓮さんの表情が少し曇っているような気がした。
……?
私の視線に気付いたらしい蓮さんが耳元で囁いた。
「覚悟しとけ」
……覚悟?
……何を?
どういう意味?
勢い良く開いたドア。
入ってきた人を見て私は完全に見惚れてしまった。
モデルかと思うようなスタイル。
背が高くて長い手足。
細いのに胸はしっかりとある。
少し上がり気味な大きな瞳。
鼻筋の通った形のいい鼻にふっくらと柔らかそうな唇。
赤み掛かった茶色い長い髪は毛先だけ巻いてある。
その人は私を見ると微笑みを浮かべた。
「……まぁ、可愛らしいお客様だこと」
そう言うと私に近付いてきた。
「はじめまして、蓮の母です」
その人はニッコリと微笑んだ。
その顔は本当に綺麗だった。
……母?
……お母さん?
あぁ、蓮さんのお母さんか。
……は?
蓮さんのお母さん!?
そんな筈ない。
だってこの人どう見ても蓮さんとあんまり歳は変わらないでしょ?
お姉さんの間違いなんじゃないの?
「母親つっても義理の母親だけどな」
「え?」
「俺を産んだ母親は、俺が小学2年の時に病気で亡くなった。その後に親父が再婚したのが綾さんだ」
「私まだ28歳なのにこんなでっかくて生意気な子供がいたらおかしいでしょ?」
綾さんが私にウィンクを飛ばした。
そのウィンクに私は頭がクラクラした。
……あまりの色っぽさに……。
「綾、座りなさい」
組長が綾さんに優しい視線を送り、綾さんは組長の隣に腰を下ろした。
「美桜さん」
「は……はい」
綾さんに見惚れていた私は突然の組長の呼びかけに驚いてしまった。
「悪いが君の家庭環境の事も調べさせてもらった」
“家庭環境”その言葉に私の身体は強張った。
そんな私を察したらしい蓮さんが私の手を握った。
「……はい」
できれば触れて欲しくない話題だった。
組長は私に同情の言葉を掛けるんだろうか?
そんな言葉なんていらないのに……。
「私や綾を親だと思って甘えなさい」
「えっ?」
思いがけない言葉に組長の顔に視線を向けた。
優しく穏やかな笑顔。
隣の綾さんも組長と同じ笑顔だった。
「君が一番に甘えて頼りにするのは蓮だ。でも、蓮だけじゃ解決できないこともあるだろう。そんな時は迷わずに私達に言いなさい。それに君は女の子だ。蓮や私に話しにくい事もあると思う。その時は綾に相談しなさい」
「そうよ、美桜ちゃん。いつでも相談してちょうだいね。蓮に嫌な事やエロい事されたらすぐに言うのよ」
……エ……エロいこと……。
「綾さん、俺がそんな事を美桜にする訳ねぇーだろ?」
蓮さんが不機嫌そうに綾さんを睨んだ。
「本当に?無理矢理一緒にお風呂に入ったりキスしたりしてないでしょうね?」
「……」
「……」
蓮さんと私は言葉を失った。
無理矢理じゃなくて強引なだけなんだけど……。
なんで綾さんは知っているんだろう?
もしかして蓮さんの家に隠しカメラでも仕掛けているんじゃ……。
「あなたは響さんの子供だから油断できないわ。親子揃ってそういう所までそっくりなんだから」
綾さんは鼻で笑って蓮さんを睨み返した。
……組長の名前“響さん”っていうんだ。
『親子揃ってそういう所までそっくりなんだから。』ってどういう意味なんだろう?
綾さんの言葉に蓮さんは固まり、組長は気まずそうに宙を見ている。
「……?」
綾さんの言葉が理解出来ないのはどうやら私だけらしい。
そんな私に綾さんは視線を向けた。
そして穏やかな口調で話し始めた。
「私は美桜ちゃんの本当の母親にはなれないけど、困った時に頼ってくれたら嬉しいわ。なにも遠慮する事はないのよ?絶対に一人で悩まないでね。私と約束してくれる?」
「……はい」
綾さんは嬉しそうに頷いた。
「蓮」
私と綾さんを優しい瞳で見つめていた組長が蓮さんに視線を向けた。
「ん?」
蓮さんも私から組長に視線を移した。
「お前、明日からしばらくここに来なくていい。仕事もマサトに任せろ」
「あ?」
蓮さんの声が低くなった。
そんな蓮さんの変化を気にする様子もなく組長は続けた。
「美桜さんの新学期が始まるまでお前も休みを取れ。学校が始まれば2人でゆっくり過ごす時間も少なくなる」
「……」
「それに、環境が変わって美桜さんも不安だろう。傍にいてやれ。マサトを毎日お前のマンションに行かせる。指示だけ出せばいい」
組長の言葉にしばらく考え込んでいた蓮さん。
「……分かった」
そう言った後に蓮さんは小さな声で呟いた。
「……ありがとう」
それは蓮さんが組長に向けた言葉だった。
私も組長に頭を下げた。
ここまで私の事を考えてくれている組長の気持ちに胸がいっぱいになった。
でもその気持ちを伝える言葉が見つからない。
“ありがとうございます”ぐらいでは伝えきれない……。だから私は組長に頭を下げた。
蓮さんと出逢って私の環境は大きく変わりつつある。
不安が無いと言ったら嘘になる。
……でも、私は一人じゃない……。
繁華街のゲームセンターの前に一人で座っていた頃の私じゃない。
過去の傷が癒えた訳じゃない。
またいつあの夢を見るのかは分からない。
でも、私の傍には蓮さんがいてくれる。
……それだけで私は強くなれる気がする……。
深愛~美桜と蓮の物語~【完】
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