第3話 もう一人の落ちこぼれ

「何処かに居る、気高く強く美しい存在よ…我が願い、希望を聞き、今ここに現れよ 召喚」


何故、私が召喚魔法を使っているか?


魔法学園の召喚式…違うわ。


世界を救う魔法少女でパートナーが必要だから…違うわ。


答えは家を追い出されたからよ…追い出されたのよ…その出来損ないだからね。


私はこれでも、お嬢様だったのよ。


バルドール侯爵家の三女。


マリル、フランソワ、バルドール。


それが私…


でももう家を追い出されたから、今はマリルね。


アントニーお兄ちゃんは既に16歳で宮廷騎士に入団。

お姉ちゃんのシャルは、アカデミーに入って今や有名な研究者だ。


それなのに私は辛うじて魔法学園には入ったものの…成績は最下位。


家の面汚しと言われ..とうとう、金貨10枚(約100万円)を持たされ絶縁されて追い出されたわ。


本当の馬鹿というのは私の事を言うのよ。


いい? 大抵自分で馬鹿って言っている人は…努力不足なの。


私みたいに18時間勉強や訓練をしても最下位だった人間が初めて言って良い言葉なのよ?


つまり、私みたいに本当の馬鹿はまず居ないのよ?


そして私は…お金がないから大変なのよ。


アルバイトを掛け持ちしながら、どうにか生活をしているわ。


金貨10枚…これが私の生命線…これが無くなったら、人生詰むわね。


そんな私の唯一の楽しみは、この召喚魔法を唱える事なのよ。


行き掛けの駄賃に実家からこっそりと持ち出した『召喚魔法の書』。


そして、杖。


何回唱えても、何も出て来ない…いくら求めても出て来てくれない。


何時も私は一人ボッチだ。


だから、何でも良い…犬でも猫でも、私の傍に居てくれる存在が欲しいのよ。


一番欲しいのは…王子様かナイトタイプの美少年ね。


まぁ、私みたいな未熟者には無理ね。


お兄様もお姉さまも小動物なんだもん。


私みたいな落ちこぼれには無理…それでもあきらめきれないのよ。


だけど、幾ら頑張っても何も出て来ない…呼び出す事すら出来ない…やっぱり私は大馬鹿だわ。




そして物語は始まる。

「何処かに居る、気高く強く美しい存在よ…我が願い、希望を聞き、今ここに現れよ 召喚」


もう、何回唱えたか解らないわ。


恐らく数千回という単位で唱えているのに、何も出て来ないわ。


兄姉どちらも10回以内で成功させたのに…魔法陣は間違っていないわ。


私はやっぱり…落ちこぼれだわ…死ぬまで唱えても何もでないのかしら。


なんでもいいのよ…私の傍に居てくれる存在、それが欲しいの。


ひとりボッチはもう嫌だ。


猫でも良い、犬でも良い…私を見てくれる存在、それが欲しいのよ。


多分、出て来ない…


解っているわ。


それでも、それでも…私は諦めきれない。


「何処かに居る、気高く強く美しい存在よ…我が願い、希望を聞き、今ここに現れよ 召喚」


嘘…魔法陣がキラキラと輝きだした。


しかもかなり大きい。


この大きさなら、最低でも犬位の大きさのパートナーが来る。


これで一人じゃない。


嘘…嘘…なんで、幾らなんでも輝きすぎだわ。


まさか…魔法の暴走…不味いわ、不味いわよ。


ドゴーンッ、バーンッ。


大きな音を立てて光は消えていた。


『失敗?』


「うるせーぞこら、何時だと思っているんだーーーっ」


「静かにしろっ」


怒鳴り声が聞こえてきたが、まぁ放って置けば終わるわ。


どの部屋が大きな音を出したかなんて解らない物。


それより…嘘、何かが居る。


私は直ぐに魔法陣に駆け寄った。


嘘…綺麗な銀髪に女の私から見ても綺麗な白い肌。


目を瞑っているけど…それでもこの少年が凄く綺麗なのが解かる。


月に照らされた姿は正に物語の王子様にしか見えないわ。


「まさか、本当に来てくれた、なんて信じられないわ」


「ううん…貴方は誰?」


「私の名はマリル…貴方のご主人様よ!」


「ご主人様?」


首をかしげる姿は..うん凄く可愛いわ。



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