ご主人様の好きなひと(※ユキレラ失恋確定ショック!)

「うそだ……兄さんが来てくれるなんて……」


 その頃になると体内で薬物をある程度、解毒できていたルシウス。

 まだ身体の自由はきかないが、声ぐらいなら出せるようになっていた。


「喋るな、ルシウス。毒消しポーションは持ってないんだ。帰るまで大人しくしてろ」

「兄さん……」


 兄伯爵のカイルに素早く衣服を整えられた後、


「お前が無事で良かった」


 と抱き締められていた。



(はわあ……麗しき兄弟愛だっぺ)



 この光景に感動したユキレラだったのだが。




 ユキレラは見てしまった。


 自然豊かなど田舎村で育ったユキレラは視力が良い。

 ましてや同じ室内の至近距離だ。


 うれしい、だいすき、とルシウスの形の良い唇が声にならない声を紡いだのを、ユキレラは見てしまった。


 自分を抱いてくる兄を震える腕で抱き締め返しながら、ルシウスが泣いている。

 その指先は、兄カイルの背中に触れようか触れまいか迷うような動きをしている。


 ……触れてしまうのが怖いのだ。


 でも確かめたい。そんな動きだった。



(あー。幸せそうだなや。ルシウス様)



 そうか、彼は兄が好きだったのだ。

 そりゃ他の女や男など眼中にないわけだ。


 忠犬ユキレラ、番犬の役にも立たないうちに、ご主人様に失恋確定してしまった。しょんぼり。



(でも大丈夫だべ! この男ユキレラ、お兄様を愛するルシウス様ごとお慕いしてますんで!)


 むしろ、そうでもしないとこの想いを抱え込めない。つらい。




「おい、戻るぞ」


 弟ルシウスを横抱きにしたカイル伯爵が声をかけてきた。


 ユキレラが失恋の甘い痛みに浸っているうちに、現場の証拠品などの押収は完了したようだ。


 兄伯爵の腕の中で、胸にもたれてぐったりとしながらも、ルシウスの顔は穏やかだ。


 そんな弟を見るカイル伯爵の眼差しもどこか優しげだった。




 それから馬車でまたリースト伯爵家の本邸まで戻ることになるのだが、馬車の中では兄弟並んで座り、兄伯爵は弟ルシウスを自分の肩にもたれかけさせていた。


 そして繋がれた両手。



(あれだけ仲悪そうに見えてたのに。仲良しさんだべさ)



 ユキレラはもう完全に敗北だった。


 最初から見込みもなかったんですけどね。


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