我が一族は◯◯ない!(※これにはユキレラもニッコリ)
麻痺系の薬物を使われ、身体が動かないところを、衣服を剥かれていく。
(げっ、まさか僕を!?)
麻痺させたこの状態のまま犯すつもりなのか。
平常時なら、誘拐されそうが何をされようが切り抜けられる自信のあったルシウスだが、さすがにこれは不味い。
服の下では薬物の衝撃と焦りで冷や汗がダラダラと流れ落ち、肌着やシャツがじっとりと濡れてくる。
男たちの手によって、着ていたシャツのボタンが飛ぶ。
スラックスのベルトが引き抜かれ、ずり下ろされそうになったところで、それは来た。
「ルシウス、無事か! 無事だな!?」
どがん、と轟音を立てて宿屋のドアが室内に向けて飛んできた。
近くにいた男が壊れたドアに押し潰された。
すぐさま、ドアを蹴り破った、白い軍服姿の長身の男が室内に乗り込んでくる。
「に、いさ……?」
(そんな。うそ、嘘だ、兄さんが来るわけが……)
身体が動かないことがもどかしい。
頭も動かせないから部屋に乗り込んできた人物が誰か判別できない。
だが、ルシウスは魔力使いで、他人の魔力の感知能力になら長けていた。
この繊細な魔力の波動は間違いない。
(うそ、うそ、ほんとに兄さん!?)
全身から青い魔力を吹き出して怒れる氷の炎と化した男は、子爵ルシウスの兄、リースト伯爵カイルで間違いなかった。
リースト伯爵家特有の青みがかった銀髪は前髪を後ろに撫でつけ、その白い肌も高い鼻も、湖面の水色の瞳も麗しく整っている。
埃っぽいスラム街の、それも場末の宿屋の一室で、白い軍服姿の美しい男の姿はとにかく浮いていた。
その軍服の男は、床に転がってゴロツキたちに衣服を剥かれかけている人物を見るなり、全身から怒気を発した。
肌が粟立ち、ビリビリと痛いほどだ。
「な、何よ! 何なのよあんた!?」
「我が名はリースト伯爵カイル。我が弟ルシウスに随分と無体な真似をしてくれたな、女!」
男たちに殴られ、ベッドに倒れ込んでいたアデラが慌てて上半身を起こした。
そして部屋に押し入ってきた麗しのお貴族様の姿に目を白黒させながらも、虚勢を張るように喚いた。
「は? そいつはユキレラよ、何ふざけたことを……」
いや待て。怒れるこの白い軍服の男も、よく見たらユキレラと同じ顔、同じ青みがかった銀髪ではないか。
特にこの青銀の髪は滅多にないはず。
アデラも義兄ユキレラぐらいしか知らなかったし、ここ王都に出てきてからも一度も見ていない。
「え、え? ゆ、ユキレラが三人もいる……?」
一人目、今この部屋の床に薬物を打たれて転がっている。
二人目、目の前の白い軍服の男。
三人目として、後ろからまたユキレラと同じ顔の男がひょいっと顔を出したことで、アデラの混乱は最高潮に達した。
「な、なに、どういうことなの、これ!?」
「アデラ。お前はオレとお貴族様を勘違いして襲わせたんだよ。この方は伯爵様の弟君で子爵様だ。お前はしてはならない過ちを犯したんだ」
「えっ。う、嘘、ユキレラと同じ顔……!?」
「いや、だからオレが
「あ、あ、あ、
慌てて、よろけながらアデラがユキレラに駆け寄って抱きついた。
ユキレラも義妹を受け止めてやっている。
「んだー、どでんしたなや?(※びっくりしたな?)」
「
「はやるでね(落ち着け)、アデラ。めぐさいっぺ(※ブサイク顔になってるぞ)」
「こんっの、ほんでなすー!!!(※馬鹿野郎!)」
同郷の元家族だけあって、ど田舎弁が出るわ出るわ。
部屋にいたゴロツキたちも、乗り込んできたカイル伯爵も、場所と状況を忘れてポカンとしてしまうほど。
何を言っているか、まったくわからない。
(ゆ、ユキレラ、空気、空気よんで!)
どちらかといえば、『空気読め』はルシウスがよく家族や友人など親しい者たちから言われることなのだが、さすがにこの場は突っ込むしかない。
身体が動かないので内心でだが。
「騎士団本部の牢へ連行せよ。尋問は私がやる」
「はっ!」
ルシウスの兄伯爵は突っ込みを諦めたようで、ユキレラとアデラ義兄妹のやり取りをスルーして、配下にさくさく指示を出していった。
「ち、ちょっと放しなさいよ! ユキレラ! あんたも見てないで妹を助けなさいよね! このハゲ!」
「兄ちゃんもこれはさすがにフォローでぎね。お前は牢屋で反省してなさい。あとハゲてねえがら!」
「……リースト伯爵家の血族はハゲにくい一族だ」
ぽそっと、リースト伯爵のカイルが呟いた。
さすがに男として、ここは突っ込みスルーできなかったらしい。
「嘘よ! あんたたちのその青白い髪、ほっそいじゃない! 毛根弱そうじゃない!」
「……晩年まで髪も髭も、わりとふさふさだ。おい、早く連れて行け!」
ギャーギャー喚きながらも、アデラとゴロツキたちはカイル伯爵の配下たちによって連行されていくのだった。
「……伯爵様のお墨付き出たー。ハゲなさそうでよがったー」
おっといけない、ルシウスを忘れていた。
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