悪いことはできないものです

「あいつ、顔だけは良いもの。男娼館にでも売り飛ばしたらいいお金になりそうよね」




「へえ。義理とはいえ、自分の兄を売り飛ばそうだなんて、大した女だね」


 ユキレラから王都に出るまでの経緯を聞いていたルシウスは、彼の故郷の元義妹アデラに監視をつけていた。


 既に、人物鑑定でユキレラがリースト一族の遠縁で、人柄も悪くないことは判明している。

 だが、彼が王都に出てくる経緯が酷いため、念のためユキレラの故郷や人間関係の調査を行なっていたのだ。


 王都に彼女がやって来てからも監視は継続している。


 そうして上がってきた、リースト伯爵家の諜報員からの報告書を読んで、子爵ルシウスは嘆息した。


(さすがにこれはユキレラに見せられないなあ)


 ニコニコ笑顔でお茶を入れている新米秘書をちらり、と湖面の水色の瞳で見やる。


 この報告書の手紙を手渡してくれたのは彼だが、中身を見せるのはちょっと躊躇う。


 ユキレラはこの義妹に婚約者を寝取られるまでは、それなりに彼女を可愛がっていたと言っていたので。




 ここ、アケロニア王国の王都で娼館はすべて国の許可制となっている。


 オーナーは高位貴族が多い。


 そして高位貴族なら大抵、リースト伯爵家の一族の容貌を知っている。

 万が一、娼館にこの麗しの容貌の持ち主が売り込まれて来たなら、何か事件性があるものと見て、即座に保護して騎士団に報告するはずだ。


 リースト伯爵家は数代前の本家筋の令嬢が奴隷商に拐われた過去があるから、尚更だった。




 報告書にはまだ先がある。


 ユキレラの義妹アデラは場末の酒場で、適当なゴロツキに声をかけて、ユキレラを襲う計画を立てているという。


 しかも、そのゴロツキというのが、他国から流れてきた薬物ブローカーの子飼い筋。


 報告書によれば、アデラは赤みの強いストロベリーブロンドの髪と青銅色の瞳の、とても愛らしい容貌の女性とのこと。


(利用するつもりで、自分がゴロツキたちに売り飛ばされるかもって、気づいてないのだろうな)


 ルシウスは引き続き、アデラの監視を続けるよう指示を出した。


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