義妹アデラの王都入り

 アデラは、ユキレラの義妹だ。


 ユキレラは青みがかった銀髪と、薄い水色の瞳の、なかなか顔立ちの良いイケメン顔だった。

 背も高いし、それなりに体格も良い。


 アデラは赤みの強いストロベリーブロンドのウェーブのかかったセミショートの髪と、青銅色の瞳。

 背はそんなに高くないが、愛らしい顔立ちで村では男子たちに人気だった。


 代わりというように、同年代の女子の友達はいない。欲しいと思ったこともないけれど。




 二人は両親それぞれが連れ子を連れて再婚したことで、義理の兄妹となった。


 ユキレラは父親の連れ子。


 アデラは母親の連れ子になる。


 家族仲はとても良好で、特にユキレラはアデラの母親のアキレアを「母ちゃん母ちゃん」と呼んで慕っていた。

 何なら自分の父親と義母を取り合っていたぐらい仲が良かった。


 アデラにとって義兄ユキレラはとても優しく面倒見の良い兄で、大抵の我儘を聞いてくれる甘いお兄ちゃんだった。


 おやつがもっと欲しいと言えば自分の分を分けてくれたし、父親が隣町で買って来てくれた新しい文房具が欲しいと言えば、アデラのお古と交換してくれた。


 それは両親が流行り病で立て続けに亡くなってしまってからも変わらなかった。


 はずだった。




「ここが王都ね。ふうん、悪くないじゃない」


 アデラがど田舎村から王都に出て来たのは、ユキレラが村を出て三ヶ月ほど後だった。


 ユキレラから寝取った男には飽きて、とっくに別れて捨てた後だ。


 あの愚兄は、故郷で役所に出す離籍届けに馬鹿正直に「義妹が婚約者を寝とったため」などと書いた。


 ついでとばかりにその役所から、ど田舎村の親戚一同や友人知人にことの経緯を書いたハガキを出したものだから、アデラの所業はまさに秒速で村内を駆け巡ってしまった。


 そのせいで村に居づらくなってしまったアデラは、家族との思い出の詰まった小さな家を早々に売り飛ばして、その金で王都まで出てきたのだ。


 だが、寂れた村の小さな家一軒を売った程度の金ではそう長くもたない。


「さあて、どうしようかな」




 アデラはまず、労働者ギルドに顔を出してみた。


 ユキレラは王都で仕事を探したはずで、特殊スキルなどを持っていない愚兄なら、商業ギルドや冒険者ギルドは除外。

 必ず労働者ギルドに登録していると見た。


 実際その通りで、同郷を訪ねたいという理由でユキレラの現在の行方をギルドで調べてもらうことができた。


 すると、意外な事実が判明した。

 何と、あの愚兄は有名なリースト伯爵家の次男子爵の側使えになっているというではないか。


 アデラの胸の内に、黒いモヤッとしたものが渦巻く。


「……あいつ。元から要領いいとは思ってたけど、まさかお貴族様に取り入っただなんて」


 アデラを捨てて、自分だけ良い仕事や生活をしているのだろうか。



(許せない。陥れてやりたい)



 ついでに金をむしり取るなりなんなりしてやろうと思った。


 今の仕事での面子を潰してやれば、ユキレラにはもう行くところはないはずだ。

 泣きながらど田舎村に帰るしかない。


 あるいは。


「あいつ、顔だけは良いもの。男娼館にでも売り飛ばしたらいいお金になりそうよね」


 などと呟いた時点でアデラの破滅は決定した。


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