憧れの朝チュン、隣には全裸の美少年

 翌朝、ユキレラは宿屋のベッドで目を覚ました。


「あれ。いつの間にオレ、宿まで帰ってきたんだろ?」


 昨晩、酒場に行く前にチェックインしてあった部屋で間違いない。

 ベッド脇の小さな机の上に、故郷から持ってきたバッグが置いてあるのがその証拠だ。


「ん? オレ、はだか!?」


 部屋の中は魔導具の空調機があって室温が快適に保たれている。

 だが、素肌に当たるこの布団の感覚は!?


「うーん……」


 ハッとしてユキレラは小さな唸り声の発生源を見た。

 ベッドの隣には、若い青年、いや寝顔の感じからするとまだ少年だ。

 しかも布団の隙間から見える限り、彼も全裸では!?


 だが一番ユキレラを驚愕させたのは、その顔だ。


「え? ええっ!? お、オレと同じ顔!???」


 青みがかった真っ直ぐな銀髪、白い肌。

 もしかしたら薄い水色の瞳まで同じかもしれない。


 ユキレラが混乱していると、煩かったのか少年が少しむずがるような仕草を見せた後、パチっと目を開けた。


 想像通り、ユキレラと同じ薄い水色の瞳だった。




 目覚めた少年は、ニコ、と綺麗な顔でユキレラに笑いかけてきた。


 間違いない。昨晩、酒場で一緒に飲んでいた青年だ。

 暗めの酒場の照明では青年だと思ったが、実際はだいぶ若い子だったようだ。


「やあ。名も知らぬご親戚君。お前、名前は?」


 お前、とユキレラへの呼び方が慣れている。

 上位者特有の物言いだ。


 これは庶民ではあり得ない。


「き、君こそ誰なんだい!?」

「僕はリースト子爵ルシウスという。リースト伯爵家の者だよ」

「し、子爵様……しかも伯爵家の方でしたか!」


 ヤバい。


 この国、アケロニア王国は平民差別が少ないけれど、魔力を持つことが多いお貴族様を優先して保護する法律がいくつかある。


 中でも、平民が貴族を性的に襲うのは即アウトだった気がする。

 しかも被害者が未成年だった場合は去勢された上での即処刑も有り得た。


 ど田舎村で通っていた学校では、その辺の法律や決まりごとについて、先生が口を酸っぱくして注意していたものだ。




「それで、お前は?」

「オレはユキレラです。ど田舎領、ど田舎村から来ました」


 ど田舎領も、ど田舎村も、冗談のような話だが、このアケロニア王国内の正式な地名である。


 元は王女が降嫁した由緒ある飛び地の公爵家の領地だったが、たび重なる災害や他国からの侵攻などでコロコロ名称が変わって僻地・最果て化した曰く付きの土地だ。

 結果、ど田舎領ど田舎領と蔑称が定着。


 200年ほど前の当時の領主が「もういちいち訂正するの面倒だからど田舎領で良いのでは?」と言い出して国に届け出を出して受理されてしまった。

 ど田舎村の他、ど田舎郷、ど田舎町、ど田舎街がある。

 逆に今では領民自ら面白がって自分たちをど田舎者と称してる、そんな土地柄だった。


 なお、現在は王家の直轄領なので、ど田舎領主と呼ばれる不幸なお貴族様は存在しない。


 ついでにいえば、改称した後は他国からの侵略もなく平和なものだった。

 だって侵攻するたびにど田舎領、ど田舎領と言わねばならない。

 そんな名前なら要らんわと他国の皆さんも諦めたと言われている。


「随分遠いところから来たね」

「そ、そんなことより、何でオレたち裸なんでしょう? 昨晩、オレたちの間にナニかありましたか!?」


 あったらヤバい、あったらヤバい。

 下手したら本当にしょっ引かれて首が胴体から離れてしまう。

 ついでに下半身の獲物までむしり取られてしまう。


 だが、そんなユキレラの心配は杞憂だったようだ。


「裸なのはねえ。お前が飲みすぎて前後不覚になっちゃって、僕の服に吐いちゃったからさ。さすがにそのまま家に帰るのはイヤだったから、君が泊まってるこの宿屋まで連れてきて、服は宿の人に洗濯してもらってる最中だよ」

「す、すいません。ものすごい迷惑かけちまったみたいで」


 これが普通の平民相手ならともかく、よりにもよって何でお貴族様に迷惑かけてしまったのか、昨日の自分よ!


「そうでもないよ。新しい同族だもの、他の変な人たちに見つかる前に保護できて良かった」

「へ? 保護?」


 そういえば先ほど、『ご親戚君』と呼ばれたような。

 少年がベッドの上に起き上がる。

 良かった、彼はパンツは穿いていた!


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