昨晩、酒場で何があったのか

「その顔。この王都だと、モテるけど変な奴らに絡まれやすいよ」


 そう言って、ルシウスは昨日ユキレラが酔い潰れるまでと、その後のことを説明してくれた。


 昨晩は仲間と、同じ建物の地下のほうの店に来ていたというルシウス。

 あの建物はユキレラがいた一階の酒場が大衆酒場で、地下はちょっとお高めのバーになっているとのこと。


「そもそも、君……あなたは、何であの酒場にいたんです? あなた、まだお酒飲める年じゃないでしょ?」

「子供に見られるけど、僕は今年で19歳だよ。ちゃんと成人してる」

「……マジですか?」

「マジマジ」


 聞けば、彼は魔力値の高い魔力使いで、そういう人間は成長が人よりだいぶ遅いそうなのだ。


 昨晩は一階の酒場に一族特有の外見を持ったユキレラが入っていくところをちょうど見かけて、様子を見るため仲間たちと別れて付いてきたのだそう。


 それでしれっと、自棄酒していたユキレラと相席になってあれこれ話を聞き出していたそうな。

 酒場でユキレラは自分のことや王都に来るまでの経緯など、洗いざらい彼に話していたそうで。

 ルシウスはユキレラの故郷どころか、家族構成から何からほとんど既に把握していた。


 そう、義妹アデラに結婚間近な婚約者を寝取られたことも。


 だけどその義妹の実母、ユキレラにとっては父の後妻の義母アキレア母ちゃんのことは大好きで、亡くなってしまった今もたまに思い出しては泣いてることまで把握されていた。


 随分とセンシティブなことも話していたようだ。




「その、“親戚”というのはどういうことなんでしょう? 確かにあなたはオレとよく似てるけども」

「うん。この髪と目の色、あと顔立ちは、僕の実家のリースト伯爵家に特有の外見的特徴でね。君は間違いなく、うちの一族の傍系だよ」

「傍系、って……」

「遠い親戚」


 とそこへ、宿の従業員が洗濯して乾かした衣服と、簡単なサンドイッチとお茶の朝食を持って来てくれた。


 服を着て、食事しながらルシウスなる少年は、彼の属するリースト伯爵家について簡単に話してくれた。


「リースト伯爵家はこのアケロニア王国を代表する貴族家のひとつだ。魔法の大家で、一族は魔法剣士が多い。僕はそこの本家の出身で、今の当主の弟だよ。僕が子爵なのは、伯爵家が持ってて余らせてた爵位を譲り受けて家から独立したから」

「な、なるほど?」


 とても簡潔に説明してくれたが、ユキレラの頭はまだついていけていない。


 そもそも、ど田舎村出身のど田舎者のユキレラが、いきなり大都会・王都に出てきて、職を見つける前に遠いご親戚のお貴族様に出くわしたこの状況に大混乱中だ。




 朝食を食べ終えて、ルシウスはユキレラに荷物をまとめるよう指示した。


「悪いけど、この宿はチェックアウトしてもらうよ。お前を放置しておくと良くないからね」

「えっ。待ってください、オレこの王都に知り合いゼロなんで急にそんなこと言われても他に泊まる当てなんて」


 ど田舎者にそんな伝手はない。


「大丈夫、その辺は僕がちゃんと世話してあげるから。まずは本家に挨拶に行くよ」

「え、あ、挨拶って」


 本家って、有名貴族のリースト伯爵家の!?


 何やらすごい話になってきた。


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