都会で早々やらかした

 ど田舎村出身のユキレラは、義妹アデラに来月結婚予定だった男を寝取られ、その場で絶縁を宣言して故郷を飛び出してきた。


 ちょうどいい機会だ。

 ど田舎村はほんとうに、どが付くほどの田舎で、最果ての僻地とまで呼ばれている。

 仕事の口も少なく、あのまま村にいてもユキレラの将来は、いや、お財布事情はたかが知れていただろう。


 それでも、結婚して共働きならじゅうぶんやっていけるはずだったのだ。


「だから、……うん。これはいい機会だったんだ。王都ならもっとお賃金高めの働き口だってたくさんあるはずなんだから!」


 徒歩と乗り合い馬車で数日かけてやっと到着した都会、王都。

 ここアケロニア王国の中で最も発展した都市だ。

 山を背にして王宮があり、そこから扇を広げたように都市が発展している。

 王宮に住まう国王や王族は言わば扇の要だ。上手い造りだと思う。


 途中、乗り合い馬車の中で世間話をした王都に詳しい商人から、手頃な宿屋や飲食店情報を得ていた。

 宿は何とか、まずは三日分を予約。

 この三日間の間に、労働者ギルドへ行って、自分の持つスキルの詳細鑑定を受けた上で身分証を発行して、適性のある仕事の紹介をしてもらうのが良いそうだ。




 王都に到着した日のうちに、労働者ギルドでのスキル鑑定と身分証の発行までは済ませることができた。


 あとは酒場でパーっと、ここまでの鬱屈を発散しようと、宿屋近くの酒場に繰り出すことにしたユキレラだ。


 慣れない王都という土地。


 都会に来たという高揚感。


 いまだ、ど田舎村でど田舎者のままの義妹アデラや元婚約者への優越感。


 そんなものがごちゃ混ぜになった酒を飲んでいるうちに、ユキレラはすっかり酔っ払ってしまった。


 いつの間にかおひとりさまだったテーブル席の正面には、相席になった若い青年がいて、彼を相手に愚痴をこぼしていた。


「ちくしょう! 結婚式まで一ヶ月切ってたんだぞ!? それで何で旦那の妹と乳繰りあってんだよ、三人で結婚? ふざけんなー!!!」

「そっかあ。大変だったね。かわいそう」


 この青年がまた聞き上手なものだから、どんどん飲んで、どんどん話した。

 青年は、うんうん言いながら変にスルーすることもなくユキレラの話を聞いてくれた。


「はわあ……都会にも心のあったけえお人がいるんだなや〜」


 ついつい出てしまった“ど田舎弁”に、青年がクスクス笑っている。


「そろそろお酒は止めたほうがいいね。二日酔いになっちゃうよ?」

「今日だけ、今日だけ許してけろ〜。どうせ、金なんかそんなねぇんだ、職見っけておちんぎん出るまで禁酒だあ〜」

「仕事、探してるの?」

「んだ。明日またギルド行って来ねえと……」


 ああ、瞼が重くなっていく。



(あ、やば……お会計してねえ……)



 目の前の青年はニコニコ顔のままだ。


「眠いの? いいよ、寝ちゃっても。もう少し酔いが醒めたら宿まで連れてってあげる」

「あ、いんや〜。そったら迷惑は……」


 かけられない、と言いながら席を立とうとしたところで、クラッときた。




 ユキレラには、そこから先の記憶がない。


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