第21話 【閑話】 白百合家の人々

「白百合社長、最近の娘様、凄いですね!」


「私の娘が、どうかしたのかな?」


「いや、株について凄く勉強されたのでしょうね! 最近凄く調子良いですよ」



◆◆◆



本来は、株屋(証券会社)は守秘義務があるからこんな事は言わない。


だが、白百合製薬の上場をこの会社が取り仕切った事でその後のつきあいが有り、子供に社長が株を勉強がてらやらしている関係で口が軽くなっていた。


◆◆◆



「そうかね、まぁうちの子供は優秀だからね」


「そうでしょうね、いや羨ましい!しかも、会社に対する愛が強いんでしょうね、自社の株も随分買われていますね」


「そうか、そうか」


「それに比べて、他の方は余りぱっとしないですね!」


「まぁ、相場を読み切るのは難しいからね」




流石だな、百合子は優秀だ! 東吾は仕事をしながらだから、今は上手く運用が出来ていないのだろう。


その分はビジネスで成果を出しているから、まぁ仕方ないと言える範囲だ。


京子はやはり駄目だ、何処からも活躍している話を聞かない。


切り捨てて正解だ。




俺は、別に京子が憎い訳ではない。


差別は一切しない、優秀かそうでないかでのみ判断する。


それが白百合家だ。


白百合という家に産まれたのだから当たり前の事だ。


もし、京子が優秀で東吾や百合子が無能なら、切り捨てるのは東吾か百合子になった筈だ。




だが、この時に英彦(白百合製薬社長)は気が付いてなかった


証券会社の彼が褒めた娘とは「百合子ではなく京子」であった事に。



◆◆◆



「最近は随分優しいわね?どうかしたの?」


可笑しな事に今迄、クールだった輝樹が凄く優しくなった。


「いえ、最近の恵子さんは凄く綺麗になったなぁーって、なぁ皆んな!」


「「「はい」」」



このババアが白百合製薬の社長婦人だったとは知らなかった、旨い事垂らしこんで太客にすればナンバー1も夢じゃない。


「恵子さん、恵子さん、俺、明後日誕生日なんです、俺の誕生日会開いてくれませんか?」


「それって、この店を貸し切って欲しいという事かしら?」


「はい」


「だけど、何で私なのかしらね? 輝樹には他にもお客がいるでしょうに」


「せっかくの誕生日だから、大好きな恵子さんと俺過ごしたいんですよ!駄目ですか?」



幾ら掛るのかしら?


この間の300万もまだ200万はあるわ。


それにここ暫く冷たかった輝樹も何故か私に靡いているわ。


それに他のお客を差し置いて、贔屓の輝樹の誕生会を開くのは良いわね。


まぁ幾らか知らないけど?これで足りるんじゃないかしら。



「良いわ、明後日の貸し切りを私の名前で入れて置いて頂戴な」


「有難うございます」



しかし、急にサービスが良くなったわね。



「楽しかったわ...今日のお支払いは..」



「次でいいっすよ。輝樹さんに言われていますから」



「そう、今迄は一切、ツケは駄目だったわよね」


「いやぁ、良くわかんないすけど、輝樹さんに言われているんで案外、輝樹さん年上が好きだから、本気..すいません」


「良いわ、これチップ、輝樹にも宜しく言って置いてね」


「あざーす」



◆◆◆




「百合子、聞いたぞ!お前最近投資の方の調子が良いんだってな!」


「まぁ、お喋りな方ね..ボチボチですよ」


可笑しいですね、最近はずうっと横這いか下降ですのに。


「まぁ、良い、父さんも鼻が高いぞ、お前に百合のつく名前を付けた時にどうかと思ったが、正にお前にこそ似合う名前だ」


「まぁ、お父様ったら」


「この調子で頑張れ、成果次第で、お前が24歳になったら系列の会社の一つを任そうと思う!そこでの頑張りで、東吾以上に成果をあげればお前が後を継ぐ目もある、頑張れ!」


「もう、何回も聞いていますわ、その為に頑張っているのですから」


株の調子が良い?


どう言う事なのかしら。


◆◆◆



ここ暫く...親父の俺を見る目が怖い。


ミスはしていない。


だが、これと言って素晴らしい成果もあげていない。


以前は母が百合子、俺には父という後ろ盾の構図があったが最近では父も百合子側になりつつある。


京子の事を考えても、大きな失敗をすれば父は俺を切り捨てるだろう。


俺が白百合の後を継ぐのであれば、大きな仕事を成功させて会社に貢献する必要がある。


父の信頼が俺にあるうちに手を打たなければならない。


俺が仕事で大きな成功を納められないなら、百合子の足を引っ張る必要がある。


何か方法はないものか。




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