第15話 買う、買う

「あの翼、此処は何?」


「ここはご主人様と僕の新しい住処ですよ!」


「あの、翼、表札に書いてある 水城翼って誰?」


僕があの戸籍を気に入って直ぐに決めた理由は、同じ名前だったからだ。


この名前はご主人様が僕にくれた名前、だから、出来る事なら変えたくはなかったんだ。


同じ名前が売り出されていたなんて奇跡に近いよね。


「僕の名前です」


「この苗字、どうしたの?」


「買いました」


「えっ戸籍を買ったの? それって不味く無いの?」


「本来は危ないのですが、信頼できる筋から買いましたので問題はありません」


「それで、このマンションはどうしたの?」


「借りました」


「どうやって?」


「戸籍があるので僕の名前で借りました」


「そうなの?」


うん、驚いている、サプライズ成功...かな。



◆◆◆



昨日の話しで何となく思ってはいたんだけど?


人造勇者って桁が違いすぎるわ。


今になって思えば、幾ら能力が低くて廃棄されたとはいえ、それは人造勇者の中での話なのよね。


よくよく考えれば、ヒーローの欠陥品が居たとしても空が飛べたり、通常の人間よりも遥かに凄い筈だわね。



「どうしました、ご主人様?」



今日は普通のデートのつもりだったから、嬉しいけど、少しがっかりしたわ。



「何でもないわ」



「そうですか?」



「それで、翼、今日はこれからどうするの?」



「ご主人様と一緒に家具や家電を買いに行こうと思います!」



「そう」



これは、ショッピングデートなのかな? 



TKK 大村家具に翼に連れられてきたわ。


TKK、大村家具は高級家具店で有名で質は良いが値段が凄く高いのよ。


100万円くらい持ってきても上質な物なら椅子2脚しか買えない位だわ。



「翼、此処は凄く高いのよ..不相応だわ」


「ご主人様、そんな事無いですよ、ご主人様に相応しい家具、なんててこういう店にしかありません」


「そう?それならみて見れば?金額に驚くわよ!」



本当に此処は高いのよ!



うちの父親ですら躊躇するような物ばかりなんだから...



「大丈夫です、任せて下さい」



「そう、まぁ見るだけでも楽しめそうね」



翼と一緒にソファセットを見に来たのよ。


その中の一つをつい、私は見入れってしまったわ。


私の好きなドラマで使われていた物に凄く似ているわね。



「ご主人様!そのソファセット随分気に入られたんですね」


「うん、これ華麗なる家族というドラマで使われた物に似ているのよ!」


「そのドラマ、好きだったんですか?」


「うん、私がちゃんとした子だったら、ああいう生活があったんだ...そう思えてね」



あのドラマみたいな家族が...私の理想の家族、そう思えたのよね。


「そうですか」


私達が話していると店員がこちらの方にきたわ。


流石TKK、木村家具ね。


「そのソファが気に入られたんでしょうか? 流石お目が高いです!そのソファは 華麗なる家族で使っていたモデルと全く同じ物なんですよ! ドラマの中で中タクが好んで座っていた物です」


「あっやっぱり、そうなんだ、似ている筈だわ」


「もし気に入られたのなら購入されては如何でしょうか?」


「えーと、他も見させて貰える?」



480万、こんなのは流石に買えないわ。



『馬鹿じゃ無いの?貴方達みたいな若い貧乏人が買える訳無いじゃ無いの..ベタベタ触られたら困るのよ』


明らかに、冷ややかな目で見られている気がするわね。


まぁ仕方ないわ。



「ご主人様、これ気に入ったんですよね!だったら買いましょう、お金なら大丈夫ですから」


「翼、そんな勿体ないわ」


「ご主人様に使うお金に勿体ないなんて物はありません」


「翼! 本当に大丈夫なの?」


「あの、そのソファセット購入されるんですか?」


「はい、現金で購入させて頂きます」


「ありがとうございます、他にも必要な物はありますか?」


『なにこれ280万のソファセットが買えるなら上客だわ...貼り付いていたら他にも買って貰えるかも』


現金な物ね、さっきと違って凄くにこやかだわ。



「そうですね、この間取りの部屋に住むんだけど、一式揃えたいから色々見せて下さい」



「一式でございますね..解りました一つ一つ厳選した物をご案内させて頂きます」


『これ、今日来た客の中で最高の客じゃない? 凄くラッキーだわ』



「宜しくお願い致します」



「翼、無理しなくて良いわよ! 他は安い物を選びましょう」



それでも、全て30万円以上の高級品ばかりだわ。


「何言ってるんですか? ご主人様との新生活なんですから気にしないで下さい!」



新生活?あれっ、これってまるで新婚生活をスタートするみたいじゃない..



「そそそそそそうね、解ったわ、確かに新生活だわ!だったら、ちょっとだけ贅沢しようかしら」



「お金は余り気にしないで下さい、ちょっとした収入がありましたから」


「そうなの?」


「はい」



「若奥様、どうにかされましたか?」



『若奥様』うん、よい響きね。



「何でもないわ..大丈夫よ!」



この店員なんて事言うのかしら? まだ、まだ、早いわよ..



「そうですか? それではベッドからご紹介しますね!この辺りのベッドがお勧め品です」


「へぇー結構あるのね」


「品揃えの良さも当社の売りですので、高級な物も沢山取り揃えてあります。 この辺りはイギリスベッドですからかなり高級な..」



翼は大きなベッドばかり、見ているけど、私は小さい方が良いわ。


大きいと『くっつけない』じゃない?



「ご主人様、これなんか良さそうですよ」


「クイーンサイズのベッドね確かに良いわね!だけど、私や翼ならもう少し小さい方がいいわ」



こんなに広いとくっついて眠れないじゃないの...全く。




「そう、だったらこれなんか良さそうですけど...


「うん、サイズとか凄く良さそうだわ..だけどこれも、少し高いわ」



「確かに、少し値が張りますが、シモンダのベッド、五つ星ホテルでも使われているモデル何です! 寝心地は最高ですよ!」



「うん、これなら、ご主人様に抱きしめて寝て貰っても、柔らかいから、手が痛くならないと思うし良いんじゃないのかな?」



「ななななな、何を翼は言っているのかしら?だけどそうね、確かに柔らかいわ」



「それじゃ、これでお願いします!」


「はい、畏まりました」



シモンダのベッド、228万円を即決しちゃって大丈夫なのかな?



「それじゃ、他の物も見せて下さい」



「はい、ただ今、ご案内いたしますね。」



「これが良いと思いませんか?」


「こっちも捨てがたいわ」



カリダのダイニングセット...120万円。


高級羽毛布団一式...160万円



オーダーメイドカーテン 220万円




「有難うございます..これで一式揃買い揃ったと思いますが如何ですか?」


「ええっ、良い物をありがとう。



翼、本当に大丈夫なのかな?



頭の中で計算したら小物も含んで1280万もするわよ。



「そうですか? はいこれで足りている筈なんだけど数えて下さい」


厚い封筒が13個?


「ちょっと待って下さい!金額が多いのでもう二人程呼んでまいります」



凄い、本当に持っていたわ。


だけど、これ数えるの大変そうだわね。



「それじゃお願い致します。」


カウンターの所で2人してお金を数えているわ。


結構、大変そうね。



「はい丁度、1280万円ありました、それではこちらの書類に住所をお書きください!商品は後日配送して、その場で組み立てさせて頂きます」


「はい」


下手したら家が買える金額なのに...一体どうしたのよ...



◆◆◆



「いいなぁ、あの若奥さんが羨ましいわ」


「あんなにイケメンの旦那さんが居て、高級家具を値段も見ないで買えるなんて..羨ましすぎる」


「だけど、旦那さんの方がご主人様って呼んでいたから、あのお金、奥さんが稼いでいるんじゃないかな?」


「だったら余計に羨ましいわ...若いけど女社長なのかな?」


全然違うわよ!


今の状況に私の方が戸惑っているわ。




「それで、翼今度は何処に連れて行ってくれるの?」


もう驚かないわよ。


ええっ、絶対に!



「そうですね、次は安田電機で家電を一式揃えましょうか?」



「ええ、良いわね!」



「そのテレビは最新型の8Kテレビですね..80インチと大画面なので映画館並みの映像と音楽が楽しめます」



ここでも、最初は誰も話しかけて来なかったんだけど、ちょっと高い冷蔵庫を翼が即決したら、店員さんが離れなくなったのよね。



「158万円の金額は兎も角、ちょっと大きすぎる気がする、二サイズ位小さいのありませんか?」



「それでしたら、こちらの商品は如何ですか?60インチでお値段もグッと安くなり40万円ですからお勧めですよ」



「ご主人様、これどうですかね?」


「凄くいいわね、それにしましょう」



「それじゃ、これを買いますが、他も見せて頂けますか?」


「はい、勿論でございます。」



買うと解ると本当に店員って現金なものね。



「電子レンジはこれ、洗濯機はこれ、ついでに食器洗いに、空気清浄機に掃除機に炊飯器、他に新生活で必要な物で、最新の物を見せて下さい!」


「はい、これはあれで、あれはこれで、これは最高の物です」



「それじゃ、全部頂こうかな? ご主人様も良いですか?」


「いいの?」


「勿論ですよ、ご主人様」




結局、これらの商品も全部纏めて、送って貰う事にしたのよね。



◆◆◆



「ご主人様、そろそろ、遅いし食事して帰りませんか?」


「そうね」


「それでお願いがあるんですが、明日も、そのデートしてくれませんか?」


「ええ、良いわよ」



しかし、信じられないわね...凄すぎるわ...


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