第12話 戸籍とお金
「20代前半の男の戸籍が欲しいだって? あるにはあるが高いぜ!」
僕は、今、戸籍屋に来ている。
戸籍屋とは何かって?
文字通り戸籍を売っている人だ....当然真面な仕事ではない。
だが、裏の仕事では結構有名な仕事だ。
例えば、財産の無い老人が死に掛かっている。
彼は、貧乏だったが借金をした事が無い。
だが、財産も無い...奥さんに財産を少しでも残したい。
そういう時に使われる事もある。
こういうケースでは「当人が奥さんと離婚をして戸籍を売る」
死んだあと、葬儀も行わずに死亡届も出さない。
そして死体は裏で処分される。
そうして戸籍を売る。
戸籍屋は相手に対価として500万程度のお金を払う。
こうして、亡くなった人間は親族にお金を残す事が出来て、戸籍屋は空白の戸籍を仕入れる事が出来る。
この戸籍はどういう人物が買うのか?
一例だと詐欺師だ。
まず、借金の無い戸籍を白戸籍と言い「良質な戸籍」として扱われる。
今迄、借金をしなかった...そういう人間なら確実に、多額の借金が可能だ。
なりすましをして多額の借金をしてお金をかき集め...借りられなくなったら、自殺に見せかけていなくなれば良い。
また、犯罪者が新しい人生を始める際に別人になれば、前の人生は関係なく新しい人生を歩むことが出来る。
ともかく、戸籍という物は裏で欲しがる人が多い。
そうした、人たちの為に出来た商売...それが戸籍屋だ。
ブラックな仕事の反面...意外に戸籍屋は信頼が置ける人物が多い。
それはリピーターが居てお金を落とすからに他ならない。
また、口の堅さが無ければ顧客に信頼が得られず、場合によっては殺される商売だ。
戸籍のリストを見せて貰った。
何人ものリストを見せて貰ったが、勿論状況の情報しか書いていない。
その中に気に入った物があった。
22歳の少年で孤独死した者...彼には両親が居なくて尚且つ数年の間、引き籠っていた。
その間のお金は祖父母が出していたが、祖父が死んで収入が無くなり...そのまま引き籠って死んだ。
その祖母が自分の老後のお金をどうするか考えた結果...此処に行きつき売られたという事だ。
しかも、これが良いと思った理由が...
「それはな、俺が直接仕入れた奴だな」
そう、この戸籍はこの男が直接仕入れた物、間に誰かが入っていないから足がつきにくい。
「これが欲しい..幾らだ」
こういう交渉の時はぶっきらぼうな方が良い。
「それは高いぞ!4千万だ、その代り、住民票から、保険証 印鑑証明まで全部ついているぜ!しかもそいつには友人もいないし、顔写真が必要な登録も一切して無いから、絶対にバレない!最高の戸籍なのは保証してやる」
ただ、あくまで買えればだ。
今の僕にはこれを買うお金はない。
だが『手段はある』
「7千3百万で買うよ...その代り、特殊な払い方で税金も支払って貰う事になるが良いか?」
「マジか? 話を聞こう..」
僕はドラゴン6の一等賞金が当たったくじと紙を見せた。
「今回1回こっきりだが、ドラゴン6に不正が行われる情報が手に入ったんだ、そこで購入したらものの見事に当たった」
「そうか、だがそのくじが本物だという証拠は?」
「先にくじを渡す!換金できるのが解かってからの取引でいい」
「それなら良いだろう!換金できるのが解ったら、俺がお前に3百万返してやるよ...7千万で良い、その金で何処かの賃貸を借りろ、そこに直ぐに住民票を移して、印鑑手続きをして国保の切り替えをすれば、問題無い、そしたらお前はもう別人だ...古いアパートの引き払いはサービスでしてやるよ」
なんだか随分と善人な気がする。
◆◆◆
半信半疑で俺は銀行に行った。
くじと一緒に貰った紙には購入の経緯が書いてある。
購入した店から、くじを手に入れた経緯迄、詳細に書かれていた。くじはあっさりと本物だと認められた。
マジか?これ本物だぞ....彼奴、なにもんなんだ。
◆◆◆
僕は銀行の前で待っていた。
くじは『本物』だから問題無い筈だ。
「本物だったな!マジであんた何者なんだ!」
「僕は孤児でね...そこから先は言いたくないな」
まぁ、こんな物で良い筈だ。
「まぁ、客を探らないのもこの仕事の鉄則だ!ほらよ3百万、それと今の住民票と保険証と実印と印鑑証明だ!」
「有難うございます」
「礼を言うのは俺だぜ!あんがとよ! 」
「また、何か相談する時はお願いします」
「ああ金になるなら協力するぜ!」
男は笑顔で去って行った。
まぁ金払いが良い客だから当たり前だよな。
◆◆◆
僕は近くの不動産屋さんに行ってみた。
笑顔で女性の店員が迎えてくれた。
「どんな物件をお探しですか?」
どうしようか?
買うなら、もう少しお金が溜まってからにした方が良いだろうな...
ネットの情報から考えるなら...
「家賃が20万円位の物でセキュリティがしっかりした物で直ぐに住める物をお願いします、他は保証人ではなく保証会社が使えるのが条件です」
「そうですか、それじゃ今から資料をご用意しますね」
幾つか物件を見せて頂き、3LDKの物を選んだ。
メゾネットになっていて最上階なので専門の屋上がついている..しかもペット購入も可能でオートロックに管理人在住うん問題無い。
しかも、駐車場も別料金だがあるから、先々、車を購入した時にも良いだろう。
しかも、この会社の自社物件なので手続きが簡単だ。
「ここに決めます」
「そうですか! 自画自賛じゃないけど、これは凄く良い物件ですよ!ですが見ないで決めて良かったんですか?」
「はい、内覧中に他の方に取られたら悲しいので即決させて頂きます」
それから手続きをした。
その際に、銀行口座を作って無い事に気が付いたが。
「後で構いません」
と笑顔でお姉さんは答えた。
近くの銀行で口座を作り、ついでなので、住民票の移転と念の為、印鑑を変えて印鑑の住所変更を済ませた。
もう、夕方か?そろそろ帰ろう。
当たりくじはもう一枚ある。
明日は僕の分を換金に行こう..
そうしたら、ご主人様の為に色々買える。
ようやく、少しだけ恩返しができる!
◆◆◆
「随分、遅かったわね..」
本当の遅いわ、一体何をしていたのかしら?
「すみません、物珍しくて色々見ちゃいました」
「別に良いわ!翼がくじに当たったから余裕があるから今日も外食しちゃおうか?」
「良いですね」
「うん、翼は何が食べたい?」
「ご主人様と一緒なら何でも良いです..」
「そう、だけど、偶には翼が選んで!」
「そうですか? ならカレーとかはどうですか?」
「良いわね! いきましょう」
うん、翼の笑顔は凄く可愛いわね。
毎日が凄く楽しいわ。
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