第8話 僕の宝物

ご主人様からスマホというのを借りた。


最初は、言葉しか解らないからそれで色々調べたけど、文字が解らない。


文字、うん少し難しいけど暗号解読は施設で教わったから問題ない。


スマホを叩くこと3時間、どうにか文字は解読できた。


日本語は確かに難しいが、財宝のありかとかの暗号に比べれば簡単だった。


さてとこれからどうしようか?


知識は得られるだけ得た方が良い。


日常生活で問題がないレベル位までは覚えた。


ただ、このスマホというのは、凄く使い勝手が悪い。


色々考えて、ご主人様が見せてくれたパソコンを使わせて貰う事にした。


うん、こっちの方が見やすいし凄く楽だ。



作業しながら部屋を見まわした。


凄く質素だと思う。


この部屋にはベッドすらない。


本当に必要な物、最小限しかない。


だったら、僕がお金を稼ぐべきだ。


賢者様や研究者の中にはお金を稼ぐのが苦手な人が多い、そう教わった。


その場合はパートナーである僕が稼ぐのは当然の事だ。


ギルドにでも入って獲物を狩れば良い、当座の間はオーガ辺り狩ってくれば生活費に困らない筈だ。



無い!無い!この世界にはギルドも無ければ、魔物もいない...お金が欲しいのに、ご主人様の為に必要なのに。


何か無いか...お金、お金...が欲しい。


働きたいけど、僕には身元を保証する人間が居ないから働くこともできない...


身元は後でどうにか偽造するにしても、その前にお金がないと何も出来ないじゃないか...




結局、今の僕にできてお金を増やす事が出来そうな物は、投資とかギャンブルとかしかない。



このパソコンの中にはご主人様の株の取引きソフトが入っていた。


今の僕に出来そうなことはこれを増やすことだ。


だけど、これはご主人様の物だ、勝手に触るわけにはいかない。




ご主人様が帰ってきた。


ただ、文字を覚えただけなのに凄く褒めてくれた。



そして今日は、今まで食べたことが無い、凄くおいしいご馳走だった。


すき焼き...知っている。


これが高いという事をネットで知っていた。


しかも、自分は余り肉をとらないで、僕の茶碗に沢山入れてくれた。


拾ってくれただけでありがたい...


生かせて貰えるだけでありがたい....


それなのに、ご主人様は凄く優しい。



少しでも力になりたい。


この人の笑顔が見たい。


喜ぶ顔が見たい。


そう思った。


勇者になるよりも、お姫様と結婚する未来よりも...この人の傍に居たいそう思った。




シャワーを浴びてパジャマに着替えた。


ご主人様が僕を見つめている。


好意を持たれているのは解る。



僕達人造勇者にそれを望む者もいるから。


お姫様の伴侶として選ばれた場合『出来ないと困ってしまう』から知っている。



「どうかしましたか? ご主人様!」


あえてそう答えた。



もし、本当に僕が欲しいなら最初位はご主人様から求めて欲しい..


それに僕の髪の毛からつま先まで全部ご主人様の物なんだからいつ求めてくれても構わない。



「へぇー少しは綺麗になったじゃない!」


ただの言葉、だけどこれにすら愛情が感じられる。



「ありがとうございます」



澄まして答えたけど。愛おしさがこみ上げてくる。


僕はどうしようもないくらいこの人が好きなんだ。



「それじゃ、さっさと寝るわよ!」




「何、毛布をとろうとしているのかしら? 一緒に寝るのよ...」



「昨日と違って、今日はちゃんと綺麗になったんだから良いわよ...ほら」



ご主人様が僕の胸元でうずくまるように寝て来た。



どうして良いか解らない。



今の僕には時間は沢山ある..


今はこの愛しいご主人様の寝顔を見ていたい...そう思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る