第8話 せいれいのかごをうけとった!

 勇者は魔王の間で微動だにしてしなかった。

 ステータス画面の残り時間だけが、ただただ減っていく。



 残り:5分29秒



 焦ることもせず、時折、ふぅと深い息を吐くが、何をするわけでもない。



 残り:2分22秒



 一体何を考えているのだろうか。ここで、勇者の心の中を覗いてみることにしよう。

「ふっふっふ。俺は気づいてしまったのだ。この残り時間の真実に。かつて、こんなゲームFINALFANTASY Ⅵがあった。――空中に浮かぶ魔大陸が崩壊するまで約6分。最後は飛空挺が助けに来てくれるのだが、仲間シャドウがまだ一人やってこない。最後まで仲間を待ち続けるか、先に飛空挺に逃げ込むか選択を迫られる。そして待ち続けること、残り5秒3秒かも。そこでようやく仲間がやってくるのだ。先に飛空挺に逃げ込むと、仲間は二度と戻らない……つまり、残り時間ギリギリまでここで何もしなければ、何かが起こる! 俺はそう確信しているのだ!」

 


 残り:1分09秒

 


 残り:0分30秒

 


 勇者は冷や汗をかいてきた。何も起こらなかったらどうしよう。ただ10分時間を浪費したただの馬鹿者ではないか。いやいや、そんなことはない。きっと何か起こるはずだ。奇跡を信じて、ただ待ち続けた。

 

 

 残り:0分8秒

 


 残り:0分3秒

 


 なんと、ここでステータス画面のカウントダウンが止まった。

「!」

 そして、魔王の間が暗くなり、キラキラと輝きだす。なんと、勇者の目の前に精霊が現れたのだった。


「勇者よ。あなたの精霊を信じる気持ち、確かに受け取りました」


 おお、いいぞ。精霊の力とやらで早く俺を魔王城から脱出させてくれ! 勇者は思わずそう言いたかったが、我慢してゴクリと唾を飲み込んだ。


「私の力をあなたに分けましょう。精霊の加護がありますように!」



 ゆうしゃのHPとMPがぜんかいした!

 レベルが99にあがった!

 さいだいHPが120あがった!

 さいだいMPが173あがった!

 ちからが34あがった!

(以下略)



「……は?」



 そして、時は動き出す。

 残り:0分0秒



違う、そうじゃない!鈴 木 雅 之


 魔王城は崩壊しました。

 ゲームオーバー。

 オートセーブされた場所、魔王城崩壊残り10分の時点に戻ります。

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