第7話 ゆうしゃはかいふくした!

 残り9分25秒


 勇者は懲りずに魔王の私室にいた。決して魔王の日記を読むためではない。

 彼の目は部屋の隅にあるベッドに向けられていた。そして、また一つの仮説を立てたのだ。


「もしかして、ここで眠ればHPもMPも回復するんじゃないのか?」


 魔王のベッド。横になるだけで呪われてしまいそうなネーミングだが、HP1の勇者にはそんなこと気にしてはいられなかった。

 宿屋なら一晩眠ればHPもMPも全快する。しかし残り9分弱で魔王城は崩壊。とすると……。


「8分間眠ってみよう」

 もしかしたら、迷宮脱出呪文リミレト1回分ぐらいのMPは回復するかも、との期待を込めて勇者は眠りについた。



 寝過ごして魔王城崩壊。ゲームオーバー。

 時間を意識するあまり眠れずにそのままタイムアップ。ゲームオーバー。

 挑戦すること数回。なんと、タンスの中から目覚まし時計を見つけて、タイマーをセットする。そしてついに、8分間眠ってから目覚めることに成功したのだ!



 残り0分22秒



「おおっ、やった! やったぞ!」

 目覚めた勇者がステータスを確認する。



 勇者

 LV:87

 HP:42/857

 MP:10/248

(以下略)



 ふっふっふ、これが攻略法だったのか! 魔王よ、自分の私室を使わせるなど、粋なことをしてくれたもんだ! せっかくだから貴様の日記を全ていただいて帰るとしよう。

 勇者は勝ち誇った顔でそんなことを思いながら、両脇に日記を抱えて魔法を唱えた。



迷宮脱出呪文リミレト!」



 しかしふしぎなちからでかきけされた!



「なん……だと!?」


 魔王城は崩落しました。

 ゲームオーバー。

 オートセーブされた場所、魔王城崩壊残り10分の時点に戻ります。


<おまけ>

 瞬間移動呪文ルラーもだめでした。

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