たいじ
「お互い、用意がいいな」
踏めば破裂する筋張った葉脈が累々と連なり、毛細血管のように広がった茶褐色の地面は、少しでも力が偏ると鶯張りの廊下と遜色ない喧しさで鳴き声を上げる。吹き抜けた風にも拍手を送る落ち葉の喧騒の中で、高野は手にスコップを、泉は牛刀を持ち、向かい合っていた。
「どうしてこうも霧が現れ、私たちを阻もうとするのか。わかったよ」
力んだ眉間に怒りが浮かび上がり、牛刀を持つ手に血管が隆起する。
「あー、それはただの気象現象だろう?」
「だからあんたは、私よりも劣ってるんだ。そんな風にしか捉えられない貧弱な感性だから」
「それはさ、生まれ持ったもんだから。ケチつけるなよ」
旧知の仲。犬猿。腐れ縁。二人の関係はどれにも当てはまる。長い時間をかけて築かれた人間関係に忌憚はない。
「悪い奴なんて幾らでも見てきた。清濁併せ飲むように庭師として、やれることをやってきた。けどあんたは、」
「なら、切ってくれよ。ここの霊樹も、バッサリと」
「ふざけんな!」
泉の一喝を受けた高野から軽々しさが消える。杖代わりに地面に突き立てていたスコップの先端を泉に向けたのだ。
「あ、そう。なら、君は必要ない」
発汗した手から牛刀が滑り落ちるのを嫌った泉は、今一度握り直す。それはほんの些細な、目で捉えることは先ずできない小さな動作だったが、高野が首を切断するようにスコップを振るきっかけを与えた。
「!」
泉は間一髪、後ろに下がって避けたものの、高野の殺気は継続していた。
「驚くなよ! 分かってただろ?」
鉄の塊を一切の躊躇もなく首に向かって振る。それは計り知れない衝撃である。目の前で往復するスコップに泉は腰が引けて後退に後退を重ねたところ、背後の木に通り一遍な守勢が阻まれてしまう。
「泉」
立ち向かうことしかできない状況で、高野は至って素朴に、まるで日常の延長にあるかのように泉を呼んだ。突飛な問いかけは脳の鈍化を呼び込み、切羽詰まった身の上を度外視して答える。
「な、なに?」
その瞬間、緊張は途切れ、間の抜けた空気が二人の間に流れた。
「やっぱり、なんでもない」
弛んだ糸を断ち切るようにスコップが泉の頭に向かって振り下ろされる。
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