余白は埋めないで

赤いもふもふ

余白は埋めないで

「それじゃあ解散」

 卒業式のあと、教室で先生に言われて解散する。みんながそれぞれに別れる中、彼女もまた仲のいい友達と一緒に教室を出ていった。

「……これで、終わりか」

 誰にも聞こえないように呟いて、僕も教室を出る。たくさんの人に紛れていると、後ろから肩を叩かれた。

「よっ、卒業おめでとう」

「ん、おめでとう」

 合流した翔太と僕はいつものように玄関へと向かう。

「見慣れたこの廊下も、もう見れないのかー」

「そうだね、なんだか変な気分だよ」

「はは、だな」

 歩きながら、僕らは三年間の思い出を語る。文化祭に修学旅行、思い出してみれば話は尽きない。

「でも結局、彼女は出来なかったか」

「なにそれ」

「いやほら、思ってなかったか? 高校入れば勝手に彼女ができるって」

「夢のような話だね」

 まあ、そんなわけないよなと、翔太は笑った。

「でも、告白のひとつくらいすりゃ良かったな」

「今更言っても意味ないよ」

「……いや、そうでもないぜ?」

「は?」

 ニヤリと笑って、翔太はたたっと駆けていく。その先には美玲さんがいた。

「美玲、好きだ。付き合ってくれ」

「「は?」」

 僕と美玲さんの声が重なる。いきなり何を言い出すんだと思っていると、案の定翔太の頭にげんこつが落ちた。

「ふざけるのもいい加減にしなさい」

「ふざけてなんかねーよ、本気さ」

「へー、じゃあ私がいいよって言ったらどうするのよ」

「うえ? いや、そりゃねえだろ……まあ、ごめんなさい?」

 ごんっ、とまたげんこつが落ちる。

 幼なじみだからこそ言える冗談ではあるんだろうけど、美玲さんには同い年の彼氏がいるんだからあまり変なことはしちゃだめだろ。

「翔太、美玲さんに迷惑かけるなよ」

「あら悠希君、卒業おめでとう」

「ああはい、ありがとうございます」

「べっつにいいだろー? 誰も本気にゃしないって」

「分からないよ、翔太たちのこと知らない人だっているんだから」

「そんな奴らにゃ勘違いさせてたっていいだろ別に」

 はあ、とため息が出る。美玲さんのこと何も考えてないじゃないか。

「いいんですか、こんなことで」

「別にいいわよ、私も彼ももう慣れてるから」

「ああ、それはまた」

 なんとも悲しいことだ。時折なんでこんなのと友達やってるのか分からなくなる、まあ根が良い奴だからだけど。

「そういえば悠希君、この後予定ある?」

「え、予定ですか? ありませんけど」

「良かった、この後翔太の家でパーティーするの、聞いてたかしら」

「そうなんですか?」

 どうなんだと視線で聞くと、翔太は不満そうに頷いた。

「僕が参加しても?」

「もちろんよ、ね翔太」

「あーあ、せっかくサプライズだったのにばらしやがって」

「なによそれ、隠してていいことなんて何かあるの?」

「あるさ、こいつが驚く! 俺、楽しい!」

 なんだそれはという空気が流れる。このすっとんきょうさには美玲さんも苦笑いを浮かべるしか出来ないみたいだ。

「どうだ!」

「はあ、どうだじゃないよ。とにかく、着替えたらお前ん家行けばいいのね」

「そういうこと」

 一通り話がまとまったところで、僕は翔太達と別れて家路に着く。

 学校の校門に着いたところで、ふと思い出した。

「告白か、僕もできれば……なんてね」

 誰にも聞こえないように呟いて、僕は校門を出た。

 

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