ホシゾラの依頼
水神鈴衣菜
ソラ
はあ、疲れたなと、僕はいつもの草原、夜中に寝転んでため息をつく。
今日なにか起きたとかそういう訳ではなく、特になにをすることもなく一日が終わってしまった気がした。
なにもしていないのに疲れたと思うというのは変な話だけれど、いつ依頼が舞い込むか分からない緊迫した状況で疲れない訳がないとも言える。
生きることに精一杯だと、ただそこに存在することだけでも疲れてしまう。
今日もまた星は満天に広がっている。
あの中のひとつでも手に入ればと空へ手を伸ばすけれど、なににも届かない。
何度目か知れない諦めと、ため息。
その時、今日はいないと思っていた僕の隣人が僕を覗き込んできた。
隣人は、目をすがめる僕を気にもせずに伸ばされたままの手になにかを握らせてくる。
「依頼よ、私の隣人さん」
ああ、また憂鬱な時間が来てしまった。
僕は何度目か知れないため息をまた増やしながら、持たされた拳銃を手に収める。
「なんの依頼だ?」
「暗殺」
「またそういう依頼を取ってくる」
「そういう依頼をしてくる向こうが悪いでしょうな」
「元はと言えばお前が」
「はいはい、いつものお話ね」
誰しも、公にできない願いがある。
それを叶えて回る二人組、人呼んで《ホシゾラ依頼社》。
僕がソラ、隣人がホシ。
実は僕たちが最初ではなく、《ホシゾラ依頼社》は何代か続く由緒ある物なのだ。
なぜ僕たちが選ばれたのかは分からないが、危険な依頼ほど高額な感謝料が入るため仕方なく──いつもホシが依頼を取ってくるため、本当に仕方なく──やっているのだ。
「場所と相手は?」
「場所はこの街のはずれの一軒家。時間は明日未明、寝込みにやってほしいって言ってたわ。相手は魔女、殺害と遺体の処理までが依頼内容だったわね」
「……多いな、魔女の暗殺」
「そんなものいたらなってみたいわよ。わざわざ出向かなくても人殺しができるでしょう」
「無理だろう、呪詛なんて効くものじゃない」
「とりあえずぐずぐずしてないで早く行くわよ」
はあ、とまたため息をひとつ増やして、僕は満天の星空の下、それには似合わない仄暗い依頼を達成しに草原を後にした。
ホシゾラの依頼 水神鈴衣菜 @riina
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