超絶の領域(1)
キンゼイが次の目標へと視線を巡らせると、ブラッドバウの
(彼らはわずか二人で二本のスリングアームを撃破したというのか)
自由に動いているというのはそういうこと。
ジャスティウイングのキャストオフした機体も壮絶なまでのパワーで20mもあるブレードを弾きとばす。近衛隊とリキャップスの合同部隊がアームを焼き溶かす。それでロルドシーパはスリングアームのすべてを失った。
(勝負あったな。いくら膨大なパワーで艦砲並みの大口径砲を使えようが、防御フィールドを張れようが、距離を詰められて終わりだ)
関係性から、彼がキュクレイス皇女に投降を呼びかけてみるべきか迷った。
「よくも……。よくも、この小虫どもが。皇女ともあろう私にとことん逆らいおって。もう許さぬぞ」
キュクレイスの命を表す光が真紅に染まっている。激情に駆られ、髪を逆立てるかのごとき様相で憤激する姿が容易に想像できた。
「のちの臣民と思い加減してやったというのに、そこまで牙を剥くならもうよい。望みどおり掃滅してやろうぞ」
主たる武装を失ったというのに怯える気配は皆無。怒りを表すかのごとく強く踏みだした40mの巨体の腰裏の基部からスリングアームのプラグがパージされて落ちた。
(この異様な気配、どうした?)
隙だらけに見えるのに危険を感じる。
(まだなにかあるというのか?)
『防御フィールドが消失しました』
システムがセンサー情報からアナウンスしてくる。
この期に及んで鎧まで自分で脱いでしまったというのか。不気味な行動に皆が息を呑んでいる。
「強がっても、結局はもう降参なんだろ。それならデカブツから降りな」
ポルネ・ダシットが重い空気を振りはらうように芝居がかった口調で訴える。彼女だからこそできる芸当だ。
「これはおかしいです、キンゼイ様。殿下はまったくあきらめてなどいらっしゃいません」
「うむ、私にも見えている。彼女を止めて……」
ポルネのフェニストラが発砲した。威嚇するつもりなのか、ビームの向かう先はロルドシーパの膝である。
「降参する理由を作ってやるさ」
「駄目です、ポルネさん!」
ビームが膝を破壊して巨躯を崩すかと思われた瞬間、宙空に金色の花が咲いた。花弁だけの花。そんなふうに見える。
花はポルネ機に向かって開いている。本来の
『未知の力場が発生しています。警戒してください』
ロルドシーパがゆっくりと腕を突きだす。前腕の装甲が炸裂音とともに弾けとぶと、下からレンズのような機構が現れた。頭部のセンサーガードがくるりと後ろに回転すると、そこにもレンズが備えられている。
『力場増大。注意してください! 注意してください!』
アナウンスがけたたましい。
「まいったな。本物のリューグだったみたい」
「そうなの?」
「
少年少女が降りてきている。ステヴィアに聞かせるつもりかレーザー回線をつなげてきていた。
「あれは……、兵器なのかね?」
尋ねずにいられない。
「Cシステム。周囲の空間の一定以上の強度を持つエネルギーを自在に使える形に変換する兵器。あの花っぽいのはビームが複層的に変換されてあんな形に変化してる」
「あたしもそういうのがあるってだけしか聞いたことない」
「そうそう使っていいものじゃないからさ。あれは惑星規模破壊兵器」
(惑星? 破壊だと?)
キンゼイは驚愕する。
それこそアームドスキンが数十機もいれば惑星を破滅に導くことは可能。都市など数分もあれば焼き尽くせる。しかし、それは惑星を破壊しているのではなく文明を破壊しているだけ。
ところがジャスティウイングは惑星規模破壊兵器だと言った。はっきりと。つまり、とてつもない質量を持つ惑星規模の天体でも破壊できるという意味に他ならない。
「事実なら危険極まりない。が、実感が湧かない」
現実離れしている。
「だろうね。実際に天体破壊にまで及ぼうとすれば条件が整わないと無理。彼女にそこまでの制御力があればの話だけど。でも、さっき言ったみたいにここのアームドスキンを一掃するくらいは難しくない」
「驚くべき破壊力ではないか」
「あれの厄介なところは破壊力のほうじゃないんだけどさ」
少年は不穏なことを言う。キンゼイはその意味を計りかねていた。
「変換のオマケに制御が付いてるところ
「制御? つまりは……」
花が散った。エネルギーで形成された薄片が舞いおどる。それは美しい光景だった。ただし、踊っているのは破壊のダンスである。
「え?」
「うおっ!」
ほうぼうで驚嘆の声。
薄片が通りすぎたと思えばビームランチャーをかまえる腕が綺麗な断面を残して落ちる。ほとんど音もなく両脚を刎ねられたフェニストラのパイロットは戸惑いの声をあげる。そして、エネルギーの刃が腹部に突きたったロルドモネーが噴出したプラズマに飲みこまれて爆発した。
「う……、わー! ヤバいぞ!」
「くそ! 反撃しろ!」
ジュネの警告が現実になる。少年は「こうなるからね」と落ちついているがパイロットたちはパニックに陥った。ビームがロルドシーパに集中する。
「いかん! それは逆効果だ!」
「あああっ!」
ステヴィアも悲鳴をあげる。
それは幻想的ともいえる美しい光景。薄片で形づくられた花が多数、大輪を誇るように咲き乱れる。そして、花が生みだすのは薄片。薄片がまた破壊を生みだしていく。
(これか、ジャスティウイングが厄介だと言ったところは。あの兵器は或る意味、絶対防御が可能なのだな。機動兵器が用いるようなエネルギー兵器に対しては)
防御できるだけではない。転じて武器となる。ロルドシーパを包囲するアームドスキンはその猛威にさらされていた。
「こんなのは!」
傍にいる娘も半ばパニック状態。
「落ちつけ、ステヴィア」
「でも、これじゃ!」
「君には意識の流れが見えているはずだ。落ちついてもう一度私につなげてくれ」
リンク無くして対抗できる気がしない。
「ごめんなさい!」
「かまわない。攻略法を見つけねば本当に全滅する」
「はい」
意識の流れ、紐のような意思の糸の先にはトリオントライとゼキュラン。彼らは集中的に狙われている。しかし、リフレクタを使って飛んでくる薄片を弾きとばしていた。
「リフレクタは使える。防げないわけではない」
「全部に意思が宿ってるんじゃないので受けるの大変ですけど」
そこは目に頼るしかないようだ。ステヴィアの特殊能力によると、薄片は皇女の大雑把な制御によって動いている様子。一枚いちまいで明確に狙っているのではない。ただし、吹き荒れる膨大な量によって破壊をもたらしている。しかも、反撃するので現在進行系で増加中。
(こうパニックが拡大してしまっては、なにを言おうと通用するまい。本当なら反撃を禁じるのが一番なのだろうが、すでに焼け石に水だな)
手遅れの感がある。
(元から断つしかあるまい。ならば接近するしかないな)
「もう一度だ、ステヴィア。私に協力してくれ」
「もちろんです、キンゼイ様」
単独で制御されていない薄片は一定の方向に流れを作っている。死中に活を求めるような話だが、リフレクタをかざしながらの突入は不可能ではないように思えた。
(チャンスは多くないだろう。一気に接近して機能停止に追いこまねば。どこを狙えばいい?)
装甲が剥がれてレンズが露出する様が脳裏に浮かぶ。
(あれが制御装置だな)
キンゼイは目標を思いさだめた。
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