二人の戦い
ジュネとリリエルが上空で奮戦してくれている。たった二人で二本のスリングアームを引きつけているので、彼ら地上組は残り三本を相手取るだけで良かった。
(これだけ数がいるのに一本も斬りおとせないでいる)
ステヴィアが動作予想をリンクしているのに、回避で手一杯になり逃げまどうアームドスキンが多い。
一部は陽動になると思っているのか、意味をなさない遠方からの狙撃を本体に。一部は先端に牽制を入れつつアーム部分を狙っているが回避されている。そして限られた勇気あるパイロットが突貫しては玉砕していた。
(ブラッドバウや近衛隊と違って指揮系統が確かじゃないのが裏目に出てる。めいめいが思いつきで動いてるからこの始末なんだわ)
一本さえ抑えきれないでは他の足を引っ張ってしまう。事実、隣接している近衛隊にも被害が及んでいた。
(ブラッドバウは意図的に距離を取って引きつけている。リキャップスはそれができてないから邪魔をしてしまう)
担当する一本のアームに隙を与えて近衛隊のほうにも攻撃を許しているからだ。
(また一機爆散してる。このままじゃ共倒れになっちゃう)
「キンゼイ様」
一縷の望みを懸けて呼んでみる。
「どうか力を貸してください」
「どうしたい、自由の女神」
「わたしと同じものを見てもらえますか? せめて一本だけでも抑えきれればもっと有利になるはずなんです」
(理解してもらえるかな。便宜上、尊重してもらえてるみたいだけど信頼関係なんてどこにもない)
考えていると涙が出そうな現実。
「このイメージの元となるものか。面白い。それが可能ならな」
キンゼイのロルドファーガが部隊を離れてやってくる。
「全機、そのままアーム攻略を模索せよ」
「ありがとうございます。システム、読みとったわたしの意識をキンゼイ様に転送できますか?」
『不可能です。
奇妙なことにアナウンスが止まる。小さなノイズとともになにかが切り替わる感触がした。気づくと横に二頭身アバターが出現している。
「え、あれ?」
そのアバターはダークブロンドに青い瞳を持っていた。
『愉快なことを考える娘ね。私はエルシ。面白いから試してみてもよくてよ』
「えっと……、できるんですか?」
『
脳を直接揺すられているような衝撃がくる。めまいを堪えて集中した。
『接続完了。どうかしら?』
波は通りすぎていった。
「わたしのほうはべつに……」
「ぐ……う。こ、これほどの情報量か。こんなものに君は耐えていたのか」
「すみません。大丈夫ですか?」
苦しげな声に不安を覚えた。
「やってみせる。やってみせねば示しがつかない。
「そんなことをおっしゃらないでください」
「ああ、これはなんだ。人が光って見えているのか。違うな、命の輝きか。流れこんでくる、君の感情まですべて」
「きゃ!」
思いもかけない事態が起こっていた。そこまでだだ漏れになるとは予想外もはなはだしい。
「すまない。こんな純粋な想いまで利用しようとしていたのだな」
優しい声音が余計に刺さる。
「恥ずかしいです」
「いや、忘れて久しいものだ。そして、忘れてはいけないものだと今になって解った。許してくれ」
「あなたがわたしに与えてくれたものに比べたら些細なものです」
生きる希望そのものをもらったのだから。
「愛がすべてを救うなどとは言わない。だが、愛なくしてはなにも……、いや、今はよそう。すべきことがある」
「はい!」
「ゆくぞ、ステヴィア」
(やっと名前で呼んでいただけた。わたし、キンゼイ様と深く繋がってる)
感情が抑えきれずあふれる。
弾幕を張るリキャップスの集団を飛びこえる。目立った動きにスリングアームが目標を変えたのがわかる。先行して意識の流れがゆらりと揺らめく。
「これか」
キンゼイが動きに合わせて逆方向にまわりこむ。アームは意表を突かれて鎌首をもたげた。ステヴィアはその脇にと潜りこむ。
「届け!」
からくもブレードの切っ先がかすめたのみ。しかし、反対側で動きを読んでいたキンゼイが連射をくわえ、白い装甲組織の破片をまき散らした。
「堅いな。並大抵ではないか」
「普通の方法では難しいかもしれません」
彼らのアームドスキンではジュネたちの専用機のようなパワーがない。数に任せてという感じでもないが。
(繋がってるから濃密な連携も可能だけど、これを大勢でやるのは無理だと思う。わたしは慣れたし、キンゼイ様は操縦技術があるからできてるんだもの)
不慣れでは逆に危ない気がする。
「どうしたらいい?」
先輩女優も二人がアーム近くで動きまわるので攻撃しにくいと言う。
「この一本はなんとかします。ポルネさんとみんなで本体の気を引いて牽制を。あと、近衛隊にも協力してあげてください」
「わかった。連中のほうが慣れてるから指揮に従えばいいね、ギュスター卿?」
「私のほうからも言っておく。無理のない程度に頼む」
彼が部隊回線で指示を送っている。
空気の唸りをあげて触手じみた武装が迫る。ルルフィーグが地を蹴って回避すると、叩きつけられた大地が盛大に粉塵を舞いあがらせた。
土煙の向こうで意識の流れが変わる。先端がうごめいてステヴィアを照準してきた。攻撃意思の色を察知してステップを刻むとビームの連射が残像を貫いていく。
「かなり要領が掴めてきた。どうするね?」
キンゼイは慣れている彼女主導で攻撃するほうがいいと提案してくる。
「ジュネたちが注意を引いてくれてるから本格的にというわけじゃないようですけど、反感を抱くわたしを無意識に狙っているみたいです。ですので、囮になる作戦がいいんじゃないかと?」
「そう見えるな。合わせて動く。機を待とう」
「わかりました」
彼よりはステヴィアのほうが攻撃対象になっている。すべてのスリングアームがキュクレイスの制御下にあるとしても、意識的に動かしているのは一部のように見えた。それは強敵である少年少女に向いている。
地上部隊が対している三本は半ば防衛本能のまま、意識と無意識の狭間あたりで反応していると予想する。その対象が彼女なのだ。
「嫌われたものだな」
「殿下から見れば聖人気取りの小娘なんでしょうね」
「君の心根を読み解けるほど自由ではなかった。不幸な方なのだ。その不満を利用した男が言う台詞ではないがね」
先読みしつつ攻撃を与えていく。それも相まってアームは彼女を執拗に追った。集中攻撃を受けていると必然浅い傷は増えていく。
一人では無理だったろう。キンゼイが絶妙なタイミングでフォローしてくれる。緊迫感を覚えるとともに、不謹慎にも幸福さえ感じていた。
「ステヴィア、左だ!」
「はい!」
身を躱した彼女の後ろにロルドファーガ。迫る巨大な切っ先をキンゼイは副腕の二刀で受ける。力任せに上に逸らすと過負荷の副腕は両方とも折れた。代償の代わりに二人の目の前には立ちあがったアームが。
「はああー!」
「斬れてー!」
左右からの二人の斬撃には数cmほどのズレしかなかった。それほどに呼吸が合っていたのだ。二本のブレードは紫電の
(やった!)
切れた先端が回転して落ちる。キンゼイがすかさずアームの切り口をビームで焼いていた。彼女も先端のほうを連射で溶かす。
「見事だった」
「はい、キンゼイ様!」
ステヴィアは初めての共同作業に充実感を覚えていた。
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