リリエル猛攻(2)
「クロウ!」
ゼキュラン前腕部の新たな機構が前にスライドする。拳より先の位置で力場形成をするとブレードが伸長。50mまで伸びると近衛のロルドモネーを肩から脇へと斬り落とした。
(普通のブレードより遥かに長い間合いで斬れる。スクイーズショットより扱いやすく確実に。でも、パワーマージンをがっつり持っていっちゃう。多用は無理)
リリエルはコンソールパネルを確認して武装の特性を理解する。
自身との相性はばっちりなのだが、パワーゲージが大きく下がる。連用すると一時的に出力に余裕がなくなり隙を作ってしまう。使いどころを考えなくてはならない。
やはり基本は双剣を用い、ここぞというときにくり出すのが良さそうだ。間合いを掴ませないためにも状況を選ぶべき。
「ステヴィア、今のうち」
「はい!」
ルルフィーグがキュクレイス皇女のロルドファーガに挑みかかる。パワーで五分。機動力ではステヴィアが上で、火力では劣るくらいのバランス。
(あたしが周りの掃除をしながらフォローすればいい勝負ができる。こっちを気にしないといけなくさせればいい)
「食らえ!」
「ちっ!」
ステヴィアを強引に押しのけて向かってこようとするキュクレイスに通常ビームの連射を浴びせる。背後からの狙撃も受ければ二人同時に相手する愚にも気づく。
リリエルは援護に入ろうとする近衛機にショートカットで接近する。撃つ気のないフェイントの照準を無視してビームランチャーを叩き斬るとおののいて退いた。
「もう降参して! イドラスじゃ誰もあなたの復権を望んでない」
「誰がするか! 国法の主権者はまだ私だ。無法者どもが」
「過ちを認めなければ争いは続くというのに?」
言葉とビームを交わしあうキュクレイスとステヴィア。ロルドファーガの背後に滑り込む素振りをすれば皇女が反応する。リリエルはリフレクタをブレードで舐めただけで振り向く。
割り込もうとする近衛機のビームを上段からの斬り落としで二つに分ける。ビークランチャーからの
「ちょこまかと鬱陶しい!」
「あんただけと遊んであげられないの。あたしはモテてしょうがないんだから」
「戦場でふざけたことを抜かすな!」
スリングアームが動いてゼキュランを狙う。そのビームも正面から撫で斬りにして二分した。根本から刎ね飛ばそうとしたが器用にブレードで受けられる。
(これが宮殿でふんぞり返っていた人間のやること? それなりの努力は認めてあげないとね。でも、手を出しちゃいけない領域まで突っ込んでるんだから勘弁してあげない)
「あたしもブラッドバウじゃお姫様なのよ? 敵にも味方にもモテモテなのは当然」
「一緒にするな、小娘が!」
「妬まないの。若さじゃ絶対に勝てないんだから」
近衛機の突きにブレードを絡ませて弾く。腹に蹴りを決めながら後ろのキュクレイスからのビームをかがんで躱した。見えているぞとばかりにスリットの奥からカメラアイで睨みつける。
「ほざくな、それだけの手練れが。若作りな声をしおって」
「だから若いの。まだ十二になって間もないんだもん」
「なに!?」
ロルドファーガと斬り結ぶとステヴィアが近衛機を牽制している。元から正確だった狙撃が進化して、偏差まで読んで一機の頭部を吹きとばした。
「子供だと?」
「老若男女、身分によらずアームドスキンを使えるのは自分で証明してるのに?」
「育ちの悪さが言葉に表れているぞ」
「お生憎さま。エリートなのよ、戦士の」
「くぅ!」
「お解り?」
バックステップしてそのまま後ろに宙返り。腰だめにしたブレードを突きいれようとした近衛機の頭を蹴り砕く。背中を足場にして間合いを取った。
「ステヴィア、交代」
「はい」
キュクレイスは体勢の崩れた近衛機を払いのけている。そこへルルフィーグが飛びこんでいく。
「邪魔ぁ!」
「ひっ!」
皇女の振りかぶった斬撃は近衛のロルドモネーを軌道に置いていた。ブレードに斬り裂かれた機体は胸のラインで真っ二つに。断面から赤い液体の飛沫が散った。
「あああっ!」
ステヴィアがリフレクタで受けつつ叫ぶ。
「そんなだから! そんなだから、あなたは歓迎されないんです! 人をなんと思ってるんですか!」
「どこがおかしい? 誰かにかしずき、誰かに命じられなければ自欲を制御もできん生き物だ。それなら私が支配してやろうというのに」
「そんな出鱈目な思想を!」
「そう見えちゃったのよね」
リリエルは同調する。
僚機を討たれた近衛機は近づいてこない。もう付き合いきれないという感じで遠巻きにしている。
「利権と蓄財にしか興味のない政治家。さらにその利権に群がる取り巻き。そして大多数の政治に興味を示さない国民。みんな勝手気ままに自欲に駆られて行動してるだけ」
ブレードを皇女機のそれに噛ませる。
「なんとなーくノリと空気に乗っかるだけで、その時々声の大きい人に引きずられるようにして流されていく。どこにも自分なんてない」
「解っているではないか」
「じゃあ、自分が一番声の大きい人になって先導してやろう。そうしないと、ただずるずると流されていくばかり。そう思ったんでしょ?」
図星を突かれるのは面白くないのか鍔迫り合いになる。ゼキュランならば押し負ける心配もない。
「そんな世代が積み重ねられてこの体たらく。改められなかった大人が悪い。当然のように受け入れて育った子供も悪い。改められるのはあんただけ」
確かめるように言葉を重ねていく。
「解るなら放っておけ。エイドラを作り変える」
「そう囁かれたんでしょ? それが皇家の努め。皇家が本来の力を発揮すればエイドラは変われる。導くべきは皇家の血筋だって」
「なぜそれを……」
声に迷いが混じる。
「ただの看板っていう社会的な立場に不満しかなかったあんたは口車に乗った。世が世なら、国民の上に立つ肩書を持っているのに現実は違うという不満を。肩書に見合う権力を欲して、つまりあんたも自欲のために動いたのよ。滑稽、滑稽」
「なんだとぉ!」
「で、今はその力を振るうのに夢中でなにも見えてない。お粗末」
烈火のごとき剣戟がくり広げられる。キュクレイスは本気なのだろうが、リリエルには
「この程度じゃあたしは打ち負かせない。確固とした自分を持ってるから」
「ほざけ!」
受けると見せて、抜いて落とす。空振りした体勢のロルドファーガの脇から制御部を狙う。しかし、スリングアームのブレードがかろうじて滑らせて逸らした。
「そういうふうに育てられた。信念なしじゃなにも成せない」
ブラッドバウが誰一人として欠けないで戦える理由。
「芽生えはステヴィアの中にもあるわ。認められない? 降伏なさい」
「認められるか!」
「なら、あんたは過去の人。敗者として罰を受けなさい」
スリングアームと合わせた上下二段同時突きを一閃で弾く。ブレードグリップを持つ左腕を肩から刎ねた。
右手のビームランチャーにはブラインドになっていたステヴィアのビームが直撃。
(浅い)
かがんで両脚も薙ぎにいくが装甲を削るだけ。
「キンゼイ、どうして助けに来ない」
両腕を失ったキュクレイスは全速で後退していく。
「なら私は……」
皇国軍の層の中に消えていく機影を追おうとするステヴィアをリリエルは止めた。
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