キンゼイ出撃(2)
(今のエイドラを象徴するような娘だ)
キンゼイはステヴィアを思う。
(不幸の中にも夢を抱き、実現しようと邁進する。運命に翻弄されようと絶望せず真正面から向き合おうとしている)
そんな力があれば国も国民意識も変えられる。彼の
(その力、見せてくれ)
キンゼイのロルドファーガが彼女のルルフィーグと斬り結ぶ。
「ゆけ」
意識スイッチに連動して、先端に短めのブレードを発生させた副腕が飛びだす。脇腹を狙った一撃は察知されて躱される。
「んくぅ!」
「躱すか」
(片鱗は見える。しかし、それでは足らんぞ)
ビームコートが蒸発したガスをまといつかせて間合いを取る。彼はさらに踏み込んで反対側の副腕を起動した。
(これで終わるようでは……)
寸止めするつもりで繰りだす。
(なに!?)
圧倒的なプレッシャーを真横から感じる。その瞬間、副腕のブレードどころか結んでいた両者のブレードさえ一撃で吹き飛ばされた。
巨体で軽々と急接近したアームドスキンが二人を分けるように下からブレードを振り抜いている。キンゼイの背筋を戦慄が走った。
「ぬぅ」
「そこまでにしておきなよ。君たちは戦っちゃいけない」
(これか。これがあの世間を騒がすほどの強力な謎のアームドスキン)
聞こえてきたのは妙に甲高いボーイソプラノ。
(たしかにこの威圧感の前では誰もがすくんでしまうかもしれない)
「なぜ来た、『ジャスティウイング』」
言葉で隙を作れる程度の相手とは思えないが。
「エイドラ皇国の在り方が正義に反するとでも言うか? これはただの内紛。星間管理局が干渉しないのが証左であろう」
「皇室政府の是非は問わないさ」
「ならば手出し無用」
それだけでは足りないとばかりに牽制のビームを挟む。しかし、24mはあろうかという巨躯はするすると躱しながら間合いを取った。
(そこまで動くか。どれほどのスペックを秘めている?)
顔をしかめる。
「そうはいかない」
ジャスティウイングは地を蹴り、再び接近してくる。
「目的や手段がどうでも、力の源を間違った。いただけない」
「勝手な理屈を。関係のないことだとわからんか?」
「あるんだ。だって、それはぼくの宿命だもの」
意味不明だ。しかし、到底退く気がないのは解る。
(まあいい。それならば退かせるまで)
大型機の頭の横に固定武装の砲口が落ちてくる。そこから放たれたビームが正確にロルドファーガの軌跡を追ってきた。
最後の一撃はリフレクタで弾き、つづく横薙ぎをジャンプして躱す。ジャスティウイングの頭上で前宙し、死角となるバックパックの後ろへと着地しようとした。
(いくら素早かろうと構造的な弱点は否めまい?)
ところが彼の動きを読んでいたかのようにバックパックの砲口が追ってくる。堪らずリフレクタを前面にかかげて上空へと逃れた。
(咄嗟に見える位置ではないぞ。死角がないとでも言うか?)
キンゼイの中で恐怖心が疼く。自分がなにを相手にしているのかわからなくなってきた。
「厄介だな。騒ぎたくもなる」
正義を冠する二つ名を揶揄する。
「望んでるんじゃないけどね」
「通じるものか」
「自分で名乗ったわけでもないんだから勘弁してよ」
(この声、それに感性。まるで子供のように感じるが信じられんな。妙に老成したところも感じさせる)
非常にアンバランスな存在に思える。
しかし、実力は本物。子供番組のヒーローのように格好良さに重点を置いたシルエットではない。が、きらめく
「
「
「聞けん相談だな」
唯一といえる利点の加速を活かして斬り込む。横薙ぎの剣閃を叩き落としたつもりだろうが、その切っ先を即座に跳ねあげた。ところが走る刃はリフレクタに紫痕の道を刻むだけ。
(生半可な攻撃など歯牙にも掛けんか。まだ余裕を窺わせる)
積極性に欠ける感触。
三連射を機体を揺らして躱す。キンゼイのロルドファーガはレーザー測距で地上を滑るような高度を維持する設定にしている。必要なときにつま先で大地を蹴って進行方向をズラしていた。この方法のほうが抵抗の多い大気圏では機敏な機動が見込める。
(アームドスキンの特性からいって最も効率的な機動のはずだが)
エイドラのような平原が多い立地でなら。
(それを最初から当たり前にやっているのだから手に負えん。性能を最大限に引き出す方法を熟知しているか)
ブラッドバウのアームドスキンにしろジャスティウイングにしろ、常識のように同じ機動を行っている。三次元的な戦術を用いにくいデメリットを除けば、砲撃戦白兵戦ともに大きな効果を得られるのを知っているのだろう。
「やりにくいことだ」
「セオリーでなく自分で編みだすんだからあなたが天才なのは間違いない」
まるで内心を読まれたかのよう。
「君まで全知者だとでも言うか?」
「まさか。でも、心理のほうは手に取るようにわかる。試しているのはお互い様だよ」
「どこまで読んだ? 知っているならなぜ私に手を貸さん? 方法論から間違っているとでも?」
脇に矯めた横薙ぎの一撃がジャスティウイングのブレードを噛む。そこから刃をなぞるように跳ね上げて盛大に紫電を散らして目眩まし。
切っ先はすでに上から落ちてきている。大柄なアームドスキンがするりと半身に開いて躱す。さらに跳ねた剣身が本体を追う。踵を大地に突き立てて旋回して避けた。そこへ致命的な上段斬りにつなげるが頭を振っただけで空を切る。
(私の三連撃を)
初めて躱された。
「ふーん」
試されているのは本当のようだ。
「それだけ使えるのに惜しいな。いや、できるから余計に完遂も可能だって思っちゃったか」
「賢しらげに」
「どうして与しないかだっけ? あなたも全て知っているわけじゃないからだよ。全部を御せると思ってたら足元が崩れる。
切り札ともいえる大本命の攻撃はロルドファーガの腰の両側から飛びだした。副腕の先端から伸びたブレードが敵の
(これも読まれていただと?)
噛み締めた奥歯が鳴く。
ジャスティウイングは飛び退かずに踏み込んできた。肘打ちがキンゼイ機の胸を襲う。
「がっ!」
「意識を飲まれかけてるから反応が遅れる。よく意味を考えてみてね」
仰向けに浮かされたロルドファーガ。副腕のブレードも予定外の場所を薙いだだけに終わった。追い打ちを警戒してそのままバク宙して間合いを取る。
「閣下、ご無事で!」
「大事ない。後衛は崩せたのか?」
配下の近衛隊はリキャップスのフェニストラを牽制に向かったはずだった。本隊の軌道部隊を援護するためにだ。
「それが頑強な抵抗に遭い、状況が芳しくなく」
「私が行かんといかんか」
「その大型機を退けてからでも」
四機
「よせ。迂闊に仕掛けるな」
「ですが」
「来ます!」
先に反応したのはジャスティウイングのほうだった。ふいに飛びあがったと思うと金翼をひるがえして突進。ロルドモネーの編隊に当たりにいく。
予想外の機動性に当惑しているうちに一機目の腕が舞った。装甲の表面が削られ、副腕が刎ねられる。ビームが頭部を吹き飛ばし、蹴り飛ばされた近衛機が地を転がる。
(これは無理だな。釘付けにしておかねば損害が増えるばかりか)
合間に窺った本隊の戦況も決して良くはない。
キンゼイは集中力を一定にすべく深呼吸した。
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