コリント攻防(2)
「あれでよいな?」
「お見事でした」
拝謁の間からの廊下をキュクレイスは颯爽と歩く。キンゼイは斜め後ろに従いながら答えた。
「デュプレクス殿下はあなた様の活躍を快く思っていらっしゃらないご様子。立太子なされていないのを気にかけられているのでしょう」
敬意は払うが尊敬はしていないと示す。
「それも宮内省の大臣が兄殿下と私を天秤に掛ける動きを煽る意図で据え置いたこと。両陣営からの献金で不正蓄財とはなんとも嘆かわしい」
「好都合ではありますれば。皇太子となれば動かしづらく、取り除くにも手管を要します」
「そなたにかかれば容易いことだろう?」
横目でうかがってくる。特に表情を動かさず応じた。内心など勝手に想像させればいい。こういうタイプは自分に都合いいよう見たがるもの。
「兄殿下には退場していただく」
はっきりと言う。
「敗戦の責を負う形になれば、殿下との人気の差は歴然としてきます。黙っていても失脚してくださるでしょう」
「そなたの目論見どおり。しかし、負けるにしてもコリント基地を失うのはよろしくない。策は講じておかねばな」
「一時預けるくらいはお許しください。コリントを取られれば、親衛隊の私が出る理由にもなりましょう」
コリント基地が抜かれるようでは首都イドラスは裸になったも同然。本来は皇家に仕え、宮殿周りの警護が任じられている彼も動けるようになる。
「取り返してくれるか。それは心強い」
全幅の信頼を寄せてくる。
「御身の望みとあらば」
「しかし、厄介なのも否めまい? あれは本当に『ジャスティウイング』なのだろうか」
「どうやら間違いございません。思惑のほうは読めませんが」
「赤い戦闘艦も無視できん。あれは何者だ?」
「入国申請ではゴート宙区の民間軍事機構『
「
キュクレイスは苦虫を噛み潰したような面持ちになる。不用意な対応をすべきでない相手だと理解しているのだろう。
「国外退去を命じるのは危険か」
「事を構えるのは考えものです」
相手が正規の手続きを踏んでいるかぎり。
「組織として敵対するのは問題ですが、入国しているのは戦闘艦一隻分の戦力でしかありません。厄介ではありますが大局に影響するほどではないかと考えております」
「ロルドモネーやロルドファーガの性能をもってすれば、いくらオリジナルとはいえ圧倒されるほどではあるまい。任せる」
「ご命のままに」
(どうすれば拮抗を演じられるか一手打たねばと思っていたが、ほどよい手駒が入ってきた。まだまだ私を頼ってもらわねばな)
外して考えられないくらいでないと後々困ることになる。
切り札の一つと言って皇女が持ちだしてきた皇家の秘術は意外に強力だった。それが組み込まれたアームドスキンは想定以上に強化され、市民の活動など一蹴してしまうかと危惧したがどうにかバランスは保てそうだ。
(必要なら寝物語にでも手控えを囁かねばならないかとも考えたが、いかにも風聞が悪い。依存するほど籠絡できればいいのだからな。そしていずれは……)
「兄殿下はいいのだ。安直な発言が多く国民にも人気がない。能力的に選ばれるのが誰かは自明の理」
キュクレイスは自信を示す。
「が、陛下が及び腰なのは困る。皇家の血を存分に示してくれねばな」
「不要でございましょう。それは殿下がお示しになられればよろしい」
「うん?」
さすがに驚き振り向いてくる。
「真の主権者は一人で十分。そう思われませんか?」
「怖ろしい男だな。いざとなれば陛下までも……、か? 貴様がいれば玉座は意外に近い。心強いぞ」
「ありがたきお言葉」
(可愛いものだな、自分が使い捨てられる可能性には思いいたらないのだから)
キンゼイは高貴な血を持つ背中を眺めながら思った。
◇ ◇ ◇
ステヴィアもなぜかハイダナ・グワーシーの指名を受けて、彼を乗せて移乗し会議の席まで引っ張りだされている。
(新人のわたしが場違いだわ)
なんともお尻が落ち着かない状況。
ただし、場違いに見えるのは彼女だけではない。そもそも作戦室を取り仕切っている指揮官が十二歳の少女である。それに加えて十一歳の少年まで当たり前のようにメインの席を占めている。
「まずは戦力分析から。タッター、ログ解析からはじめなさい」
「了解でやんす」
リリエルが命じると壮年の副長は大判のメインパネルに上空からのコリント基地の様子を映した。そこに時間を追っての動きを上乗せしていく。
エイドラ皇軍は盛んに哨戒機を出していた。電波レーダーや重力場レーダーで検知しにくい地上付近を移動して奇襲されるのを警戒しているのだろう。
(びっくりするくらい鮮明なのね)
部分的に拡大される映像は、アームドスキンがどこから何機発着するかを明瞭に映しだす。
ターナ
(こんなことやってるんだ)
基地内を歩いたり車で移動する人員の数。そこに含まれる
それらがすべてカウントされて基地内の施設に数値として記録されていく。早回しでどんどんと累積されていき、最終的にどこの
「推定総数百六機。南面と西面の
素人でもわかりやすく表示されている。
「逆にイドラス側は少なめ。当然だけど」
「思ったより溜め込んでやんすね」
「戦闘艦にして三隻半。多分百二十くらいは置いてたんでしょうけど、この前の戦闘で消耗した分が回復してないと見ていい」
少女は独自にも分析する。
「これに、さっき入ってきた情報にあった皇子デュプレクスの率いる部隊四十がプラスされる。大々的に宣伝してくれるんだからおめでたいわよね」
「まあ、国のやることでやんすから。威信を示すにも必要な手続きなんでやんすよ」
「威信で勝てれば苦労しない。ま、ともかく、総数百四十六が大体こんな感じで配置されてる」
淡々と説明するリリエル。対するリキャップス幹部は挟む口を持っていない。
「ルガリアスに増援のあったフェニストラが十機?」
つづいて友軍情報。
「残存分と合わせて四十一機。あとはルルフィーグ一機とうちの三十を合わせてトータル七十二。ほぼ倍だけど作戦はどうするの?」
「い、いや、待ちなされ。嬢ちゃんにとっちゃ当たり前のことなのかもしれんが、儂らはこんな方法があるのは知識にないからのう。急に言われても困るわい」
「真似しろとは言ってないわ。情報は提供したからスポンサーとして判断しなさいと言ってるのよ」
彼らは間違いなく専門家だった。しかもビジネスライクにも対応できる本物中の本物である。圧倒されても仕方がない。
「ざっくりとした方針だけでもかまわないんだけど、それも難しそうね」
少女は断念する。
「それならいくつかのオプションを提示するからそこから選んでくれない?」
幹部は頷くのが精一杯。そこからもリリエルの独壇場になる。
(リキャップスの活動もこの子たちにとってはごっご遊びに見えてたかも)
ステヴィアは呆然と見守るしかできなかった。
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