一瞬の恋

ナカムラ

一瞬の恋

 江戸時代、宝永3年、申の刻、つるは、長屋の前の桜の木に見惚れて、思わず、転んでしまった。

 すると、中から、音を聞き付けて、男が出てきた。

「どうしたんでい?」

「あの、桜が余りに、美しかったんで」

「転んだんだな」

「はい」

つるは、照れながら、云った。

「アタシは、つると申します」

「こちとら、鋳掛屋の店子の小五郎だ。ここは、表長屋だ」


 他の長屋から、声が聴こえる。

「小五郎さーん!お前さーん!」

「かかあだ、おーい! ちと来い」

「あら、振り袖、汚れちまったねぇ。あ、アタシは、小五郎の妻、ふみと申します」

「かかあ、おつるの怪我の手当てしてやれ」

「あいよ。ここは、表長屋だから、裏長屋までおいで」

「はい」


 裏長屋に通されると、そこでつるは、ふみに手当てをしてもらった。

すると、小五郎が怒って云った。

「全然、拭けてねえじゃあないか。代わりに、拭いてやらぁ」

 小五郎は、つるの足を、濡れたてぬぐいで、拭いてやった。

その時、つると小五郎の目と目が合った。

 トーンとくる(惚れた)。

         完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

一瞬の恋 ナカムラ @nakamuramitsue

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ