付き合いましょう 9話 微減【中3 冬】

 食べる量をあからさまに減らしたり。これまで運動をしていなかった者がカロリーを積極的に消費すれば、体重の減少は確かに起こるのだろう。しかし元から体重が増加しやすい身体に変化していたこともあり、そこから健康的に体重を落としてゆく身体に作り替えていく工程がまた大変な道のりでもありました。


 自己判断では積極的なダイエットをしているつもりであっても、見違える程の減少までに到達する燃焼体質になるには「まだまだ」時間をかけて肉体改造が必要にもなる。そんな「駆け出し」段階の二人は、まずは長年悪さをしていた膿を取り除くことからのスタートにもなり、痩せやすくなる身体作りの前に「運動」が「習慣」であることを身体に記憶させる作業が大事なことにもなりました。そんなわけでイチゴと檸檬は体重を誤差の範囲にしてしまえる「1キロほど」一気に落としてからパタリと止まり、ここからが本当の長いダイエット生活の始まりとなりました。




 そんな二人は今日のイチゴの卒業式を最後に学園生活では離れ離れとなってしまう。そうして一年後には檸檬も先輩の後を追い同じ学舎へと受験し入学を絶対に決める予定となっている。というわけで小学生からの卒業以来に檸檬はあの時よりは泣き明かすことはしませんでしたが、式の途中でイチゴが学内に居ない寂しさを痛感してポロリと軽く涙を流しながら、最後の学内での別れを惜しむ生徒たちを横目にイチゴは「笑顔」で見送ってくれた檸檬に満足して、早々に挨拶も終わり親子共々「しんみり」ではなく、新たな門出に晴れやかな表情で帰宅をしていました。


「今年は檸檬もワンワンと泣かなかったね」


「先輩が根回しをしていたからですよ。ずっトモ発言。本音で語らせていただくと、すごく嬉しかったです」


二人は卒業式を終えた後に檸檬がイチゴを自宅に誘って氷川家にて別れを惜しむ最後の中学生の日を二人きりで過ごしていました。檸檬としても一年だけでも学舎が変わるのを寂しく思い、式が進めば楽しい日々を思い出しては泣いてしまいましたが、イチゴが「檸檬には笑っていてほしい」という希望を思い出して最後の別れは笑顔で見送ることをやり遂げていた。しかしイチゴが特別な人であることを今日は改めて檸檬が痛感させられる日でもありつつ、寂しさや感謝や大好きな気持ちや、いろいろな感情が今になって込み上げてしまい。イチゴとの繋がりが約束された日を思い出しては、イチゴは優しくて大好きだと檸檬は視界がぼやけてしまうのでした。


「その台詞を言いつつ瞳が潤んでいるのですが?」


「あーもう・・・先輩が泣き顔が嫌いなんて言わなければ泣いてスッキリできるのに」


「今日くらいは泣いてもいいのよ? 胸を貸そうか?」


「母性でない肉にダイブをするのなら、食べられる霜降りがいいです」


「しんみりしていたと思ったら、毒を吐き出したぞコラ!」


「いひひ、先輩。三年間ありがとうございました。改めてご卒業おめでとうございます。そして、来年度からは恋人としてよろしくお願いします」


「あい、最後のは期待に添えるかわかりませんが、幼馴染としては気長に楽しくね」


イチゴは檸檬が居たから楽しく過ごせたと感謝を告げていましたが、檸檬が心の底から笑っていられたのもイチゴが気遣ってくれていたからでもあり。小学生で檸檬が抱いた大好きな気持ちは今も続いて、それこそイチゴが救ってくれる度に大好きがどんどん大きくなり、檸檬は進学先という大事な高校受験さえもイチゴを追うことのためだけに決めてしまったくらいにイチゴが居ない学生生活を「退屈」だと感じてしまっていた。今でこそ仮初の恋仲をしていますが、執着度合いとしては恋愛と変わらないくらいに檸檬はイチゴに依存していて、それに関しては「いろいろな理由を並べて親を説得」はできましたが、本音はバレバレなために檸檬の家族も「イチゴに依存し過ぎな檸檬の人生観」は心配もしていましたが、偏差値が高いイチゴと同じ学校に行きたがる檸檬を否定はできなくて、檸檬の両親もイチゴに直接「娘が迷惑をかけてしまうが、もうしばらくだけ付き合ってください」と高校生活への保険もかけるくらいにイチゴは信頼もされていました。




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 しんみり空気を出して慰めてほしいだけで檸檬はイチゴを呼んだわけではない。学舎は変わっても今のように時間を合わせれば会えることが約束されているために、檸檬は改めて今後の方針を確認するためにもイチゴを呼び出し、今日という日をダイエットに向けた門出の一日にするためにも気持ちを切り替えて、檸檬はイチゴにかまってちゃんを演じることにしました。


「先輩のリボンをください。代わりに私のをあげますね」


「交換しても使い道がないよ」


「先輩への愛情がいっぱいに詰まっているので普段から身につけて御守りにしてください」


「願掛けしてくれるのはありがたいけど変な愛情まで込めてない?」


「絶対にリボンを裂いて中身を確認したら駄目です。知らなかった方が幸せなことはありますよね〜」


「入っているよね!? 髪の毛とかありがちな物を入れたよね!?」


そんな茶番がありつつもイチゴは檸檬に替えのリボンにでもして欲しいと使わなくなってしまったリボンだけ手渡しました。制服自体は檸檬のサイズに合わないために、檸檬が持っていても「思い出の品」にするほど愛着は抱かないはずと判断したイチゴは、我が家の収納スペースの圧迫だけになりそうだと、学校側に寄贈しようか検討中なくらい断捨離意欲が高いのでした。

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 断捨離について話していたら気持ちを「新生活」に向けて切り替えようとしていた檸檬が、また「イチゴが卒業していなくなってしまった」と寂しそうな表情をしてしまったので、今度はイチゴから「涙を我慢して今までずっと明るく振る舞って、先輩の新しい門出を祝ってくれてありがとう」と感謝を込めたハグをしてあげた。


 変わらない安心感と変化があるからこそ新鮮で楽しい未来もある。そうした新生活をもっと楽しくしていこうとばかりに仮初の恋人としてイチゴは檸檬を励まして笑顔にしてあげました。ただしどうせならばと萌え罰まで積極的にやり始めてしまい。甘いやり取りと激しい運動を交互に繰り返していたら、冬だろうと外気温を遮断した部屋に居た為に汗ばんでしまい。このままでは汗が冷えて風邪になってしまうと、仕切り直すべくイチゴはシャワーで汗を流すためだけに一時帰宅をして再度氷川家に集合することになりました。こうした忘れ物を取りに帰るような気分で両家を行き来できるのが二人の距離感でしたが、流石にバスルームまでは厚かましくて借りられないとイチゴは自宅へと帰ることになり。檸檬の爆笑を誘うためだけに通販で買ってもらったヘンテコな顔が前面にプリントされたインナーに衣装チェンジをして、その衣服を上着で隠しながら氷川家に舞い戻ってきてくれたのでした。


「もうやめて・・・上着で隠して・・・アハハ・・・笑いすぎて脇腹が痛いの。呼吸困難で死んじゃうから隠して!」


「もう二枚ストックがあるから檸檬にもあげるよ」


「三枚セット! ひぃ〜ヒィ〜 かひゅ・・・なんで・・・ゴホッ、ウェ・・・」


「ツボにハマりすぎでしょう。檸檬と弟の二人分にでも使いな」


イチゴが一時帰宅していた間に檸檬は同じく汗の処理をと考えて温タオルで汗を拭き取るだけにしました。イチゴは運動をしていなかった状態から活動状態に現状は移行させているために、軽い運動をしているだけで檸檬よりも汗を流してしまう体質改善真っ只中でもあり、先立って運動を習慣としていた檸檬は身体がベトベトしてシャワーで汗を流さなければ気持ち悪くならない程度に汗ばんでくれて、イチゴよりも処理が楽で自宅待機をしていました。そうして戻るとだけ短く携帯端末にメッセージが届き、檸檬は限界で「愛しの旦那様」をお出迎えする様式美を披露してあげて、風呂も飯も済ませた後だから「檸檬」をいただこうかと選んでくれて部屋に舞い戻ってくれた。そんな茶番を挟みつつ、部屋に戻るたびにイチゴはアンニュイな表情となり「これはなにかあるぞ」と檸檬が警戒していたら、わざとらしいキメ顔をしながらイチゴは哲学的な会話をしながら上着を少しずつ脱衣してくれて、檸檬はイチゴの予想以上に爆笑をしてしまい腹を抱えながらのたうち回って苦しそうにもしていたのでした。


「使う場所がないですよ!」


「そうかな? 笑いに困ったら脱げば一発なのに」


「先輩は私にどうなれと?」


「まあ、弟にも着て見せて楽しくやってよ」


「先輩以上に有効活用できるかわかりませんが、貰うだけ貰います。弟くんにも笑いのセンスが通じればいいのですが」


「姉弟なら見る番組も同じだしセンスも似るんじゃない?」


イチゴとしても檸檬が同じ学舎の後輩でなくなるのは寂しい気持ちはありました。しかしそれを嘆くくらいならば、新しい生活をする中で楽しくあれることを探し合うことに全集中したいとイチゴは伝えたかった。その手段というわけでもないが、檸檬が笑ってくれることがイチゴは何よりも求めていたので、くだらない戯れのために用意した衣服を「あと二枚」も持参して檸檬と弟の二人で笑わせ合いのために使いなさいとプレゼントしてあげました。


「その理屈なら先輩とお兄さんも似た者同士になりますけど?」


「なるほど。ならそこは檸檬のセンスが問われるな」


家族で時間を共有するとはいっても性別の違いや年齢の違い。そうしたいろいろな要因から個人の趣味嗜好は家族内でもバラツキがあるとイチゴは認めた上で、笑いの種は「発芽」するのが約束されていたので、あとは檸檬の育て方次第で狂い咲きになるのか枯れ葉だけで終わってしまうのかが決まってもいた。とりあえず自宅着にするにも自殺行為である奇抜なセンスの衣服を二枚も引き取ってもらったことにイチゴは安堵しながら、さっそく檸檬が服の上からプレゼントの服をあてがい見よう見真似でイチゴの笑いを再現してくれました。


「先輩のキメ顔を真似できるかな。こんなカンジ? 世界は終焉の業火に包まれていた。世界崩壊まで、残すは2日もないのだろう」


「ブホッ・・・檸檬は厨二を選択するとは。ワタシって、側から見たらそんなカンジだったのか。檸檬が死にそうになるの理解☆ そしてワタシもまた上着を解放。イエイ」


「空想上の生き物がリアルに登場! 世界の秩序がつぎつぎにクラッシュ♠︎ そこに現れた救世主。笑いのゴッドが世界を救う!? 瓦礫の中で悲しみに負けじと涙を拭いラブを叫ぶ姉と弟。それとおまけなぽっちゃりは、不思議なダンスをしているだけだった。イエ〜イ」


「アハハ、いきなりラップ勝負になったら檸檬が意外と上手いし。ていうかワタシをちゃっかりディスるなバカタレ」


一人が卒業したから疎遠になってしまうなんて、そんな繋がりであってなるものかとばかりに二人は普段通りに「女子中学生がするには幼稚な戯れ」もしながら日常がそのまま続いてゆくことを行動でも示していた。しかし一度はリフレッシュをした身体なので、過度な戯れはしないように心掛けて「萌え罰」に関しては控えながら、もし日常会話でキュンとしてしまったら罰は後日に保留にして「ひとまずは幼馴染」としての距離感へと戻ることにしました。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 女学生の日常とは変化球の宝庫でもあり、それこそ身近な相手に未来についての話題を振ってみたくなるのもありがちなことではある。イチゴも檸檬と話すのは楽しくて好きな時間でした。しかしいつの頃からか不穏な空気を感じ取れるようになり、その原因が自分の趣味により招いたことでもあるのが後ろめたさとなっている。それだけに檸檬の遊びに付き合う義務はあるのかもしれない。そうして今日もイチゴは可愛い手の焼く後輩の言動に振り回されてしまうのでしたが、これもまた青春の1ページと言える範囲で収まって欲しいと手加減も望んではいました。


「ところで先輩は子供は好きですか?」


「唐突だな」


「話題を振るときはいつだって唐突です」


「そんなものかしら」


(今日は卒業式だったし、檸檬の荒波はまだまだ続く・・・?)


「それで先輩は私に何人を孕ませるおつもりですか?」


「やっぱりこのネタだった! 檸檬も飽きずによくやるよ・・・」


檸檬は寂しい気持ちも晴れてくれたのか気を取り直してイチゴで遊び始めている。もちろん常日頃非日常的な妄想話をしているわけではありませんが、インパクトがあるだけに記憶には鮮明に残ってしまい「またか」とは思ってしまう。そうしてイチゴの不安が残念ながら的中してしまい、檸檬はありえない妄想にて遊び始めてしまったのでした。


「大好きな先輩とのラブラブエッチですよ? 飽きるわけないではないですか。先輩、今週に入り何回目ですか? 両親の帰りが遅くなるからと後輩を連れ込んで盛りすぎです」


「性獣先輩も安定してきたな〜 これだとおちおち両親も旅行に行けないよ」


「そこは先輩が根回しをして旅行に夫婦水入らずで行くように仕向けているはずです」


「そうなるとワタシは氷川家に足を向けて寝れないな! 大事な娘さんを傷モノにしてごめんなさい」


いっそのことイチゴは冗談にとことん付き合い「氷川家にいるから今日は期待に添えなくてごめんなさい」とでも言ってやろうかと考えた。しかしそんなことをイチゴが言ってしまえば檸檬がさらに暴走するのは確実なので燃料投下は労力を覚悟して行わないといけないだけにイチゴは見合わせました。ただしそのイチゴの事前回避も虚しくグイグイ迫ってくるのが困った檸檬の習性でした。


「そういえばお楽しみ中にお兄さんが大学から帰ってきたのがアブノーマルな行為のスタートでしたよね」


「え? まさか兄貴も交じるの? 勘弁してよ・・・」


「違いますよ。お兄さんが隣に居るのに先輩が構わずパンパンするから私が目覚めてしまった話です」


「似たり寄ったりで変わってないよ・・・もうこの際、自己顕示欲が暴走して、家族バレにも恐れずパートナーに強引にでも歌わせてしまう意地悪な先輩にでもなろうかしら。そして家族会議になって檸檬との交際を認める代わりにエロゲを全て焼却処分されるのね。わーい、死にたい・・・」


妄想通りにはならないものの現状のごっこ遊びを知られたら家族には冷めた目で見つめられそうだと、イチゴは口が裂けても言わないつもりでいました。そんなわけで二人の恋愛ごっこは二人きりでの秘密の逢引きとなっている。だからこそ檸檬も恥じらいを捨ててまでイチゴを落としめて楽しめていた。「恋愛の真似事」その楽しさだけを選べている段階だと気持ちは楽なのでしょうが、本気の恋愛には「悲恋」があるのをけして忘れてはならないのを二人は実感できてはいないのだろう。


「どちらかといえば赤飯と一緒にラブホテル代を貰えそうですけど」


「我が親はそこまで寛容でもありません。むしろ檸檬を溺愛しているまであるから、最悪の場合ワタシは家を去ることになる」


「そんなことにはなりません! 二人の未来は明るいはずです。高校在学中に無責任に種付けされて、そのままゴールインです。先輩は優しいから時間差でしっかりと挙式をしてくれるのですね。愛しています♡」


「波瀾万丈が好きなの!?」


「好きなのは・・・先輩との時間です。別れてしまうくらいならば、他はいくらでも我慢できます」


「冗談なのに恥じらいワードを連発し過ぎて照れている檸檬は可愛かった。スクワット30回でもするかな」


「うぐう・・・先輩のためとはいえ私の大事なものがなくなっていく気がします」


檸檬もところどころに本心が交じる会話をするだけに、照れくさくなり恥じる様が可愛いとイチゴは思えた。それができるだけにどうして自分に向けているのだろうとイチゴは不思議に思いましたが、幼馴染で練習をして自信がもてれば本番となるのだろうと、そこは練習相手として本気で付き合ってあげるべきなのかと悩むところでもありました。


 しかし、どうしても二人は親友相手に遊びでも本気になれない照れくささが勝っていた。ただし今回の素の檸檬の表情には高評価を与えなくてはいけないとして、イチゴはようやく運動に慣れてきたこともあり、いつも以上に評価をあげて運動に精を出すのでした。

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