付き合いましょう 7話【中3 冬】

 個人差が顕著な体質体型を除外した一般的な肌感覚でいえば秋口から肌寒さを感じ始めるのが通例だろうか。さらにその寒さが勢いづけばラブソングや小説の世界でも人肌が恋しい季節と謳ってくれる。そんな季節をイチゴと檸檬は過ごしていました。


 それでも例外なのがぽっちゃりの二人であり、春夏秋冬を繰り返してゆくなかでぽっちゃりに行き着き。そうして暑さ寒さを重点に置いて、その物差しで快適な季節を選ぶとしたら「初春」と「秋」が理想的なぽっちゃりライフを過ごす季節となっていました。しかし現在は寒さが刻一刻と深まるばかりの東北地方の冬とあり、流石に「肉で武装した」二人であっても寒さに耐えられずに温もりが恋しくなっていました。だからこそ恋人ごっこを利用して、運動をさせて脂肪の燃焼と身体の熱を生み出す作業を頑張ってはきましたが、遊びでも「野外で」身を寄せ合う「残念カップル」を無料解放してあげるのは自分たちが虚しくなるだけだと過剰なスキンシップは行われていませんでした。




 そんなイチゴと檸檬の二人は人肌の温もりは共有しませんが、仲良く「犬を抜きに」夜道を散歩しながら運動をしていた。するとこれまた阿吽の呼吸のように息があった行動をして、互いの心境を探るために見つめあっていました。


「先輩・・・」


「みなまで言うな。貴様の言いたいことは分かる。だがワタシたちはダイエット中だ。耐えろ・・・匂いだけで満腹になってみせる!」


「匂いで満腹になるなら私は肥えていないはずです。最近は頑張ってウエストも緩くなっていますから! 後生ですから焼き芋を食べましょう!」


秋のシーズンから到来してくれた石焼き芋の路上販売が二人の歩みを簡単に止めてくれた。さらにその甘く香ばしい誘惑はダイエットの道さえ止めてしまうのか。檸檬はすでに財布を片手に買う気満々であり、イチゴも財布に手が伸びかけましたが、なんとか誘惑を断ち切り代わりに同志の腰回りに手を伸ばしていました。


「そいつはマヤカシだ! この伸びきったゴムが貴様には見えぬというのか!」


「いやん♡ 先輩たら♡ 外で脱がさないで、く♡だ♡さ♡い♡」


互いのダイエットのために萌え罰を加速させる。それはわかっていても散歩デートという状況を作りイチャイチャしてみるのは「側から見て尊くない」という理由から二人は遠慮し合っている段階でした。そうしたこともあり檸檬は運動目的の外出に着込んだ外着にお洒落をしていなく、その緩く感じた腹回りをイチゴが指摘するように指を衣服と肌の隙間に挿入してズボンを落ちない程度に引っ張りながら、幼馴染にしかできないようなスキンシップをしてくれました。もちろん腹周りが緩く感じるのはダイエットが成功したからではなく、檸檬のお決まりな空腹と、そもそもがゆとりのある服装をしていたからである。まだ中学生ともあり私服の調達は両親に強請ることが基本となっている二人は、それぞれの経済状況を加味した上で趣味嗜好と「体型」に合わせたお洒落な私服を何着か持っていました。


「よいではないかが、芋にも通用すると思うなよ!」


「先読みツッコミは卑怯です!」


石焼き芋を買っても「よいではないか」という台詞を言う前にイチゴはツッコミをしましたが、檸檬はすかさず被せにきて「それなら脱がすのは芋の服にしましょう♡」と切り返した。それにイチゴが「貴様は皮ごと食べられる咀嚼能力の持ち主だろう」とツッコミをしながら、焼き芋の魔力に抗うのかの勝負を楽しそうにする少女たちを、移動販売の店主が遠目に眺めながら「どんな会話をしているのかわからないものの」想像しては微笑ましくなり。ぽっちゃりさんたち「おいで」と立ち去らずに気長に待ち構えていてくれました。




「ボケる相方に何年ツッコミをしてきたと思っている」


「小学生低学年からです。先輩は無垢な少女を穢して禁断の遊戯を自ら望んでしまうように導いてしまった罪なお人です♡」


 氷川家は碓氷家とは違い贅沢な暮らしはしていない一般家庭になる。新築がズラリと並ぶ街開発が進められている東北地方の一都市に氷川家は檸檬が幼稚園児の時に移り住むカタチで戸建てを購入して移り住み。まだまだ周辺地域は古い街並みや地方ならではの畜産田畑が目立つ地域の「住宅建築ラッシュ」の移住者呼び込み地区の一つであった分譲住宅の建築済み新築をローンながら購入した移住者の一員となる。つまり世帯主の収入も安定しているために、貧しい生活を強いられているわけではない。そんな檸檬は容姿と体型に似合う服装を好んで購入した結果「一部はタイトにならないゆったりとした服」も所持していて、それをイチゴに「ウエストが緩く感じるのはマヤカシ」だと力づくで訴えられていました。


「貫通式の話しじゃねーからナ!?」


「結婚式? 海外でしてくれるのですか? 好感度はすでにカンストしていますよ?」


「難聴系はやり過ぎるとクドくて飽きやすいぞい」


「ちなみに冗談抜きに先輩は未来の旦那様との挙式は何処でしたいと夢見ていますか?」


「ん? うーん、普通に日本で簡素な挙式がいいかな」


「それもゲームか何かの影響ですか?」


「おごそかだったり、豪華だったり、人が沢山で緊張したりと、そうしたごちゃごちゃしているのは苦手なんだよ」


「なるほど。たしかに先輩らしいですね。検討しましょう」


「未来の旦那様との話ではなかったの!? 最近の夫婦ネタ率が多すぎない!?」


「お兄さんから受け継いだ定番ネタですからね〜」


「そうだよ。ワタシたちを夫婦に仕立て上げた元凶は兄貴だったわ・・・」


弟の病弱を理由に家族サービスの一部ができないために代わりとなる衣服などの贈り物や食費に関しては両親は贅沢をすることもあり長女の檸檬も恩恵は受けていた。小学生時代には男子生徒から身形を茶化されたこともある檸檬は一時期は間に受けてしまい、地味な服装をわざわざ選び登下校をしていた時のこと。一緒にいたイチゴが「檸檬の可愛らしい服装はお人形みたいで、それを毎日見るのが楽しみだったのに」と、ポツリと恥ずかしげもなく呟いてくれてからは、意地悪な幼いクラスメイトなど気にせずイチゴが楽しみにしてくれた可愛らしい自分で常にあろうと、こうして中学生になった今もイチゴにだけ可愛さアピールをするようになってもいました。


「積雪が本格的に始まったら黄金色のスイーツの移動販売もなくなりますよ?」


「ぐぬぬ・・・売り上げに貢献するのがぽっちゃりの定めなのか・・・」


街開発が進む田舎に移り住んだのは碓氷家も同じで、碓氷家は氷川家よりも先に新築をイチから父親が自ら設計を手がけて建築した戸建に移住していました。腕前が評判な建築デザイナーである父親は自らが在籍する会社が関わった地域開発というのが現在の移り住んだ場所であり。イチゴが生まれる前の長男の誕生の頃から移住していたので、イチゴに関しては生まれも育ちも変わらないままでありました。そうした開発推進地区に移り住んだ利点は綺麗な街並みでしたが、古い街並みを愛する人との確執や「まだまだ発展が遅れるローカル駅周辺の最寄りとなる地区」など、田舎と都市機能の落差を上手く両立して利用できないと「なれないな」と苦労する住民がいるのやもしれませんが、碓氷家の家族は父親の財力で一般家庭よりも裕福な暮らしをしながら「通販も多用」したり。少し歩けば田舎の癒しを堪能できたりと、「ちょっとそこまでが長時間」になってしまう不便さも金銭でだいぶ解決してしまい。それも田舎暮らしのスタイルだと言わんばかりに不満は少なく都市化が進められていく地域の一部に参加した一世帯となっていました。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 碓氷家は比較的裕福でありイチゴがお小遣いのアップを願えば、条件さえ整えば簡単に上げてくれるくらいの恵まれた環境でもある。おまけに父親が長女のイチゴを溺愛しているので贈り物を貢いでは母親にバレて、親子共々しこたま説教をされるのも日課である。そうするとイチゴの外出しない堕落した生活スタイルの変化に、主に父親が心配して娘にお洒落な衣服をプレゼントしては外出をするように願っていました。そこにはあわよくば親子デートを考えてもいるくらいの家族愛があったのでしたが、とうの娘のイチゴは不動を貫いて淡白な反応をすることが多くなってきた思春期を過ごしてもいる。ただし、身近な異性として嫌っていたわけではなく、単純に父親の愛情が重すぎるために昔のように「お父さんも大好き」と言えない思春期特有の照れくささで鬱陶しくならない程度に「一定の距離」を置いているだけ。かくしてイチゴは自分の容姿では「檸檬」のように着こなすことができない「可愛らしい」父親からの衣服の贈り物はあまり着ておらずに、洋服棚に収納してばかりでは勿体ないので母親経由で換金してもらい、容姿に似合うボーイッシュな服装にコーディネイトをしていたのでした。そこは父親の愛も尊重してエロゲの資金にはせずに自分の好みに合う衣服へと変換させていましたが、イチゴに関してもデートに着て行くようなお気に入りのファッションは普段から愛用して「古くなったり飽きたりしたらすぐに捨てて買い替える」なんて贅沢は許されていないので、檸檬との日常的な散歩に勝負服は着て行かないのでした。


 そんなわけでイチゴは親からの遺伝である中世的な顔立ちに合わせた服選びに、さらに体型の変化でジェンダーレスになってしまう服選びをしがちになり、「たかが散歩。されど散歩」の日常的なお洒落に手を抜いた外着になってしまうと益々男性寄りな出立ちとなっていたのでした。ただし父親による小遣いアップの条件には女の子らしく長髪でいて欲しいという欲望が混じっていて、そのためイチゴは母親譲りの美しい漆黒の髪を靡かせるくらいの長髪をしている。これを運動をするときにはまとめてしまいポニーテールにしていることも多く、今ではその長い髪のおかげで男性に間違われることはないのでしたが、過去の髪が短かった頃のイチゴは「男の子以上にカッコいい女の子」として男女問わず人気があった栄光の時代がありました。しかし当人からしたら暑苦しくて短髪にもしたいのですが、怒られそうだからと母親に内緒で父親が娘の愛情を暴走させた条件を突きつけられてしまうと、イチゴも金に目が眩んでしまい今日の今日までずっとイチゴは長髪を貫いており。父親の職場恋愛の末に求婚して射止めた「母親」とお揃いになって、互いに知らないだけで親子共々父親から貢物を「こっそり」いただきあう仲間でもありました。




 イチゴと檸檬の二人はぽっちゃりであろうと地味な服装をして「オンナ」を捨てるような、初めから負けた精神のプライドも失った女の子にはならないとお洒落に気を使う乙女心は今でも失っていない。しかし今日の目的は萌え罰でもなく「ただの運動のための散歩」であるために、お洒落をしてタイトな服装になると運動がつらくなることもあり、機能性にも優れた服装選びをしていたのでした。そんな檸檬のゆとりがある服装をイチゴは弄り回して誘惑に負けるなと説教をしてあげましたが、最終的に勝ったのは檸檬である。かくしてあっけなく焼き芋を胃袋に収納させることになり、移動販売の店主に「ターゲット」に間違いなかったと密かなる「購入側と違う」満足感を与えていました。


「一本をシェアすればいいだろう。これ以上は譲れん!」


「あっ、それならそこのコンビニでピザまんを買ってきてもいいですか?」


「追加注文だと!? 貴様はぽっちゃりを卒業する気はあるのか?」


「甘いものと一緒にしょっぱいのも食べたいじゃないですか。先輩は何にしますか?」


「・・・・・・肉まん、お一つ入りマース」


「はい、あそこの公園のベンチで集合しましょう」


「やっちまったぜ・・・あばよ。ワタシの束の間の幸せたちよ」


これも冬の寒さの魔法だとしてイチゴも買い食いに付き合ってしまい、またもやダイエットは振り出しに戻ってしまうのでした。

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