付き合いましょう 5話 微増【中3 冬】

 碓氷家の食卓に檸檬が飛び入り参加をすることはよくある光景で今日のようにイチゴが知らないまま「いただきます」で「いや、帰らないのかよ」とイチゴがツッコミをするくらいに檸檬は馴染んでいました。今日はあらかじめネタバラシをしましたが、兄が不足分の買い足しを親から任命されて買い物を終えてから本格的な調理が始まり。この日はイチゴも檸檬の遊び相手をしていたので調理には参加せずに鍋料理が完成したところで呼ばれて、檸檬が参加した晩御飯となりました。ちなみにイチゴの母親は檸檬の丼飯の量も把握していて、白米を炊くならいつもよりも量を倍増させますが、今日はきりたんぽ鍋なので白米を食べたいならば冷凍ご飯となっており。メインのきりたんぽの後にはしめの大量のうどんが控えていました。


 檸檬は家族ぐるみの付き合いをしていたので碓氷家にもこうして招かれたりしながら、二人目の娘のように碓氷家族全員から可愛がられてもいました。碓氷家には両親に娘一人と大学生の兄の四人で暮らしており、氷川家は同じ男女比にして兄ではなく低学年の小学生の弟となっていました。その弟は姉を慕っているので、こうして檸檬が一人で碓氷家に長居をしてしまうと寂しくて拗ねてしまうので、檸檬は晩御飯を終えたら早々に帰宅して弟を甘やかす作業が予定されてもいました。


「きりたんぽにうどんまでついて・・・食べすぎるなよ。マジで炭水化物を攻略し過ぎると太るからな!」


「わかっていますよ〜 冬の鍋は身体にしみわたるぅ〜♡」


「おいコラ。檸檬ちゃんをいじめるな」


「兄貴も檸檬を甘やかしていると益々肥やすことになるぞ」


ぽっちゃりながらも愛くるしい容姿に、性格も親しい人にはかまってちゃんになるので碓氷家の兄にも檸檬は愛されていました。その愛され方は甘やかしにもなり、エロゲをこっそり盗んでは禁断の攻略までをする愚かな妹よりも、溺愛する天使な妹を優先的に愛でようとしてしまう、ある意味シスコンなイチゴと似たもの同士の妹の好感を我先にと奪い合いをする仲。その溺愛度の拗らせ方はイチゴが勝利して振り切れていますが、檸檬がイチゴを小悪魔の誘惑で利用できてしまうように、兄に対しても数こそ少なくても檸檬は同じようなアピールで「甘やかし」を得る器用な立ち回りをする賢い妹でありました。つまり檸檬はイチゴの前以外では無垢な「腹ペコ中学生」になりきっているので、扱いの差が現れてしまうのもやむなしで、それがときにイチゴには雑に扱われることを嫌がったり、檸檬を奪われて嫉妬してみたりと兄の存在事態が気に食わないこともあるのでした。


「檸檬ちゃんはこのままでも可愛いから許されるんだよ。お前とは違って天使なんだ」


「なら兄貴が檸檬を貰ってやれよ。兄妹の色眼鏡をなくしたら、兄貴もまあ、そこそこなんだしさ」


「バカヤロウ! お前から檸檬ちゃんを奪えるか。お前の将来は檸檬ちゃんに貢ぐ使命があるのだよ」


「貢ぐ・・・ぷふっ・・・確かに我娘は檸檬ちゃんに甘すぎるわね。あちらさんの家族に叱られない程度にすれば口煩くはしないから、これからも檸檬ちゃん専属の財布になりなさい」


「先輩、ゴチです♡」


「なんだそりゃ・・・外堀埋まりすぎてない!? 四面楚歌かよ・・・」


「そうそう。イチゴは女の子だからいいけど、兄はダメ。絶対に手を出したらダメ、清い交際だとしても絶縁よ?」


「かあさん・・・ありえないから。歳の差考えてよ」


「考えたから忠告をしているの。そうなるとイチゴが男の子であれば檸檬ちゃんを正式な娘にできたのに・・・」


「娘の前で母親が男であって欲しかったなんて言わないでよ・・・」


「私と先輩はラブラブですから、安心してください。私は浮気はしません♡」


「あら、二人は今も昔も仲良しね。なるほど。こうしてイチゴのお小遣いが消えるのか・・・だからってパパにはねだったらダメよ」


「お父さんが勝手に・・・」


「イチゴ!」


「へーい・・・」


「ということだからお前は浮気をするなよ。まあ、する相手がいないだろうがな」


「ウザ・・・絶対に兄貴より先に恋人を作ってやる」


「いや、俺はもう何人かと付き合ってきたんだけど」


檸檬でもツッコミに手一杯となる時もあるのに兄が合わさると余計にタチが悪くなる。イチゴは自分を悪く言われるのは兄妹喧嘩ではありがちで、不機嫌になることはあれど取っ組み合いになる喧嘩にまではならずに、本気で互いを傷つけ合うような喧嘩をするのは卒業した後でした。しかしイチゴは久しぶりに兄を椅子から蹴落としたい気分になるまで不機嫌となっていた。それは先程から兄と檸檬との距離が近いのが気に入らず、檸檬とのコミュニケーションが乏しくなりがちな兄であるからこそ一瞬となるこの時間を大切にしようとする気持ちは理解できなくもないが、それを檸檬までも積極的に許しているから「より仲睦まじく」見えてしまい妹が奪われたとイチゴはモヤモヤとしていたのでした。


「先輩、顔が怖いですよ〜 お腹がいっぱいなら、おうどんさを食べちゃいますよ?」


「もう、好きにしなさい・・・」


「わ〜い♪」


「おっ、まだイケるかんじ? もうひと玉いっとく?」


「オッス♡」


「かあさん、俺のと檸檬ちゃんの二人前お願い」


「ぬぁ〜にぃ〜!? 檸檬ちゃんをダシに甘えるんじゃないわよ・・・」


兄としても歳の離れた妹の保護者としてイチゴと一緒に時間を共有してきたことは沢山あり。その妹の友達である檸檬とも幼馴染と言えるくらいの関係性になるまでに親密にしてきました。檸檬は同級生の男児には過去のプチトラウマにより興味が削がれていたので、歳上の紳士的な男性の方に意識が向かうのも納得できる。さらに歳の差がありすぎて恋心自体は抱きませんが、甘やかしてくれるイケメンのお兄さんに好意的に感じて周りの幼稚な男児よりも頼り甲斐があるお兄さんの方に距離がグッと近づいてしまうのも頷けました。しかし檸檬ももう中学生でもあるので、男女の触れ合いには注意が必要でもある。そこで歳上の同性としての視点から今の距離感はどうなのかとイチゴは忠告したくもなりました。つまりけして恋人をとられたくなかったという気持ちではなく、あくまで先輩として隙を見せる後輩を護りながら、檸檬に油断しないよう忠告することにしました。


「あまり馴れ馴れしく触るなよ。幼馴染でも女の子だぞ?」


「おっと、ごめんね」


「いえ、お兄さんも楽しくて好きですよ?」


「天使だ。でも妹の嫁には手を出せないからナデナデはまた今度ね」


「はい♡」


「今度もないから!」


「ちょっと! ナデナデてナニ?? まさか兄は・・・」


「頭だから! かあさん、包丁向けないで・・・誤解だから!」


(母上、もっとビビらせろ。ざまーみやがれ兄貴)


小動物を愛でる様に兄が檸檬の頭を撫で出すと、撫でられることには慣れているぞとばかりに檸檬はされるがままに愛されていました。実に微笑ましい光景ながらも、兄のような男性からアプローチをされてしまい檸檬が靡いてしまうのは良しと口にしても、それが本音であるはずなのに別の気持ちまで生まれてしまい。イチゴはもうしばらくだけ檸檬には恋愛に夢中にならずに自分との幼馴染の時間に集中していて欲しいという素直になってもよいか難しい感情を抱えていました。姉として妹の旅立ちを願いつつも、寂しくて心から全力で祝福ができなくもある。


(そうさ。檸檬には女の子を泣かせない紳士的な男を射止めて欲しいという理由で厳しく監視しているんだよ。けして嫉妬だけではない・・・はず・・・)


檸檬に這い寄る男がろくな男でないなら親友として心配してしまう。もし檸檬が痩せてモテるようになれば彼女の明るい性格に惹かれて男がわんさか寄ってくるのだろう。そうなると檸檬が見極める眼力があればいいのですが、自分のような残念中学生を慕ってしまうくらいなのだから見極める力は乏しいのかもしれないとイチゴは過保護になっている。だからこそエロゲで例えるとその男に介抱を頼むとバッドエンドに向かう選択肢となることを檸檬に教えるように、イチゴは兄であっても異性なのだから「誤解を与えるような」触れ合いには注意しろと警告したのでした。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 夜も更けてしまえば流石に中学生の二人歩きは禁じられていましたが、ぽっちゃりあるあるで晩御飯は空腹に耐えられず夕刻の早くに済ませてしまうので、兄の付き添いも必要がないくらいの時刻にてイチゴは檸檬を自宅まで徒歩で送ってあげました。そうして近所ともあり大した会話もできることもなく二人は氷川家の前に到着してくれました。


「先輩の恋人アピール素敵でした。帰ったら垂直跳びをしておきます♡」


「貴様の部屋の床がお亡くなりになるからやめなさい」


(無邪気にピョンピョン飛び跳ねて、まだまだ子供じゃん。それなのにバストは反則級だし。異性の視線を集めている自覚が足らないんじゃないの?)


萌え罰を提案してからというもの、さらに檸檬はイチゴにあざとく可愛さをアピールするようになり。ここぞというタイミングでの甘えた声が幼い容姿にマッチして庇護欲を駆り立てるのでした。しかしそれは姉と妹の関係であればこそイチゴは魅力的に感じていて、現在は仮初でも恋人視点でもイチゴは檸檬を評価する必要がある。そうなると「実におしい」という感想が出てしまうのは致し方ないことではありました。これに関しては互いにぽっちゃりを卒業するまで抱き続ける悩みなのでしょうが、今のイチゴはあざとくも可愛い妹に色眼鏡抜きで萌えてしまえない、モヤモヤとした感情を抱えながら檸檬を送り届けていたのでした。


「いつの日か私も誰かのものになってしまう。そして・・・それは先輩も・・・でも、しばらくは先輩だけが触れてもいい人でしたね。私も気をつけます♡」


檸檬も一瞬だけ暗い影を落としてしまい。二人は似たような不安を抱えているのが仲良しな証拠である。しかし「恋人よりも友情を選んで欲しい」なんて本気で伝えてしまえないことも、身体はまだ成長途中ながらも精神的には大人の感性を持ち得てきた二人でもありました。かくして幼い容姿はしているのに身体の一部ばかりが急成長をしているアンバランスな檸檬が、あざとく甘えてくる仕草は年相応よりも僅かに幼くも見えてしまい「何処か危なげにも感じてしまい」イチゴは過保護な視点を捨てることができずにもいる。すると檸檬がシリアスな空気はサヨナラだとまた明るく振る舞ってくれたので、触れることが許されていると聞いたイチゴはいよいよスイッチが入ってしまい。先程からモヤモヤとした気持ちを晴らしたくて、我慢できずに檸檬の頭に許可もなく触れてしまい「今だけは自分のモノだと主張できる妹」を優しく撫でてしまいました。


「あっ・・・」


「そんなに兄貴のがよかったのかよ・・・」


「先輩も嫉妬ができるのですね。意外でした」


「なんとなくしてみたくなっただけだよ」


「つい触れたくなる後輩でごめんなさい」


「全然あざとくもないから・・・」


「はい・・・・・・」


(居心地が悪いわけではないけど・・・なんだろう。とにかく、甘酸っぱくて、少しこそばゆい)


ぶっきらぼうな台詞とは違いイチゴの手は優しく檸檬の頭を撫で続けてしまい、満足したのかポンポンと軽く頭を叩いてから手を離してくれました。そんな檸檬も小動物なりに主人を満足させようと大人しく愛でられてあげて、冬の寒空の中で白い息を吐き合いながら、しばしの沈黙のあとに檸檬は解放されました。


(先輩とずっとこうした関係が続いてくれたらいいのに。いつの日か先輩以上に夢中になってしまう人が現れるのかな・・・?)


変わっていくことに不安を感じるのは当たり前かもしれない。しかし新しい出会いをすることで以前までの関係性に変化が起きても、それがイチゴとの絆を全て失うものにはならないとわかっていても檸檬には目に見える形で「不変の友情が未来にある」と分かれば安心できるのになと夢物語を考えながらセンチメンタルになってもいました。そんな友情面では相思相愛を通り越して過剰すぎるまでに依存しあっていた二人は恋仲となれたことで、今の友情を含めていろいろなことを改めて先のために考える機会にもなっていました。


「先輩、かわいい後輩との別れが寂しいのはわかりますが、そろそろ冷えてしまうので帰ってください。身体に障ります」


「今のは少しよかった。腕立て一回分だな」


「ええ・・・採点がガバガバすぎませんか?」


「これくらいでワタシは落とせんよ天使さん」


「天使なのか小悪魔なのかはっきりしてください」


「自分で小悪魔と言いなさんな」


兄が檸檬を天使に例えたくなる理由も分かりますがイチゴにとっては小悪魔で、ときに打たれ弱かった過去もあるだけに、つい甘やかしてしまうこともあるので自制していました。それがイチゴのけして多過ぎない優しさであり、その時折り見せてくれるストレートな愛情表現に檸檬は昔から心を掴まされていたのでした。


「また明日」


「はい、ご馳走様でした。お兄さんにもまたよろしくお伝えください」


「兄貴は知らん」


「もう先輩たら! ・・・・・・ナデナデは不意打ちですよ・・・」


イチゴの背中を見送った檸檬はその後ろ姿に向かって聞こえない程度の声量で敗北宣言をしました。寒空の中で撫でられた時のイチゴの表情はなんとも言えない表情をしていて、檸檬にはその感情の正体を探ることはできませんでした。しかし兄から撫でられた時とは違い、さらに家族から撫でられた時ともまた少し違うような、特別以上の「唯一無二」の温かみをイチゴからは受け取らせてもらい「こうあってくれたら、気持ちは一緒なのにな」と希望はあるのでした。


(女の子は本気の優しさには弱いのです。先輩がそうやって私を縛るから、恋人が必要ないなんて思ってしまいます♪)


イチゴは選ばれた人ではある。そんな檸檬に選ばれたイチゴにしかできないことはいくつかあり、それを発揮してくれると檸檬は幸せになれましたが、ときどき檸檬は「これはただの友情パワー」であるのかと疑問に感じることはありました。それはイチゴの優しさに檸檬が特別すぎる感情を抱いていたからであり、思えば小学生時代にも寂しかったり泣き出しそうになってしまった時にイチゴが上から頭を撫でてくれた時があったと檸檬は思い出しました。それは二人の年齢があがるに連れて機会は減りましたが、あの時にイチゴが優しく微笑みながら檸檬を励ましてくれた優しさに惚れ込んだとも言えました。


(先輩は不器用でもタイミングだけは外さない人でしたね。辛い時、苦しい時には絶対に先輩が隣に居てくれて優しく慰めてくれた。そんなの、女性抜きで惚れちゃいます♡ うわっ、これ以上先輩を好きになったら先輩の未来のカレシにまで嫉妬しそう・・・せめてダブルデートができるように私も頑張らないと!)


こうして檸檬は過去の温かな記憶を呼び覚まして、またあの優しい微笑みを添えて頭を撫でて欲しいと考えてしまったところで小恥ずかしくなり、またもや家の前にて恥じらうことになったと熱くなってしまうのでした。そんなこともありダイエット企画始動初日は運動こそあれど鍋が美味しすぎてしまい、微増して明る日からの萌えて萌えさせて勝負が加熱することになるのでした。

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