イチゴと檸檬の幼少時【小学生低学年】

 他人との違い。少数派に対する偏見。そうしたものを嘲笑う者は大人でもいるのだから、まだ他人を傷つけてしまうことの罪深い行いを理解できずに無邪気な悪意を向ける子供がいてもとうぜんのことでもある。しかし形はどうあれ、そこで自分が同じ痛みを経験したり。教養がある大人に子供でも理解ができる理屈で諭してもらえたりと、他人との違いを受け入れることの大切さを知る機会を得られるのもまた「学校」というコミュニティでもありました。


 「学校」というコミュニティは学びの側面がありつつも、その独特の閉鎖された空間では意見の対立から喧嘩や、それこそ気に食わないという理由だけでイジメが発生することだってある。とはいえ事前に回避できればいいが、道徳を学ぶ機会は毎時間あるわけでもなく。一旦は理解しても忘れてしまうのが子供でもあるだけに、思いつきの行動で他人を傷つけてしまった。こうした後に見落としなく解決するような「事後処理」がまた大切な役割を大人は担っているのだろう。その介入度は個々の案件で違うので難しいところ。さらに言ってしまえば綺麗事と現実の乖離が一部にあるのが悲しい現実。喧嘩やイジメ。価値観の違いや童心からの脱却速度など。そうした違いがある生徒が沢山集まれば、すれ違いなども沢山起きてしまい。小さな問題が日々発生してしまうのもやむなしでした。




 檸檬は周りの小学生と比べたら体型が太ましくて、それをからかうクラスメイトがいたりもしました。小学生低学年の檸檬からしたらそれはショッキングな出来事であり。反撃し返す勇気もなかったのでその場で泣いてしまうと、意地悪はいけないことだと味方してくれたクラスメイトのおかげで、それからはあからさまな「周囲まで同調させようとするような」意地悪はなくなりました。しかし檸檬の悲しい体質であるお腹が鳴りやすい体質と、男児に負けないくらいの大盛りご飯をペロリと食べてしまう大食漢にいつしかグラトニーという不名誉な渾名をつけられてしまい。泣き虫ばかりではいられないと、多少は茶化されることに対しての耐性をつけながら月日は流れていきました。


 檸檬はイジメまでにはならないと感じながらも、一部の男子生徒からは引き続き味方が少ないような環境を狙い撃ちされて、冷やかしを定期的に受けては不快な気分になる日がありました。そうした気持ちを晴らすためにもさらなる暴食を家ではしていたのでしたが、檸檬は明るい性格や容姿もぽっちゃりに負けない愛らしいフェイスをしていたので、男子生徒からも一定の人気があったのでした。しかし幼い頃の男児は好きな女の子に意地悪をして関心を集めようとする残念な性格をしている男児もいて、檸檬をチクチクと刺してくるクラスメイトもそんな恋心を悲しい方向に向けてしまう悪餓鬼がいたのでした。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 そうして現在の檸檬は3年生となり少し大人に成長したと自慢げに4年生の高学年になっていたイチゴに笑いながら話していて、身長は伸びたのか怪しいと頭をナデナデされて「身長ではなく精神的には大人になれました!」と自己主張強めで反論すると、イチゴはやっぱり子供のままだと優しく微笑みながら撫でテクを日々磨くために可愛い妹の頭を撫で続けてくれて、檸檬は嬉しがりながらも照れくさくて「禿げるからほどほどにしてほしい」と口にしながらもイチゴと仲良く手を繋ぎながら頭を擦り付けてくる「もっと撫でていいのよ」アピールをして親友となっていたイチゴと下校をしていました。


「ひっぐ・・・うえっ・・・ゔゔぅ・・・」


「マジ、腹立つ。もっとぶん殴ってやればよかった」


ある一人のクラスメイトが檸檬にイジワルをしては周りの生徒や教師に叱られても、懲りずに檸檬ばかりを付け狙う男子生徒がいて。今日はその男子生徒の兄貴分らしき上級生までクラスメイトが引き連れていて、下校時の味方が少ない環境を狙い檸檬に二人がかりで心無い言葉を投げかけてきた。そうなるとイチゴとイチャイチャしていて楽しかったはずの檸檬は一気に暗い表情となってしまうのは避けられない運命でした。


「イチゴちゃんが・・・うぅっ・・・けが・・・やだぁ・・・」


実のところその悪餓鬼は檸檬を異性としても気になっているのですが、素直になれずに意地悪ばかりをして注意を引きつけてしまう中心人物であり。それでも檸檬に嫌われたくないからと「自分が考える」ギリギリのイジワルをしていたつもり。それに檸檬も耐性ができていたので呆れながら流していましたが、事情を知らない悪友の上級生が参加してしまったことで限度が引き上がってしまい。檸檬を好いていたはずのクラスメイトでさえ後に引けなくなり隣にいたイチゴまでも巻き込む「タブー」を今回はしてしまったことで、檸檬の中の我慢が崩壊してしまい大号泣をして膝から崩れ落ちてしまう。すると大切な妹を泣かした悪をイチゴは見逃すことはできずに、二体一の状況かつ男女差があろうと構わずに取っ組み合いの末に殴り合いにまで発展してしまった。


「はいはい、檸檬まで巻き込みたくないから殴り合いはもうしないようにするよ」


イチゴを危険に晒したくない檸檬はイチゴを止めようとするも、初めて生々しい喧嘩を前にして脚がすくんでしまい。怖くて声も出せずに泣きながら「早く二人で無事に帰りたい」と願うことしかできずに困惑もしていた。すると事態を察知した同じ方向に下校する生徒が騒いだり、駆けつけて止めようとしてくれた生徒がいてくれて、さらに騒がしさに通行人まで集まりかけたところで悪餓鬼二人は反省も謝罪もすることなく「これ以上は面倒ごとになるから」と自分勝手な理由で走り去ってゆきました。


「いつもいつもごめんねぇ・・・」


「は? 檸檬が謝ることではないでしょう。あの馬鹿な二人が悪いんだよ。女の子に優しくできない男なんてワタシたちの世界にはいらないっしょ。死んで償ってコイ、クソ野郎」


イチゴは怒りと身体の痛みを、そして檸檬は心に痛みを抱えながら道端に取り残されていた。檸檬が我慢できなくて泣いてしまったのは悪餓鬼から「イチゴが貶された」のと、イチゴの隣にいるのが「醜い女」であるのが笑いものだと言われたことで、自身を貶されたことよりも「太った氷川檸檬」という女の子がイチゴといるのが不釣り合いかつ、そのイチゴまでも残念な女の子扱いをされてしまったのが許せないことであったのでした。それで檸檬は思わず絶望から涙を流してしまうのでしたが、悪餓鬼が去った後に優しくイチゴに宥められながら今度は「大好きな人を貶されても、何もできなかった」自分に腹が立ち。イチゴは怪我を恐れずに立ち向かっていたのに泣いてばかりで情けないと痛感していた。しかし同時にイチゴには無茶をしてほしくはないとも案じていて、その全ての解決になるのは「自分がもっと強いメンタルを持っていれば」という我慢強さを磨くことに反省をしていたのでしたが、イチゴはそもそも人の痛みもわからずに意地悪ばかりをする男子生徒が悪いのだと、檸檬が気に食わなければ「また怒りの鉄拳」をしてあげるぞという勢いでいる。そうなるとこのまま泣いているとイチゴが殴り込みに行きかねないために檸檬は涙を乱暴に拭いながら帰りの道を力なく歩いていたのでした。


「うぅ・・・」


「うわっ、怒鳴ってごめん。その・・・もう泣かないでよ・・・」


(こういう時になんて言ってあげればいいんだろう・・・クソッ、イライラする。あの馬鹿はいつも余計なことをして)


イチゴは親の紹介で檸檬との交流が始まり。初めは年下の妹ができたようで頼ってくれることがお姉ちゃんみたいに大人に成長できたと感じられて甘やかしてばかりいました。今でもそれは続いていて、そんな家族想いなイチゴは歳の離れた兄が一人いるためか家族が「泣いている」という光景に出くわす機会が乏しいのでした。そんな背景があるからか、明るい檸檬が泣いてしまうのが兎に角「自分のこと」のように辛く感じてしまい。妹に泣かれるのを極度に嫌う体質になっていました。もちろんイチゴも仲良しな檸檬とすれ違いで喧嘩はありましたが、檸檬が泣いてしまえばすぐに反省して謝罪して仲直りをしてきた大親友。そんな可愛い妹を泣かしてくれたのだから、イチゴは殴りつけても怒りが収まらずにイライラした感情を表に出してしまうと檸檬を怖がらせてしまい。檸檬もここまで激昂したイチゴを見たことがなかった。そうした上での今までの抑えていた負の感情が一気に込み上げてきてしまい、檸檬は必要もない辞退をイチゴに伝えようとしてしまったのでした。





 檸檬としたらやり方は綺麗な解決ではなくてもイチゴが怒ってまで繋がりを否定しないでくれたのは嬉しかったことでした。しかし檸檬が小学生低学年で悪餓鬼に対応ができずに固まってしまったように、イチゴも経験不足で檸檬を安全に守ってあげられなかったばかりか。慰めてあげる言葉もわからないまま。ただ寄り添うことしかできずに情けなく感じていました。それでも一つだけ気持ちが合致していたのは「他人にどう思われようとも一緒にいたい」という繋がりを大切に感じていることでした。しかし檸檬は大切な人であるからこそ、イチゴが自分という存在が隣にいることで周囲から悪く思われていたのではないかと不安に思うあまり「不要」な遠慮をしてしまうのでした。


「イチゴちゃんといるとすごく楽しくて・・・イチゴちゃんが大好きだから一緒にいたいだけなのに・・・」


「ワタシもだよ」


「人気者のイチゴちゃんの側にいるのが、こんなおデブさんだとみんなは嫌がるのかな・・・」


「なんだよそれ・・・ワタシの人気なんて関係ないよ。そんなものを守るために別れるとか言いたいわけ? ワタシは檸檬がいなくなるのは嫌だからね! あんな馬鹿が言ったことは忘れなよ。それで檸檬が引き下がったら、それこそあいつらの言いなりじゃん」


「でも・・・私のためにイチゴちゃんが頑張りすぎるのは嫌だから・・・」


「妹のために頑張るのは当たり前でしょう! ねえ、あいつらの言葉ではなく、檸檬が大好きだと言ってくれる人の言葉を信じてよ・・・檸檬がいなくなったら、ワタシまで泣いちゃうじゃん・・・嫌だよ・・・それだけは檸檬の願いでも絶対に認めない・・・」


(イチゴちゃんにこんな辛い表情をさせちゃった・・・)


「イチゴちゃん・・・変なこと言ってごめんなさい。イチゴちゃんが泣かないために、私も強くなるね!」


イチゴは苦しんでいる檸檬の前では絶対に泣かないと決めていた。小学生ながらにイチゴは覚悟もあって、しかし子供だからこそ「大切な繋がり」が失われてしまうのではないかと恐怖して檸檬の不安を煽るような言葉を聞いただけでも瞳が潤んでしまいました。それでもイチゴは頑なに涙だけは見せて弱さを晒さないようにしてくれて、頼り甲斐がある姉を演じていてくれた。唇を必死に噛み締めながら顔を歪ませて耐えるイチゴの表情は頑張り屋さんでしたが何処か脆さも感じてしまい。殴り合いになっても泣かなかったイチゴが初めて苦しくて涙を出しそうになった瞬間を檸檬は見つめてしまい、自分の発言の過ちを気がつけたのでした。


「檸檬はそのままの泣き虫でいいよ」


「なんでぇ・・・私もイチゴちゃんを助けたいのに・・・」


「助けるのはワタシの役目。だから檸檬はワタシを癒す役目。だから檸檬はワタシの前では泣かずに笑っていてね」


「うぅ・・・泣き虫はそのままで泣かないなんて無理だよぅ・・・」


「あはは、こうやって頭を撫でさせてくれるだけでも癒されるからさ。だからワタシを好いている間はずっと隣にいてよ。気を遣って居なくなるなんて言わないでね」


「うん、でもナデナデは私のご褒美なのにイチゴちゃんが癒されるの?」


「檸檬だってアンコを撫でていると癒されるでしょう。それと同じ理屈だよ」


「あんこ・・・? もしかして飼い猫のみたらしのこと?」


「そう、それそれ」


「うぇぇ・・・私てイチゴちゃんにペットだと思われていたの・・・」


「クスッ、家族みたいに大事という意味だよ〜」


「わっ、それなら嬉しいな〜♡」


(檸檬が笑顔になってくれた。やっぱり檸檬にはずっと笑顔のままでいてほしい)


悲しい体験を今日はしてしまいましたが、イチゴと檸檬の絆だけでいえばすれ違いそうになるも不器用ながらイチゴが気持ちを伝えてくれて、過ちを気づけた檸檬は自分の存在価値がイチゴにもあると痛感できて、新たに繋がりが強固なものになりました。そしてイチゴはこの日から檸檬を不安にさせないような支え方を模索するようになり。檸檬はイチゴを頼るばかりではなく自分にもできる範囲での頑張り方を考えて「もっとイチゴに楽しんでもらおう」とする方面でイチゴの支えになれたならば幸せだなと子供ながらに二人は考え着いて、それぞれの特色で二人は支え合いながら絆を深めてゆくことになるのでした。

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