日常パート

付き合いましょう 1話【中3 冬】

 月日が流れる速度は現状の充実度や年齢などによって個人差が生まれますが「成長」に関わっている者からすると日々が過ぎ去る速度は早く感じてしまう者が多いのではないのでしょうか。特に成長著しい子供たち自身となれば、身体的変化一つとっても日々の積み重ねで変化してゆき。一日の変化は微々たるものでも、ふと気づいた頃にはある場所の変化に気づいて喜んだり照れくさくなってみたり。そうしたタイミングで「時が経つのは早いな」と感じる人はままいる。そうなるとイチゴからしたら惰性で過ごしていたので、さらに早く感じてもしまう。しかし詩的に言えば一生の内の一日を失ってゆく日々を「無駄」にしたと「嘆かない」程度には楽しめながら過ごせてもいた。それがイチゴの隣にいつだっていてくれた檸檬のおかげでもありました。


 檸檬とのまったりと過ごした将棋部での日常はそろそろ終わりが近くなっていました。三年の最終学期ともなれば卒業を控えるだけになり、イチゴも成績は優秀なので推薦で志望校の女子校に合格してそのまま入学を決めていました。女子校を選んだ理由は同性の恋愛を計画していたからではなく、親の財力で私立の学費が心配がない条件を含めて近場の通学が楽な学校をピックアップして、その中で学力が僅かに下であり確実に合格できる学校を選んだ。イチゴの父親は愛娘を溺愛しているので、イチゴの通学に安全性が高まる近場の学校かつ警備体制がある「私立」の学校に進学を決めてくれたことは大賛成していた。ここまでの情報ならばイチゴは浪人しないための安牌な学校を選んだといえましたが、そこはクセがあるイチゴの性格なので単純に人生計画を捻り出したわけではありませんでした。


 なんとワンランク下を選んだのは「やりたい学びがあるからではなく」その勉強自体が「楽になるから」という邪念の塊により選んだ高校生活でありました。しかしどういった理由にせよ、最低限のやるべきことはイチゴもしてきたので「偏差値自体は高めな学校」に家族の反対などなく、そのまま理想的な環境へと入学は決まってくれたのでした。


 そんなイチゴは父親に料理を振る舞うと「良いことが起きる」ことが多々あり、どうせならば「確実なもの」にしようと中学3年生から料理をスタートに指定して家事を学びながら家庭の仕事を手伝うようになりました。そうした娘の動機はさておき、やる気と結果を素直に見直した両親からは小遣いをちゃっかり上げて貰っていました。そんな下心もありつつイチゴは器用に料理のイロハを覚えて行き、高校への進学が決まった頃には料理を自分一人で作れるだけでなく栄養も考えられるまでに進歩していた。


 すると家族もイチゴの手料理を楽しみにしているくらい、イチゴは家族との団欒が失われていない思春期を過ごしていて仲が良い関係性を続けている。父親もいつかは自分も思春期からくる疎遠があるのではとハラハラしながらも、イチゴが甘えてくるのを待ちながら甘やかす日々を続けて、中学生活は父親の財力のおかげでイチゴの下心という愛情が離れてしまうこともなく高校生までそれは続いてゆきそうでした。もちろんイチゴは父親だけでなく他の家族とも理由なく刺々しい態度をしてしまうことはなく、思春期は「誰かさん」のおかげもあり穏やかな心でロンリーガールズプラスアルファを過ごせている。例えば異性の兄に18禁のゲームの購入を手伝ってもらう条件があるだけに、仲良くしなければならない理由があるともいえる。そんなこんなで中学生女子にしては危うい趣味を持ちながらイチゴは堕落した生活を絶賛飽きずに満喫中。それでも食事管理だけは自分でも行えるようになってくれたのが救いでした。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 刻一刻と一区切りの時が迫っていたある冬の「月曜日の将棋部」での放課後。イチゴはこうした「和やかな日々」は学舎が変わったとしても檸檬と一生を別つわけではないとして、そうまでしんみりせずに「むしろ趣味のエロゲを兄に頼らず買える年齢に早くならないかな」とさえ感じながら過ぎ去る日々にセンチメンタルにならずにいました。しかしそれはイチゴの視点での見解で、もう一人の相棒が同じ気持ちであるのかは伝えられていないイチゴからしたら「必要ならば必要なことをするだけ」と今は傍観をしていたのでした。


 こうして今日も微睡みながら平凡な日常会話をして、二人は「変わり映えのない幸せな時間」を過ごしていた時。珍しく檸檬から「真剣勝負」の一局を願われたことでイチゴが相手をしてあげると、初心者同士でも経験の差でイチゴが圧倒して「待った」が何度か繰り返されてしまう。真剣勝負に待ったはアリなのかは野暮なことで、緩い活動をしていた二人は楽しく打てるならそれでよし。しかしそこはイチゴのよくない性格が盤面に反映してしまい駒が次々とイチゴの駒台に「一方的」に乗せられてしまう。それをなんとか一矢報いてやると悔しそうに顔を強張らせる檸檬を見つめながら、してやったり顔で「いつ降参をするのか」と意地悪をしてしまうのがイチゴの悪い癖。優しさはあるのに可愛い妹に意地悪をしたくなる困った性格も有していて、手加減を忘れて苦しませるだけ苦しませていました。とはいえそれは信頼関係があるからこそ檸檬も見逃してくれて、それこそ戯れの回数だけならば大小合わせたら檸檬の方が多くここまではしている小悪魔要素も檸檬は秘めている。つまりこれは幼稚な遊びのワンシーンで今日はたまたま「イチゴの番」が「先」に来ただけでした。




 そうして切り返すことができない状況に追い込んだ途中で、檸檬は降参を口にする前に突拍子もない告白をしてくれたのでした。


「先輩、私たち付き合いませんか?」


「うむ、何処か行きたいところでもあるのかえ? 肉まんくらいなら奢るぞ〜」


「わかっていて、そういうのはよくないと思います。肉まんはゴチになりますが」


イチゴは風貌に見合った性格をしており、男性みたいな口ぶりと容姿に仕草と、エロゲをこよなく愛して心に男性器すら携えて毎夜暴発を繰り返す男性みたいな感性を持つ女子中学生でありました。言葉遣いもさることながら親しい者には毒を吐き、ときには荒い言葉遣いもしますがそれは主に気の知れた檸檬にばかり使うことが日常でした。そんな檸檬はイチゴの部屋に遊びに行ったこともあり、その時に隠しきれずにエロゲを見つけられてしまいエロゲの趣味を特定されている。それでも不快に感じて趣味の否定からイチゴの拒絶ともならずに、檸檬はイチゴとの交流を続けて「一定の理解」はありました。しかしそれを一緒になって拝見してしまう好奇心も趣味もなかったので、見て見ぬふりをしていたのが現状でもありました。それなのに突然、檸檬はイチゴと交際したいと切り出した。そんな脈絡もない申し出にイチゴは「いつもの冗談だろう」と決めつけてしまい、普段通りな振る舞いで返答してあげたつもりでしたが、何故か檸檬は真剣な顔つきを続けながら「ちゃっかりとイチゴからの小さなホカホカの白い愛情」だけは受け取ってくれました。


「いやいや、どちらかといえばこっちが普通だろう」


「それはそうですけど」


(そんなに早く肉まんが食べたいのなら遊びを切り上げればいいのに。クラスメイトに罰ゲームでの告白でも指定された? ワタシが男みたいだとでも? これでもママとして母乳が出る、れっきとしたメスじゃボケい!!)


いつまでガチコクごっこに付き合えばいいのだろうかとイチゴが悩んでいた側から、檸檬は表情は真剣なのに手先は下校時に楽しめる肉まんに意識が向かってしまい想像力だけで熱々の肉まんを手で「あつあつ」している光景を再現してしまうくらいに食いしん坊を隠しきれていませんでした。そうなるとイチゴは真剣勝負ではないと判断してしまうのはとうぜんで、檸檬の気まぐれに付き合うのが甘やかす姉としての務めなのだと「適度」に応対してあげることにしました。


「ていうかなに? ガチコクなの? 唐突すぎない?」


「私も照れくさいんですよ。気を遣ってください。本当なら先輩に勝ってから告白をするつもりでしたのに、負けちゃうし・・・先輩がわざと負けてくれたら・・・ううん、緊張を解すために時間が欲しかっただけなので、勝ち負けはどちらでもいいことですよね。ハァ〜、緊張したけど言えてよかった〜」


「いやいや、冗談だよね? ガチ風の空気をだすのはやめなよ。冗談も過ぎると対応に困るからさ?」


これはもしや中学生活が終わる前にガチ勝負をして先輩を一度は将棋で負かし、会心の勝利をもぎ取ろうと計画して密かに特訓をしていた檸檬が、残念ながら大敗をして腹いせに自分を困らせているのかとイチゴは考えつきました。ただそれにしては言葉がスラスラと出てきて負けた後の想定をしていたのか。もしガチな告白だとしたならば余裕があるようにも感じるので、イチゴはこれまでの付き合いから「まず真剣な交際の申し出ではない」と見抜いていました。とはいえ檸檬の「お姉ちゃん大好き依存度」も知っているだけに、女性に恋焦がれる気持ちをエロゲを通じて理解していたイチゴは「もしや」とも身構えてしまう。


「ほら、騙されないからネタバラシはよ」


「そういう反応は相手を傷つけるので私だけにしてくださいね。もちろん、私もされて悲しくなりましたが先輩が本気になれない理由も理解できます。だから見逃すのは今回限りですよ?」


「おおぅ・・・まだ続けるんだ・・・」


とはいえイチゴは散々近くに檸檬が居たのに「恋心」だけ気が付かなかったなんて事態があるのかが疑問しかなく。檸檬が必死に甘酸っぱい気持ちを隠しながら接していたなんて考えられない。むしろイチゴは自慢することでもないが檸檬の感情を敏感に察知して、それに対して最善と思う行動をしてきたつもりでした。つまりイチゴの視点からでは檸檬には同性愛を願う気持ちが「本気」であると伝わってこなく、そんな素振りも一度もなかったと記憶している。さらにイチゴは残念な姉に恋をする道に大事な妹を引き入れたつもりはありませんでした。そのため悪い冗談にしか思えず、真正面から愛の告白を受け取るという選択肢をできずにいました。


「私とは本気になれませんか?」


「本気もなにもきっかけがないだろう。なんだよ突然に・・・そんなに将棋でボコボコに負かしたのが気に障ったのか?」


もし檸檬の言葉が冗談であれば、本気にとらえたら恥ずかしく。エロゲで培われてきた精神年齢が活かされずにイチゴにも中学生らしい色恋に恥じる気持ちは残されてもいました。とはいえ檸檬が「本気」であれば実に失礼な決めつけをしているだけに、イチゴは早く「白黒」をつけて欲しいと願っていました。


「私たちはそれなりの付き合いですよね。きっかけなんて人それぞれですから、先輩が知らない内に口説いて堕としていたのかもしれませんよ」


「恋愛に発展する空気ではなかっただろう。焼肉食って恋愛とかありえね」


家族間の交流がある二人は檸檬の食いしん坊発言から始まり、家族総出で焼肉パーティーを先日も行い満喫していました。そこでまさかの伏線となる「ラブラブな食べさせ合い」が行われるわけもなく、むしろ肉の争奪戦をして激しい取っ組み合いをしていたくらいでした。そんな男子中学生のような日常を繰り広げていたのも二人がぽっちゃり同盟であり秘密を共有できる親友でもあったからでした。


「ぽっちゃりカップルらしいデートだと思います。お肉はスイーツですし!」


「肉はミートだよ!? 主食だよね!?」


こうしたおふざけができる理由は幼馴染の親友だからとイチゴは認めていて、そこから恋愛に発展する人もごく少数はいるのかもしれませんが、実際に自分たちが恋愛をする姿がまったく想像ができなくて「なにがきっかけ」であるのか「ぽっちゃりでも許せる別の魅力」があるのかと考えても答えがまるで見つからずに、イチゴはただただ自分には選ばれる理由がなくて困惑していました。そうなるとイチゴの方は檸檬を選べるのかといえば、檸檬が可愛いのは認めていますが、それはあくまで妹としての色眼鏡があるからであり。恋仲になるまで愛せるのかと問われたら、好きな要素はあるけど「足りない」と、モテない女子ながら理想だけは高いことを素直に告白して拒んでしまうのがエロゲの美少女を好いてしまった業なのかもしれない。

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