第8話 ハイパーインフレーションとジョジョランズ
昨日ジャンププラスで住吉九の『ハイパーインフレーション』が最終回を迎えた。
主人公のルークは自分たちの国家を建設し、最初の目的だった姉の奪還も成功した。ほとんどのキャラが勝利を手にした大団円で、敗北したのは人種差別主義者の小物だけだった。主要なキャラが一人しか死ななかったのも今どきの漫画では珍しい。
おそらく作者の住吉九はなじみのキャラが死ぬことでドラマが盛り上がる作劇法への反感があったと思う。
「個人が国家に勝つために国家とwin-winの関係になる」というアイディアは画期的だった。水木しげるの『悪魔くん千年王国』で天才少年悪魔くんは日本政府に武力で戦いを挑み、最後は仲間の裏切りで敗れる。
国家をモチーフにした漫画ではハイパーインフレーションと悪魔くんが抜きん出ているが、もしかしたら住吉九は「国家とwin-winの関係になる」というアイディアを悪魔くんの失敗から学んだのかもしれない。
今日やはりジャンププラスで荒木飛呂彦の新連載『ジョジョランズ』の初回を読んだ。読んですぐ
「荒木飛呂彦は変わらないな」
と思った。
荒木はコンプライアンスや社会道徳を平然と無視する悪党(というか嫌なやつ)を描く。その威勢のよさははるか昔ジョジョの第一回でディオが自分に駆け寄ってきた犬を蹴り飛ばした衝撃的なシーンからずっと変わらない。
こういう威勢のいい悪党は書き手が自分の未来や生活に絶対的な自信や安心を持っていないと書けない。逆にいうとほんの少しでも不安があったら悪は書けない。悪をエンターテイメントとしてとらえることができないから。悪は幸福な人間にしか書けないのだ。
荒木飛呂彦の漫画を読むと国家とか経済といったモチーフはほとんど出てこない。貧困は出てくるがリアルなものではなくあくまでエンターテイメントとして描かれている。荒木の少し下の世代にアメリカのラッパーエミネムがいる。荒木は若者の貧困やストリートの風俗を描くとき、エミネムの凄惨な生い立ちを参考にしているふしがある。
荒木は若くして世に出た天才だから貧困を理解できないのも無理はないが、彼が青春をすごした70~80年代の日本は世界一の金持ちで生活や未来への不安などかけらもなかったことも大きいと思う。
それに対して今二十代(のはず)の住吉九の漫画には国家や貧困や差別が重く大きく出てくる。
住吉の青春時代バブルはとっくに弾け、多くの天災や社会体制の変化もあって貧富の差が拡大し、人々は個人的なことだけでなくもっと大きなことを考えざるをえない状況に置かれていた。
どんな作家も時代と無縁ではいられないんだな、と二人の天才漫画家の作品を読んで思った。
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