他学年合同練習
ドッチボールで他学年との合同練習が始まった。
同じグループの仲間だが、戦う可能性がある。
まぁ、今回はあくまで練習だ。
戦う順番はクジで決まり、最初に一年と三年の戦いと成った。
三年生にはアメリカ人と思われるゴツイ男の人が居て、怖かった。
僕達のクラスからの選手は基本的に消極的な人物の集まりである。
同じチームの他の人に任せるしかない。
取り敢えず、痛くないうちに当たるべきだろうか。
「頑張れ天音君!」
白奈さんが遠くから叫び、それに寄って周りのヘイトが集まる。
当然、味方の。女子三年の中の一人からは複雑な目を向けられている。
クラスメイトじゃない仲間が僕の背後に回って来る。
正面に立っている僕に向かって飛んで来るボール。
それを横にステップして避けた。
バチ、痛そうな音が背後から響く。僕の回避能力は日頃の白奈回避で磨かれている。
後は相手の目と腕を見れば、躱すタイミングは普通に分かる。
きちんと見ていれば、僕はボールに当たらない。
緩やかなボールを投げる人のところで当たる予定だ。
どれだけ痛くないボールで当たり、ガイアでぬくぬく出来るかがドッチボールの真骨頂。
その為に僕は全神経を注ぐ。
後ろから押されそうに成るが、それこそ僕が一番回避しやすい行為だ。
日頃、背後から狙われている僕なのである。
「今度は瞬発力を利用しないとな」
そんな聞きたくもない考察の声が鼓膜を震わせる。
少しブルっとしたが、ボールを避けて行く。
てか、ずっと同じ人しか投げてない。確実に勝てる方法を選んでいる。
これが三年生がする事か? 一年相手に三年がする手か?
少しは手加減ってのをしないのか?
練習でも思い出を作るに来るのか。
「のわっ」
誰かの足に引っ掛かって、転けた。
そんな僕は格好の的、そこを狙って無慈悲にも真っ直ぐにボールが飛んで来る。
すぐに反応して、横に転がって躱す。
服が汚れる。でも、地面に挟まれてのボールは当たりたくない。絶対痛い。
結局、一年が負けて女子へと交代に成った。
「頑張るね!」
「ご勝手にどうぞ」
白奈さんに適当に返事をして、ドッチボールを観戦する。
基本的にボールをキャッチしてすぐに反撃している。ただ、男子と違って、三年も一年も皆が一番投げれる様にしている。
白奈さんの運動能力は本当に高い。流石は天井に張り付いて一時間待機出来る程の体力と腕力の持ち主だ。
上を向いた瞬間に崩壊した表情をした白奈さんを見た時の感想は、何も感じなかった。
びっくりし過ぎて何かを考えれる程頭が回らなかった。
戦いは一年が優勢だった。
「あの子やばくね?」
「ずっとキャッチしてるじゃん」
「すげぇ」
「可愛いな」
そんな先輩達の声が聞こえる。
青春だねぇ。
最後に白奈さんが小学生かと思ってしまう先輩に向かって優しくボールを投げた。
優しく、とは言ってもキャッチしにくいスピードだ。
完全勝利を収めた一年女子は騒ぎ立っている。
先輩の方は顔を濃く赤らめ、ボールを掴んで見つめている。
再び好感度ゲージが上がっている気がする。やばい方向に進まないかと心配になる。
一人だけ優しく投げた、それが返って特別感を生み出すのだ。
下校中、今日は部活がなく、白奈さんと美咲さんと一緒に帰っている。
男女比一対二の光景に男子の目が痛かった。好奇の目、嫉妬の目、憤怒の目である。
「体育祭速くやりたいなぁ」
「美咲は体育祭好きなの?」
「うん。勉強は嫌いだけど運動は好きだよ。白ちゃんの下位互換だけどね」
「そうですか? でも、学生の本分は忘れてはダメですよ」
「分かってるよぉ。そう言えば、体育祭って白ちゃん達の家族誰か見に来るの?」
その言葉に僕は動かしていた足を止める。
見に来る事が可能な学校なのである。色んな人は親や他校の友達を呼ぶ事だろう。
小学生の時は母親が見に来てくれた。だが、居なくなってから誰も来なかった。
当時の父親は疲弊して、当分何もしない廃人となって、仕事に打ち込んだ。
だから、中学の時は一度も親が来る事は無かった。
一人だけ教室で弁当を食べていた僕はとことん浮いていた事だろう。
いや、二年以降は違った気がする。そう、いつも一人、隣に誰か痛 居た気がする。
「天音君」
「なに?」
急に顔を覗き込んで来る白奈さん。確かに、急に止まったら驚くだろう。
ただ、白奈さんの表情は心配する顔ではなかった。
「もしかして、昔の事、思い出してました? 独りぼっちの天音君の為に一緒に弁当などを食べていた事を、さ」
「⋯⋯なんの事やら」
「ほらほら、表情に⋯⋯」
「「ん?」」
いつものように頬をつんつんして来ると思って顔を離したのだが、白奈さんは言葉を途中で止めて背後を睨む。
そのまま僕の腕を急に引っ張って、白奈さんを挟んだ反対側に移動させた。
そして、先程まで僕が居た場所に少し大きめの石が飛来した。
「いや、誰?」
飛んで来た方向を見たが、そこには誰も居なかった。
正確には居る。小学生を連れた母親くらいだった。
そんな二人が僕に石を投げて来る筈もないし、何よりもあのスピードで投げれると思えない。
「一体誰が⋯⋯て、それより速く退いてくれないか?」
「えーもうちょっとだけ!」
「離れろ」
抱き締めようとして来たので、急いで押し返す。
一度でも腕を回されたら、簡単に離す事が出来ない。
それだけの腕力を持っているのだ。
「クソリア充共が。爆発しろ」
「天音君となら〜」
「絶対嫌」
いつもの大局的な意見。
駅に到着すると、そこに人が近寄らず、空いている空間が存在した。
ベンチに腰掛け、足を組んでいる厳つい青年が居たのだ。
「あれ? どうした」
「お、天音ちょっと相談がな」
「口頭で?」
「あぁ。アポ無しですまんな。⋯⋯少し良いか?」
「あぁ、うん。二人共、先に帰って」
「私は天音君を待ってるよ」
「わ、私も、待って、良いかな?」
「だそうだ。成る可く速く終わらせてくれ」
「お前、日本では一人だけだからな」
「お前、それは普通に失礼な勘違いだぞ。鈍感不良好青年」
「え、なにそれ」
その後、人気が居ない裏路地に移動する。
「それで何?」
「いや。ちょっとな。そろそろ夏休みだろ? 夏限定料理で季節物を出したいんだよ。で、海をテーマで、海鮮料理をメインにしたいんだ」
「成程。どこか良いところの紹介ね」
「あぁ。頼めるか?」
「問題ないよ。寧ろ頼ってくれてありがとうな。美咲さん時の礼も兼ねて、良い所を紹介して貰えるように取り計らうよ」
「頼んだぜ、天音」
「あぁ、任された、玲」
拳を合わせて約束を取り合う。
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