ロリ先輩のお願い
現実は小説よりも奇なり。
僕にとっての奇妙な出来事、それは白奈さん絡みで絡まれる事であった。
図々しく近づくなとか、陰キャが近寄るなとか。
それならある程度の理解は示せる自分が悔しい。
だが、目の前の少女の言葉は違ったのだ。
いや、少女と言って良いかは不明な女性。
彼女は同じブロックの三年生、ドッチボールでブロック同士の練習で顔を合わせた事がある。
そんな先輩が僕を見上げて来る。狙っている訳では無い。そうするしかない身長の差があるのだ。
小説では良くあるだろう。先輩なのに小学生みたいな見た目のキャラ。
現実では中々居ない。とても失礼に当たるが、そう言う体だと思ってしまう。
だが、これは遺伝らしい。自ら説明してくれた。
さて、そろそろ状況を整理しよう。
まず、僕は小学生じゃなくて先輩に呼び出された。
顔は可愛い系、本当に小学生では無いのか疑いたくなる。
ただ、スリッパの色で三年生だと分かる。
顔を赤らめ、必死な目で僕を見て来る。
うるうるしているその瞳には怯えも含まれている気がした。
「成程。それで、白奈さんになんて言えば良いんですか?」
「えっとですね。一緒に遊びに行ける口実が出来たら嬉しいな〜って。お願いします!」
ぺこりと頭を下げて来る。
そう、彼女から僕はお願いされた。
白奈さんと遊びに行きたい⋯⋯直球で言えばデートしたいらしい。
そう、デートだ。これ以上はもう言わなくても誰でも理解出来る。
「あの、理由を聞いても?」
「それはさっきも言いましたよね! ワシが白奈ちゃんの事を⋯⋯」
「あ、その理由です」
「えっとね。えっとね。ボールを片付けて居る時に、野郎共が遊んで投げたボールがワシに飛んで来て、それを防いでくれたんですよ! その時の一言がもう。『大丈夫ですか? 先輩』って。ワシを一目で『年上』と判断してくれる人なんて居ないんですよ!」
子供のようにはしゃぎ、とても喜ぶ。
ブンブンと腕を振りながら熱弁してくれる先輩。
もしも普段の白奈さんの事を聞いたら彼女はなんと思うのだろうか。
いっそ言ってしまおうかと、思ってしまうが止まる。
さて、僕は自分らしさを貫く事にする。
「お断りします」
「⋯⋯なんでですか?」
「逆になぜやらないといけないんですか?」
「確かに、白奈ちゃんは可愛いよ。邪魔したくなる気持ちも分かる。それが同性なら余計にだよね。分かる、分かるよ! でも、先輩だからって、思って欲しい!」
「あ、いや。僕、白奈さんの事そう思った事ないですよ?」
ガチである。
「いや、そんな嘘求めてないから」
「嘘じゃないです。まじで、本当にです」
キッパリ速攻で返答する。そして、念押しする。
僕が白奈さんに対して思う事なんて、『気味が悪い』だけだ。
「嘘ですよね? だって、いつも二人で仲良く会話しているじゃないですか」
「一方的に話しているとは思わないんですか?」
「それに下の名前で呼びあっているじゃないですか!」
「同じ苗字だから仕方ないでしょう」
「仕方なくないもん! 同じ苗字なら逆に問題ないじゃん!」
もんって。もん⋯⋯もんか。
さて、この人の対応をどうしようか。
正直、めんどくさい。
喋り方や声音が本当に子供だ。だからと言って、子供扱いすると、火に油である。
火に二酸化炭素を送る方法を考えるしかない。
いっそ素を出すか?
「正直に言いますね」
「なによ」
「面倒臭いです」
「ドッ直球ね。じゃあ、連絡先だけでも」
「無いですよ」
「⋯⋯へ?」
僕の持っている連絡先なんて空や玲などくらいだ。
家族の連絡先なんて一個も無いね。優希君のも存在しない。
かなり数は少ない。
「嘘、でしょ? あんなに仲良さそうに話しているのに?」
「それって貴女の感想ですよね?」
「先輩に向かって貴女呼びは良くないと思う! それと、誰かさん構文やめなさい。それと、ワシの友達皆『あの二人カップルかな?』ってワイワイ喋ってるんだからね!」
「会話、ではなく喋ってる、ですか? もしかして、ただ人の会話を聞いているだけですか?」
「うっ」
図星みたい。一歩足を後ろに下げた。
そっか。この人は友達に成りたいけどその勇気が出なくてズルズル独りを引き摺ってたら三年生に成った人か。
なんか、悲しいな。
「そんな同情的な目を向けないで! 同情するなら白奈ちゃんを紹介して!」
「そうですね。同情やめる事にします」
「やめないでよ!」
同情して欲しいらしい。
と、そろそろ部活の時間が近いので、話を切り上げて弓道場に向かう。
「ちょっと、まだ話は終わってないんですけど!」
「⋯⋯先輩、一つ良いですか?」
「何?」
僕は素の目を向ける。
それを向けた瞬間に少しだけ冷や汗を流す先輩。
その状態で僕は言葉を放つ。
今だけは、例え先輩だろうが関係ない。もう、本当に面倒に成った。
「興味ないんで。自分の思いが本物だと言うなら、自分一人で動くのが良いですよ。あの人は、それを普通にやって来ますよ」
「何を言って⋯⋯」
「それに、先輩に協力しても意味が無い。自分の時間を他人の為に裂きたくはない。僕は僕の時間を大切にする、自己中ですからね」
それだけ言い残して、僕は弓道場に行った。
先程の事を忘れる様に弓道に打ち込み、帰還する。
「ね、体育祭何に出るの? 私は棒取り」
「ドッチですね」
「お、凄い意外」
「余りだったので、そこに入る形で」
「成程そうか。体育祭では敵同士だが、共に楽しもう」
「⋯⋯はい」
校門に向かえば、そこに背を預けて立っている小学生が居た。
既に夜六時。
だと言うのにここに居るのである。
他の部活の人を待っているのか、それとも杉浦先輩を待っていたのか。
「あ」
違った。
前提が違った。
小学生では無く先輩であった。
「あ、ようやく来たわね。待ってたわよ」
「⋯⋯妹さん?」
「⋯⋯」
暗い表情になる。
「同じブロックの先輩です。三年生です」
「⋯⋯ふむ。そうか。すみませんでした!」
「大丈夫。慣れてるから。大丈夫、だよね?」
「それで、僕に何かようですか?」
「⋯⋯君に言われて良く考えた。確かにその通りだと思った。でも、年が違う。簡単には近づけない。だから、お願いしたい。一度でも良い、ワシにチャンスを与えて欲しい」
「ん? ん?」
杉浦先輩が理解不能の反応を示している。
「⋯⋯お断りします」
「そうか。分かった」
とぼとぼと帰って行く先輩。
これで、少しは自分でやろうと思う気持ちが出るだろうか?
「い、良いのか?」
「良いんですよ」
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