体育祭の種目
「えー、そう言う事で、体育祭の種目参加メンバーを決めたいと思います。男女別でやるから。人数的に、誰かは二つ以上入って貰うからよろしく。級長をメインに話を進めてくれ」
七月一日、この日に体育祭がある。
その為、種目を決めて、六月一杯練習するらしい。
全く、僕のような存在が一番嫌う学生の大イベントじゃないか。
適当に余ったところに参加して、のんびり終わらせる事にする。
正直に言おう。僕は体育祭の勝敗に全く興味が無い。
「体育祭が終わったら直ぐにテスト週間。この学校、長期休みの後とか、大きなイベントの後とか、なんかバランスが⋯⋯」
「浮かれすぎない事を教えたいんじゃないか?」
「あ、天音君が私の独り言に⋯⋯プロポーズ?」
「阿呆か」
それだけ、僕の気持ちが下ブレている事である。
テンションダウンの今、何故か白奈さんに返事をしてしまった。
最近、不幸に会いそうだが、偶然にも回避する。そんな現象が続いている。
認めなくはないが、白奈さんの前の言葉が現実に成っている気がして、鳥肌が止まらない。
クラスメイト以外の人は、白奈さんを遠目に見たりして、僕に敵意を向けて来る。
嫉妬か怒りか。それが変な方向にいかないと良いと思ってる。
豪炎寺さんを最近よく見かける。彼女は強いらしい。体育祭で活躍するのだろう。
ちなみに体育祭の種目はベタかは不明。
綱引き、棒取り、百メートルリレー、部活対抗リレー、玉入れ、ドッチボール、借り物競争である。
順番はまだ決まってないらしい。
「ドッチボールの練習は男女混同、天音君、ドッチボールやろう!」
「おっけドッチボール以外やろう」
「あ、ちなみに練習は同じブロックのクラスと練習するから、男子は男子、女子は女子で練習する事を考えておいてくれ。出会い目的は無理って事」
白奈さんが顔を机に向けて高く振り下ろした。
ドン、と大きな音を立てた。少し痛そう⋯⋯机が。
「大丈夫か白奈!」
先生が立ち上がり、そう叫ぶ。
「大丈夫です。直面した現実に打ち潰されただけなので」
「本当に大丈夫か? どこかとは言わんが」
きっと頭の事を言っているのだろう。
レリーは足が速い人から決まって行く。女子の方には白奈さんも入っていた。
「走りたくないなぁ」
「クラスで男子合わせても最速なのに無理がある」
体力テストでクラス一の記録を叩き出した白奈さんは当然選ばれる。
特に五十メートル走、シャトルラン、反復横跳び等の足を使うモノが凄かった。
シャトルランを平然と一人で走っている白奈さんの姿に騒ぎたったのは言うまでもない。
そのままどんどんと選手が決まって行き、手を挙げなかった僕含む数人が埋め合わせで入れらる。
それは一番人数を取るドッチボールだった。綱引きが人気だったのはびっくりだ。
体育祭本番前日に行う体育祭予選で負けたらそこで終わりだからだろうか。
「後三人、誰かドッチボールやっても良いと言う人いませんか?」
白奈さんが笑顔で手を挙げた。
「なんでぇ」
「一緒の競技なら、練習時間で見る機会があるかもしれないじゃない。少しでもチャンスがあるのなら、そこを狙う。それが私のバージンロードよ」
「変な道を作るな曲がれ曲がれユーターンしろ」
「それは無理な相談ね。私と天音君の縁は例えダイアモンドで作られた刀でも切る事は不可能。核爆弾でも破壊は不可能よ」
「まぁ確かに、目に見えるモノじゃないからな。そして僕は目に見えるモノしか信用しない」
「本格的な態度で示せば伝わるって事?」
ジュルリ、と舌なめずりをする。
その艶かしいオーラから目を背け、ぞわりとこんにゃくで背筋を撫でられた感覚に苛まれる。
「いや、良い」
「良いの? 本当に?」
にゅふふ、と言わんばかりのニヤニヤの笑顔をしている気がする。
「まじで、止めて、まじで、本当に、まじで」
「そこまで拒否しなくても!」
そして、体育の時間は練習と成った。
リレーの練習は別らしく、ドッチボールを優先させられた白奈さんと共に、ドッチボールを練習する空間に足を運ぶ。
ゆっくりと歩いていると、横に体操服の白奈さんがルンルンで歩く。
その姿に周りからの目が痛い。ただ、一人だけ本当に鋭い視線を向けて来る人物が居る。
「豪炎寺さん⋯⋯」
「⋯⋯」
豪炎寺さんの方を見ると、ぷいっと言うには何か尖っている気がするが、目を背けられた。
あれは僕を睨んでいたのだろうか。それとも、白奈さんを睨んでいたのだろうか。
白奈さんを睨んでいたのなら、もしかして⋯⋯いや、勘違いかもしれない。
下手な詮索は止めよう。
それで変な勘違いをしたままにして、二年で同じクラスに成った場合、確実に変な空気になる。
「天音君って、あの人と何か縁がある?」
いつもの白奈さんとは違う真剣な眼差しで問うて来る。
この曖昧な問に僕は正しい答えを求めたいが、それに答えてくれる人物は居ないだろう。
縁⋯⋯もしも僕の知っている豪炎寺さんの娘だとしたら、確かにある。
だが、より良い職場に移して、過去の誤ちを精算させた僕にあの様な目を向けるだろうか?
豪炎寺さんの瞳が僕と白奈さんどちらに向けていたかは分からない。
だけど、あの目は本当に良く知っている。
昔の僕と空が、あの目だった。
「特に無い筈だ」
「そう? 例えば恨まれたり、とかさ」
「無い無いある訳ない。知ってるだろ? 中学の時の僕を。小学にはあそこまで目立つ人は居なかった」
と、思われる。
小学の時はまだ母が居たり居なかったりする時期で、精神が不安定だ。
そして、人と言う生き物、何よりも大人と言う生物を全否定していた時期だ。
特に思い出も何もない。記憶が無いに等しい。
「そうかなぁ? 私の知らない天音君の人脈を最近知ったばかりだからなぁ」
「君が僕の何を知っているんだよ」
「背中にホクロ合計一個、右腕の肩に近い場所に一個、右の足裏にもあるでしょ?」
「なんで知ってるの?」
「プールの授業でね」
そんな怖い情報を聞きながら、僕達と同じBブロックの五組の人達と面識を合わせる。
白奈さんが少しだけ笑みを浮かべると、大抵の男子は堕ちる。
凄いね。うん。少しの女子も少し明るい眼差しを向けていたが、嫉妬も入っている気がした。
特に一人だけ、恍惚とした表情をしていたので、少しだけ足を無意識に引いた。
男女で別れて、試合形式での練習が始まる。
ちなみに豪炎寺さん、彼女もドッチボールのようだ。
敵にしたくないので、祈っておく。
成る可く早く終わりたいので、味方には頑張って貰いたい。
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