中学からの助っ人
月曜日、校門を通っていると、右側を紅髪の女性が横切る。
前に話をした豪炎寺武満さんと同じ色の髪をしていたので、なんとなく気になった。
付け足して言えば、敵視のある鋭い目を向けて来たからだ。
遠目に眺めていると、白奈さんが睨んで来て、優希君が言葉を出す。
「豪炎寺さんだね」
苗字も同じ⋯⋯娘なのかもしれない。
「知ってるの?」
「うん。めっちゃ強いんだよ。入部してからすぐに強い先輩を倒して、先生も倒したんだよ。それで、今は部活に来てないんだ」
「へー」
普通に興味が無かったので聞き流した。
今日から席替えらしく、運が悪いだけか、或いは神の悪戯か、僕の隣に白奈さんが現れた。
嬉しそうな白奈さんに反して、僕は暗いオーラを出していた。
五月の下旬、ここまで来たら白奈さんの事を理解したクラスメイト達は僕になんの感情も示さなかった。
昼放課、美咲さんが僕のところにやって来る。
「ちょっと良いかな?」
その事に周りの人が驚愕して、見世物として見て来る。
白奈さんが机をバン、と叩いて鬼の形相を美咲さんに向ける。
「ごめん。大丈夫、ちょっと相談に乗って貰うだけだから。私は白ちゃんの味方だよ! 応援してるから」
「信じますよ?」
「信じてくださいな」
白奈さんが居る所では話せない内容。来た場所は人気の無い場所だった。
そこで壁に背中を預けて美咲さんが僕を見て来る。
「最近、誰かに見られている気がするのよ」
「パパ活を終わらせたけど、客がそれを許さずストーカーに成ったから助けて欲しい⋯⋯そう言えば良いんじゃないんですか?」
「少しはオブラートに包もうとね。まさにその通り。助けて欲しい。一度父を助けて貰っておいて、こう言うのは虫が良い話なのは百も承知よ。だけど、自分の力だけじゃ何も出来ない」
頭を下げて来る美咲さん。
「父? なんのことやら」
表情を変えずにそう言うと、薄らだが笑みを浮かべた。
前髪の隙間から目が見え、少し涙を溜めている事が分かった。
ストーカーの対処方法なんて知らない。
美咲さんのような人から頼られたら普通の人は誰でも軽くオーケーするだろう。
それに起こると思われる恋愛フラグを狙う人もいるかもしれない。
だけど、彼女と僕の中ではそれらは無い。
僕が彼女を善意で助ける事も、それに寄って起こるゲーム的イベントも無い。
それが僕の性格であり、彼女は白奈さんを応援すると言ったから。
つまり、僕なら何も問題ないから頼る⋯⋯そう言う事だ。
彼女の言っている事が全て事実だとしても、それで手を貸すか貸さないかは僕次第。
僕が拒否したらそれで終わりだ。
僕自身、彼女が一人でストーカーをなんとか出来るとは思ってない。
パパ活をやるような人達だ。簡単には尻尾を掴めないかもしれない。
撃退方法は色々と思いつく。だが、もしも相手の狂気が自分達の想定を超えた場合、それは最悪な形で現れる。
「どうして欲しいの?」
「え?」
だから僕は聞いた。どうしたいのか。
「どのように助けて欲しい? それに寄って僕に起こるメリットは何?」
何故、危険な事に善意で動かないとかいけないのか。
世の中は損得で決まる。
美咲さんの生活を正しいと思う方向に戻したのも、それに寄って起こる『得』を考えたからだ。
「メリットは⋯⋯無い、かも」
「なら、他の人を頼ると良いよ。⋯⋯頼るにしても、言い方は気をつけないといけないだろうけど。あと、バレても大丈夫と思える様な人、だね」
「だから⋯⋯」
「僕か? 悪いけど、僕は危険な事に足を踏み込みたく無い」
それだけ言って離れようとした。
「白ちゃんの弱点」
「⋯⋯ッ!」
「白ちゃんの弱点を一つ教える! これで、取引は成立しない? 白ちゃんを抑える事の出来る、手札の一つ、天くんにとっては、良い報酬だと思うけど?」
情報、それは今の社会では一番重要で貴重なモノ。反対に危険なモノでもある。
それは何も社会だけでは無い。この学校生活においても重要である。
部活に居る人達、その人々の性格など。
利用出来るか出来ないか、頼りになるかならないか。
そして、僕と言う学校をどうでも良いと思っている人物は平穏を求める。
そんな平穏を僕は手に入れてない。それは白奈さんと言う存在が悪い。
それを抑える手札? それが報酬?
「美咲さん。君は僕を利用出来る、そんな手札を持っているみたいだね」
「回りくどいなぁ。交渉成立、だね。あと、なんか厨二くさいから気をつけて」
それから下校。
月曜日は部活が休み。白奈さんは部活。
美咲さんも部活は無いとの事で、一緒に帰る。
優希君は基本的に部活は毎日ある。複数入っているからね。仕方ない。
「あ、靴紐が」
靴紐が解けていたので、結び直す為に屈む。
刹那、僕の頭を掠める野球ボールが天より落ちて来た。
それもかなり速度。かなり高い位置から自由落下したか、或いは⋯⋯屋上から誰かが投げたか。
屋上を見ても誰も居ない。
「部活を始めるのはまだ早いよね? と、言うか。ここまでボールが来る事ある?」
「無いだろ。確実に僕を狙って来た。⋯⋯全く、僕が何をしたって言うんだか。人を待たせているし、行こう」
「う、うん」
そして、僕達はとあるビルの下に来た。
ここはざっくり言えば高級ホテルである。その入口に筋骨隆々の男が立っていた。
ホテルの外観をぶち壊して、人を寄せ付けない、ヤンキー君だ。門番では無い。
「え、ちょ天くん! ダメダメ、流石にアレはダメ!」
「大丈夫大丈夫」
流石にホテルは無いと考えた美咲さんは消去法でヤンキー君が目的人物と判断した。
遠くから見ても分かる。彼には関わってはダメだと。
身長も二メートルと高いが、あれでも同学年だ。
「おう! 天音、久しぶりだな」
「
玲、彼が今回助っ人に頼んだ人物だ。
「彼女が?」
「あぁ。愚かな行いをして、その罪が返って来ている女性だ」
「言い方少しは考えてよぉ。美咲です。よろしくね玲くん!」
「あ、えと、うっす」
顔を赤らめた。
「天くん。なんでここを選んだの?」
「なんでって、頼るんだから僕達から足を運ぶのは当然だろ?」
「はい?」
あ、言ってなかった。
僕は高い高いホテルを指しながら、サラッと言う。
「ここの次期オーナーなんだよ。こいつ」
「へ?」
「今は下っ端として勉強中だ。接客応対掃除から料理まで。ホテルに関わる事をここで基礎固めをし、他のホテルや旅館で修行を積むつもりだ。んで、最後に経営を教わって、次期オーナーに成る予定っす」
「⋯⋯」
口が閉じれない美咲さん。
見た目は脳筋だからね。仕方ないよね。
「ちなみに、中学ではずっと僕達と同率の一位だぞ、テスト。全国実力テストでも良い点数取ってるし、体力テストでは学内新記録を達成し、体育祭ではコイツが居る組が確定で勝つとまで言われてる」
「照れるっす」
「簡単に言えば単純な優良物件だな」
「なんっすかその言い方!」
ちなみに、その見た目故に客からも怖がられていると、僕は知っている。
優秀だが、遺伝的に貰った怖い顔は不向きだな。
そんな彼に応援を頼んだ。
「流石、天くんってところ?」
「いや。彼は純粋だから、助けを求めたら助けてくれるよ」
「俺、そんな奴ですか? まぁ、ただ、天音に恩を返せると考えると、やる気が出るぜ。で、何すれば良いんだ?」
「え、ただのボディーガード」
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