勉強会と言う名の課題消化

 帰りの車は行きと同じだった。返して貰ったラノベを読んでたら酔った。

 今は完全に潰れて、高速道路の壁をまじまじと見ている。


「学ばないなぁ」


「と⋯⋯」


 写真を撮っている白奈さん。

 「撮るな」と言ってやりたいが、一言喋った瞬間に中から上に登って来る感覚が来たので、口を閉じた。

 もう、車に乗りたくない。


 それからゴールデンウィークも終わり、学校の昼休み、僕は優希君に頭を下げられていた。


「僕に数学を教えて!」


「自信ないの?」


「一応参考程度に」


 スマホの写真で中学の時の点数を見せてくれる。

 平然と点数を見せてくれる。信用して頼って来ているようだ。

 ちなみに、優希君の点数はどれもそこそこ良かった。

 しかし、数学だけは⋯⋯この高校基準なら赤点だ。


「そんなに数字に弱いの?」


「暗記だけなら得意なんだけど⋯⋯」


「そうだなぁ。いっそ全パターン暗記したら? テスト週間だし、部活も無いから、良いよ」


「ほんと! ありがと! あと、全パターン暗記出来たら僕は特殊能力者だよ」


 本当に女の子みたいな笑顔をする優希君。

 だが、そうなると場所はどうしようか?


「ウチで良いか?」


「え、良いの! 僕、友達の家に行くのって憧れがあったんたねぇ!」


「そうなの?」


「天音君には無いの?」


「無いな」


「え〜」


 友達、ね。


 そして放課後、僕の部屋には優希君、美咲さん、白奈さんが集まった。

 その事に優希君がオドオドしながら僕を揺らして来る。

 だからドヤ顔で言ってやったよ。「知らね」ってね。


「で、なんでお二人さんは居るの?」


「テスト勉強」


「私は白ちゃんに勉強を教わりに来たら⋯⋯こうなった。よろしくね」


「はぁ。はぁあああ。はぁあああ」


「天音君、僕は大丈夫だから、そんな露骨に嫌がらなくても」


「白奈さん達は白奈さんの部屋でやりなよ」


「私の部屋散らかってるから」


 僕はすぐさま白奈さん部屋に向かう。向かわないといけない気がしたからだ。

 だが、食い止められた。


 そして、僕達はまず、テスト課題を終わらせる事と成った。

 僕と白奈さんはスラスラと問題を解いて、優希君も数学を後回しにして解いていた。

 しかし、美咲さんは英語のワーク(最初)から止まっていた。


「美咲。そこは授業のコレを使えば解けます。解きながら、きちんと心の中で三回は復唱してください。担任が分かりやすい様に纏めているので、きちんと読み方と単語を一致させて覚えるんです」


 授業用タブレットを開きながら説明している。

 きちんと見ている様だ。

 時間がコクコクと過ぎて行く中、先に根を上げたのは美咲さんである。


「だぁー、もう無理」


「勉強大っ嫌いを自称しているのに、英語のワークを終わらせただけでも、素晴らしいです」


「ドヤー」


 にっこりと笑い、Vの字を指で見せる。


「白ちゃんはどのくらい終わった?」


「ワークは終わったので後はプリントだけです」


「早っ!」


「白奈さん、凄いですね。僕はまだワークですよ。天音君は?」


「ん? あぁ、終わって暇だったからラノベ読んでた」


「余裕綽々!」


 無理してやっても無意味、休憩する事とした。

 と、言うか時間的には6時であった。


「あ二人は門限とは大丈夫?」


「あ、僕は大丈夫です。友達って言ったら喜んで送り出してくれました〜」


 暖かい笑みを浮かべる優希君。


「こっちは転職して、『仕事楽しー』って狂った様に仕事脳に成ったから大丈夫だよ」


 僕を睨んで来る美咲さん。

 恨みは籠って成さそうだが、違う方向で父親が壊れて拗ねている様である。複雑な感情の目だ。

 そんな雰囲気を読み取った白奈さんが黒い笑みを浮かべる。

 背後に悪魔が見えた美咲さんは笑顔を作った。


「じゃ、晩御飯でも作るよ」


「良いの?」


「あぁ、そのまま勉強も続けるか」


 と、言う訳で僕と白奈さんはキッチンに立つ。

 その光景に驚く二人。二人とも家族に連絡を入れていた。

 両親は残業で夜遅いので作り置きしておけば問題ない。

 最近、残業が多い気がする。ま、どうでも良いか。


「あ、天音君醤油取って〜」


「はいよ」


 一緒に料理していると、二人がニンマリとした笑顔を見せていた。


「なんだよ」


「いやなんか、二人共夫婦みたいだなぁと思って」


「止めてくれ、まじで」


 鳥肌が立った。


「え〜やっぱりそう思う? 東條君分かってるじゃん! 完全犯罪なんて考えてごめんね」


「待って! 何その物騒な話しっ!」


 腰をクネクネさせる白奈さん。

 美咲さんも同じ意見なのか、僕が睨むとそっぽを向いた。


 完成した晩御飯を机に並べると、二人共目を輝かせた。

 食べ始めると、一つ一つに舌鼓を打ってくれる。


「美味しいよ天音君!」


「ほんと、美味しい。ありがとうね白ちゃん」


「あぁ、数学、頑張ろうな」


「早く課題終わらせようね」


「「あい」」


 その後、再び課題を再開させ、僕は優希君に付きっきりで教えて行った。

 流石に遅くなったので、そろそろ帰す事にする。

 泊まらせるには、環境が揃ってない。

 僕達は四人で駅に向かった。


「東條君と私の家の方向が同じだったんだ。⋯⋯なんで知ってるかは聞かないでおいてあげます」


「「感謝します」」


 優希君と一緒に頭を下げる。その光景を訝しげに見る白奈さん。

 二人を美咲さん、優希君の順に家に送り、僕達も家に向かって帰る。


「ね」


「何?」


「最近、お母さんとお義父さんの仕事、帰り遅くない?」


「やっぱり気になってたか」


「当たり前じゃん。⋯⋯なんか、あるのかな?」


「繁忙期ってやつじゃないか? 悔しくは知らないし、興味無いよ」


「あはは、天音君らしいね。天音君は見てないから分からないかもしれないけど、最近お義父さん痩せているんだよ」


「あっそ」


「⋯⋯あのままだと倒れちゃう⋯⋯かも」


「だったらなんだ? 素直に言いなよ。今更そんな回りくどく聞く程じゃないだろ」


 ばっと僕の方を見て、目を星にする。


「それって、それだけ深い関係って意味!」


「そんな意味じゃない。あくまで、本音で話しても恥が無いって意味だ」


 本人に向かって堂々と愛していると言える程だ。今更回りくどく聞く必要は無いだろう。

 だからと言って、馬鹿正直に話す訳じゃない。

 僕も、白奈さんも、言いたく無い事はあるのだ。

 僕の言う昔と白奈さんの言う昔。

 きっと、裏表の無さそうな優希君にもあるだろう。

 それが人間だ。


「テスト終わった頃の休みに、二人の時間を用意したいんだよね。二人でゆっくりして貰って、絆を深めながら体を癒して欲しい」


「金ならやらんぞ」


「要らんでしょ? そう天音君にも思って欲しいからさ、明日の朝、お義父さんの顔を見てあげて。どれだけイライラしても、見てあげて。もしも見なかったら、私が無理矢理見せてあげるから」


「へ〜、どうやって?」


「頬にキスして、硬直した瞬間に顔を動かす」


「分かったよ」


「そんなあっさりしなくて良いんだよ〜こんな美少女なんだよ! 寧ろ敢えて反抗するところでしょ!」


「知らんがな。てか、良く平然と言えるな」


「今更、なんでしょ?」


 なんか負けた感。


 しかし、明日の朝、僕達が両親と会う事は無かった。

 作り置きしてあった晩御飯は冷蔵庫にメモごと、きちんと置いてあった。

 それ即ち、昨日、或いは今日の深夜、両親は帰って来て無い事を示す。

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