父親のミカタ
ゴールデンウィークへと突入し、白奈さんは当然の様に部活の予定も把握しているらしく、部活の無い日にキャンプに行こうと誘って来る。
当然、家族全員でのキャンプだ。
僕の答えは決まっている。
「楽しんでこい」
「天音君が居ないと楽しくないよ〜一緒に行こうよ〜」
「駄々っ子か。断る」
「えーなんでー」
「興味無いし嫌だからだ」
「そっか」
白奈さんにしては素直に引き下がった事に少し驚くが、深堀する気は無い。
そのままドアを閉めて追い出そうと思った所で、白奈さんは指を下に刺す。
「なんだ?」
「強制参加」
「知らんな」
「へ〜良いのかなぁ。天音君が義妹の下着姿の写真を掻き集めて保存しているって噂を流しちゃおっかなぁ」
「そんな証拠が何処にあると?」
先程指を刺していたマットを剥がして中から複数枚の写真を取り出す。
それは着替え中の白奈さんの姿。白い肌が大幅に露出している。
当然、僕は撮った覚えがない。カメラを用意した覚えもない。
何も覚えが無いのに、その写真は盗撮したかのように撮られている。
「⋯⋯僕、そんな写真知らない」
「言い訳なんて見苦しいぞ〜」
「言い訳じゃない! おまっ、まじで何やってるか分かってるか? てか、どうしてそんなに枚数があるんだよ! なんで気づかなかったんだよ僕!」
「風呂に入る度に用意してたんだぁ。それに、バレるように仕組まないって〜」
なんだろう、この笑顔。思いっきり殴りたい。
きっとスッキリするんだろうなぁ。はは。
「なんでそこまで連れ出したいんだ」
「引きこもりを解消させようかと」
「部活もやってるし、問題ないだろ。引きこもって無い。外に出る必要が無いだけだ」
「それを世の中引きこもりって言うんですよ〜」
だが、僕はどうしても行きたくない。
遠出だけでも最悪と言って差し支えないと言うのに、さらにキャンブだと?
虫が居るだろ! 僕は虫がそこそこ苦手なんだ!
どうしても行きたくない。どうしても行きたくない理由が三つもあるよ。
「それを言って、誰が信用してくれる?」
「私って、可愛いからクラスでは人気だし〜SNSではフォロワー10万越えだし〜声を拾わない映像だけの防犯カメラを設置してあるよ〜」
「な、なんて抜け目のない奴。何気にフォロワー10万って凄いな」
「コスプレ写真投稿してたら自然と増えたのよ」
中学の時は素の見た目を隠していたし、余計に他人にリアルがバレなかったのかね。
しかし、ここまでされると普通に脅しな気がするのは気のせいじゃないだろう。
ネットにその事を書いても僕だとバレる可能性は低いと思うが、⋯⋯そうだな、白奈さんがここまで必死なんだ、行ってやるか。
「あー行きたくねぇー」
「珍しく素を出しましたね」
そしてキャンプに行く日となり、大きな車に乗って四人でキャンプ場へと向かって行く。
だが、その中で僕は一言も言葉を発し無かった。
ラノベを読んで、酔っている。
大体は義母と父親の会話である。
「天音君の寝顔(?)だぁ」
高速のシャッター音が聞こえるが、体が動かない。
これは深刻な酔いだ。
普段から電車は使ってあるが、車は基本的に使わない。
馴れない車で、しかもラノベも読んで、完全に車酔いをして体が動かない。
頭がクラクラする。
「ぁ」
絞り出せた言葉がコレだ。最初で最後の言葉だ。
酔い止めが欲しい⋯⋯誰も酔ってない。つまり必要ない。
これからは酔い止めを常備していよう。あと、念の為に袋も。
ま、途中から気を失って普通に寝ていたのだが。
目的地に到着した。
他の客人も居る、整備された場所である。
テントを設置して行く。僕はやり方が分からないので、白奈さん達に任せ切りだ。
「慣れてますね」
「はい。前に家族でした事がありまして」
義母と父親の会話。
白奈さんが僕のベットで寝ていた時の事が過ぎる。
何があったのか、何をしたのか、僕は絶対に聞かない。
聞いてはダメだ。
僕はバーベキューの準備をする。
ちなみに焼かない。そう言うやり方を知らない。
知らない事はやりたくない。火を使うし危険だからね。だから立てて炭を入れる程度だ。
白奈さん母娘に頼る事にする。
「ほれほれ〜暇なら釣りにでも行ってまいれ〜」
「ちょ、こんな所で魚なんて釣れるのか?」
「人も多いし、問題ないんじゃない? ゴーゴー! 魚釣っても捌けないから逃がしてね」
「まじで釣る意味は! しかもなんで釣竿があるんだよ!」
本当に戦力外なので、行く事に。
適当に椅子を設置して座り、ラノベを読みながら⋯⋯無い。
「テントか車に置いて来たか。スマホは⋯⋯あるな。電子書籍にするか」
目が痛むから長時間の読書は控えるがな。
暇だなぁ〜と思っていたら、隣りに最悪の存在が立つ。
同じように釣りを開始する。
体力があるから手伝う傀儡と成れば良いモノを。
「な、なぁ天音」
「⋯⋯」
「その、本当に悪かったな。悪いと思っている。反省している。許してくれとは⋯⋯思ってない。だけど、二人の前だけでも、普通の親子として振舞ってはくれないか?」
「⋯⋯普通って何?」
「そ、そりゃあ」
「普通ってなんだよ! あんたの普通は仲良く会話する親子かもしれない! でも、僕の中では親を嫌う子の親子が普通なんだ! そうしたのはあんただろ! それをどんな詭弁を並べようと覆らないんだよ!」
「⋯⋯本当に」
「すまない? ごめんなさい? はぁ? 謝って何に成る! 反省して何に成る! 何も成らないだろ? 母さんが帰って来るのか! 過去の記憶が消えるのか! 帰って来ないし消えない! はぁはぁ。もう良いか? 満足か?」
「⋯⋯」
「大体、さ」
引っ張られ、竿を引く。
「反省しているなら、母さんが苦しみ辛い時に不倫した相手に誠意を見せるべきなんじゃないか?」
「ぅ」
糸が切れた。石にでも引っ掛かったのだろうか。
「もう話す事は無い。⋯⋯じゃ」
「⋯⋯本当に、すまない。俺は、父親として、最低な⋯⋯」
「勘違いするなよ。『父親』じゃなく『男』として『人間』としてダメだ。それが分かって無い時点で、あんたは『言葉』だけの人間だ。『言葉』だけの人間は信用にも信頼にも値しない」
それだけ言い残し、僕は二人の元に帰る。
その道中で白奈さんとすれ違い、どこか悲しげな目を向けて来た。
あの光景を見ていたのだろう。
「君の差し金か?」
「⋯⋯」
「成程ね。あそこまでした理由が分かったよ。君は、『父親の味方』なんだね」
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