影神

か弱き子



打ち上げられた花火を。


ただただ見るのが好きだった。



ここは静かな場所で、普段は誰も来ない。


空と私と。夜空に打ち上げられた花火だけ、、



遠くに聞こえる太鼓や笛の音。


屋台で鳴る音や人々の話し声。



個々の混ざる事の無い、音たちは。


一瞬にして、花火の音にかき消される。



ドォーーン!!!


パチパチパチ、、



「た~まやー」



不意に背後から声がした。


私はびっくりして思わず振り返った。



そこには、紫陽花の浴衣を着た。


綺麗な女性が立って居た。



彼女は、私に気にも止めないで、


ただ、打ち上げられた花火に声を掛ける。



ヒュ~、ドドドン!!!


彼女「た~まやー」



ずっと静かだった場所には、


うるさい"客"が来てしまったようだ。



バン、バン、バン


彼女「た~まやー」



彼女は食べ物を並べ、そこで食事を始めた。


彼女「美味しい。。


やっぱり、来て良かったなあ、、」



彼女と私と空と花火と。


それは、まるで。


小さな時間を切り取ったかの様にして。



飾られた一枚の絵の様に。



そう。私には見えたのだった。



、、騒がしい。


せっかくひとりで楽しんでいたのに。。



なんて、邪険にも思っていた。



次の年も。そのまた次の年も。


彼女は、懲りずにやって来ては、


食べ物を広げ、夜空に向かって。



「た~まやー」



と、空へと叫ぶのであった。



うっとうしい、、



何色もの混ざった浴衣や、アサガオの浴衣。


気付けば私は、いつの間にか。



彼女を見ていた。



音が背後で鳴り始めると、


彼女は、美味しそうに食べ物を食べる。



彼女「はい。どうぞ??」


歩み寄ってきた彼女にびっくりしながらも。


私は声を掛ける。。



私が、、見えるのか??



何故。食べ物をくれるんだ、、



私は、、



去年。一昨年と。


花火は上がらなかった。。



だから、彼女と逢ったのはそれが最後だった。



人間は、、か弱い。


すぐに身体を壊し、すぐに死んでしまう。



彼女は、、


"大丈夫だろうか、、"



ヒュードドドドン!!!


「た~まやー」


懐かしい花火の音と。彼女の声を思い出しながら。



今日も私はただ空を見つめ。


花火が打ち上がる夜空と。彼女を。



今もこうして、待ちわびて居るのだった。










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影神 @kagegami

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