第4章 うたかたの愛


たいがいの女性は、異性への想いを胸に秘めると、より美しくなろうとする。身に纏うものもそうだし、化粧にしても入念になる。それは本人が意識することと合わせ、本能に基づくものなのだろうか。ともかく、そのように女性は、時めきという美を纏うのである。

美紀の場合も、新たな心時めくものに巡り会えたと感じた時から、そのようになっていた。

心揺らす何かを求める思いを抱いて急ぎ仕度をし、午後六時三十分を廻ると、待ちかねたように一階のロビーへと向かった。高ぶる胸で下りて行くと、すでに伊藤がロビーの隅で待っていた。エレベーターから出てくる美紀を見るなり、軽く手を振る。

「すみません。お疲れのところ、お誘いして」

小走りで伊藤の傍に来て、笑顔で応える。

「いいえ、こちらこそ。一人で食事するのも味気ないので、お誘い頂いてよかったです」

そう話す胸の内は、言葉以上に高ぶっていた。

「平田さん、お疲れではありませんか?」

気遣い尋ねた。

「いいえ、一休みさせて頂いたので大丈夫です。それより伊藤さんの方こそ、お疲れではありませんか?」

にこやかに返した。

「いいえ馴れていますから、疲れなどありません。それより美しい方と食事が出来ることの方が嬉しくて、夢のようです」

「まあ、伊藤さんって。お上手ね。そんなこと言って…」

「いえ別に、下心があるわけではないですよ。本当にそう思っているんですから。信じて下さい」

「分かりました。そうおっしゃるんでしたら、安心して食事に行けますわ。そうでしょ、伊藤さん」

「は、はい。その通りです」

背筋を伸ばし応えると、美紀がくすっと笑う。

「伊藤さんって、意外に真面目なのね」

そして、甘える仕草で言う。

「それよりも、お腹空いてしまって…」

「ありゃ、それは大変だ。それじゃ、早く行って飯にありつき、あいや、食事を頂きに参りましょう。待てよ、参りましょうと言うのも変かな?」

「そんなことありませんわ」

「いやあ、普段使い慣れないことを言うと、ろれつが廻らなくなるな」

「伊藤さん、気を使わなくてもいいんですよ。普段通りで」

「そうですか。それなら、そうさせて頂きます。それじゃ、行きましょうか。腹が減ったんで」

「ええ、そうしましょ。私もお腹すちゃった。それで、どこへ連れて行って頂けるんですか?」

伊藤の顔を覗い尋ねた。

「そうですね。気に入って貰える素敵な店があるといいんですが」

「私はどこでもいいです。連れて行って頂けるところであれば、それで結構ですけど」

「そうはいきませんよ。せっかく素敵な女性と食事が出来るんだ。美味しいお店じゃなくっちゃ駄目です」

「まあ」

二人は楽し気に会話し、ロビーを抜け玄関へと向かった。ホテルを出て待機するタクシーに乗り込む。

「有り難うございます。さて、どちらへお連れしましょうか?」

運転手が後部座席の方に振り向き、伊藤を見て伺った。すると尋ねる。

「運転手さん。どこか飯が美味くて静かな処を知らないかな?」

「そうですね。ここからですと、少し離れますが、私の推薦する店が二、三軒ありますよ。けれどお口に合うかな。それに、都会の料理とはいきませんが、北海道ならではの味を楽しめると思いますがね」

頷きつつ聞いていると、更に運転手が伺う。

「それで、お客さん。お酒の方は?」

「うん、ほんの少しだけれど、たしなむくらいだが」

「そうですよね。美味しい食前酒を頂かなければ、食事も進まないですからね」

勝手に解釈していると、伊藤が促す。

「運転手さん。そういうことで、洒落ていてお酒が飲め、美味しいものを食わせてくれるところがいいんだが」

「そうですか。ううん、あそこの店なら、東京から来て頂いたお客様に気に入って貰えるかもしれないな…」

「えっ、どうして東京から来たって分かるんだい?」

運転手に不可解な顔で尋ねた。

「そりゃ、この道長くやっていると、言葉使いで分かります。お二人は間違いなく東京からおいでになったお客様。図星でしょ」

「ああ、当たりだな」

「やっぱりね。勿論言葉使いだけでなく、服装や身のこなし方があか抜けていますからね。それにお嬢様の美しさなんか、地方の女性じゃ真似できないね」

当てて得意顔をした。

「まあ、嫌ね。私、そんなに綺麗じゃありません。運転手さん、おせいじが上手なのね」

「おっといけねえ。ところでお客さん。いい店ありますが、ここから三十分程なんですが、行かれますか?」

振り向き尋ねた。すると、伊藤が美紀を気遣い告げる。

「何という店か知らないが、そこへ連れて行ってくれ。ところで運転手さん、まさか場末の飲み屋じゃないよな。それなりに上品なところでないと、こちらの美しい淑女に失礼だぞ」

「はい、勿論です。そんな安請け合いは致しません。こんな美しい方を裏切らせるようなことは、私自身この道にかけて出来ませんからね」

はにかみ照れる美紀を、バックミラーで覗きながら、自信有り気に応じた。すると、伊藤が間を置かず声を上げる。

「それじゃ。そこにしてくれないか、運転手さん、期待しているからな」

「分かりました。それでは少々かかりますが、私の推奨店にお連れさせて頂きます」

自慢気に応じ、タクシーを走らせる。

二人は意識してか、押し黙っていた。それでも、ぎこちなく伊藤が口を開く。

「平田さん、今日の観光どうでしたか?」

「ええ、とてもよかったわ。だって私、あんなにラベンダーの香りに包まれた経験ないんですもの。それに四季彩の丘の素晴らしかったこと。やっぱり北海道は広いわね、何もかもスケールが違う。おかげで自分が随分小さな生き方をしていることに気づいたわ。もっと大きな気持ちで歩まなければいけないのね。つくづくそう感じたわ」

「そうですか、それはよかった。まあ、俺だって東京の雑踏の中で暮らしていると、せこくなっていると思うな。勿論、自分では気づきませんがね。でも、こうやって来てみると、それが分かるような気がします」

「あら、伊藤さんも。そういう気持ちになるんですか?」

「はい、ナイーブな神経を持っていますから。これだけ広大な風景を見れば、そういう気持ちにもなりますよ」

「そうなの、私と一緒ですね。でも、伊藤さんのナイーブというのは、どうかしら?」

くすんと笑う。

「ええ、意外と小心者ですから」

返しつつ、急に尋ねる。

「あっ、そう言えば平田さん。写真と言うか、カメラお持ち頂きましたよね」

「ええ、先程電話できつく言われましたので。ここに」

ハンドバックを指で示す。

「いや、きつく言った覚えはないんですがね。どうしても見たかったので、それで、ついあんな口調になったのかも知れません。もしきつく聞こえていたら、誤解ですのでお詫びします」

「いいえ、いいんですよ。気にしませんから」

「いやあ…。それにしても、見るのが楽しみだ。どんな風に撮れているか。平田さんのカメラってデジタルですよね」

「ええ、そうよ。それじゃなければ、再生して見られないもの」

「そりゃそうだ。最近はみなデジタルだもんな。俺なんかフイルム式だから、写真撮るのも何となく気後れしますよ」

「そんなことないわ。フイルムのカメラだって、いいじゃないですか」

「そう言ってくれるのは、平田さんだけですよ。うちの会社じゃ、フイルム式だなんて言ったら。『まだそんな時代遅れのカメラ使っているの、古いのね』と、同僚に馬鹿にされますから。『この時代遅れ』とか言われて」

美紀を見つつ言った。すると可笑しそうに応じる。

「まあ、そんなこと言われるんですか。戸惑う伊藤さんを想像すると面白そう」

「何てことを言うんですか、人の不幸を弄んで!」

「それは失礼。つい、会社の方にからかわれている様子を想像してしまって」

二人は、顔を見合わせ笑った。

国道三十九号線を十五分ほどひた走り走ると、、愛別を過ぎ旭川へと向かっていた。伊藤が声を上げる。

「ほら、見て下さい。愛別なんて言う街があるんですね」

「ええっ」

直ぐに見たが、その標識を通り過ぎていた。視線を伊藤に向け尋ねる。

「見逃してしまったわ。その愛別という街の名は、どんな漢字で書かれているのかしら?」

すると、運転手が割り込む。

「それは愛する愛に、別れると書いて、愛別と読みます。どうしてそんな地名がついたか知りませんが、層雲峡と旭川の中間ぐらいにある酪農を中心に、馬鈴薯やとうきび栽培の街ですよ」

簡単に説明した。それを聞いて感心し伺う。

「そうなんだ。しかし、どうしてそんな名前がついたのかしら…。そうよね。何も愛に別れるなんてしないで、もっと素敵な街名にすればいいのに」

不思議そうに言った。

「俺もそう思うな」

伊藤が同調した。

すると、運転手が頷き説明しだす。

「そうですね…。ここら辺はわりと別の語尾がつく地名が多いんです。例えば他に戸別、江別、芦別、そしてええと…、紋別、女満別。まだあるんですが、ちょっと思い出せません。しかし今まで深く考えたことがなかったですね。お客さんが言ってくれたおかげで、そういえばと思います」

「そんなに多いんだ…」

伊藤の呟きで終わった。

旭川までの間の会話は、昼間撮った写真と愛別の事と、短い話ばかりだった。ただ、二人にとり言葉にならない何かが、胸の内にくすぶっていることは事実だった。

走り続ける車窓に、旭川の標識が飛び込んでくる。

「やっと着いたね。旭川へ。運転手さん、ここから近いの?」

尋ねると、運転手が返す。

「ええ、程なく着きます」

「そうですか。そういえば運転手さん。店の名前を聞いていなかったけれど、何と言う店かな」

「あっ、すみません。うっかりしていました。『た喜ち』という店です。地産の串ものやパスタが美味しいんですよ」

「何、串ものとパスタ?」

「はい、そうですが」

「おいおい、串ものといえば焼き鳥じゃないか。それにパスタと言ったらイタリア料理と違うか。一体、どんな店なんだか…?」

「ええ、お客様のおっしゃる通りです。どんなお店か行ってみれば分かります」

「行ってみれば分かるって?こんなところまで来て、まさか普通の飲み屋じゃないだろうな。おいおい、それだったら困るぞ!」

「いいえ、それはありません!」

きっぱりと否定した。

「でもよ、運転手さんの話からすると、どうも、こちらが望む店と違うような気がするな。女性同伴で行くんだ。こきたねえ店じゃ困る。見てくれよ、こんな美しい方と一緒だぜ」

不満気に反論した。

「あら、伊藤さん。私だったら、別に小料理屋さんでも構いませんけど」

美紀が口添えした。

「とんでもない。平田さんを誘ったんだ。そんなところに連れて行けないよ。運転手さん。大丈夫だろうな!」

口走るが、自信の有る顔をする。

「勿論ですよ。こんなお美しい淑女を場末の小料理屋なんかにお連れしたら、面目ありませんからね。そのために旭川まできたんですから」

「本当だろうな、期待を裏切らないでくれよ。ここまで来ちまったんだ。今さらじたばたしても始まらないけど、宜しく頼むよ」

疑心暗鬼で懇願した。

「伊藤さん、別に気にすることなじゃないですか。せっかく北海道へ来たんですから、楽しくお食事しましょうよ。小料理屋さんだって、東京では味わえないものがあるかもしれないわ」

美紀が気遣った。

「いやあ、平田さんはやっぱりいい人だ。始めてお目にかかった時からそう感じていました。美しいだけじゃないんですね。相手を思いやる気持ちまで持っているんだから」

感心され、照れる。

「いいえ、そんなことないわ。私って我侭だから、他人に好かれないんです。だから、買い被らないで下さい。お酒が入ったら変わりますから」

「へえ、そうですか。俺にはそうは見えませんが。結構謙虚に言う人は、得てしてそう言うものです。酒癖の悪い人は、そんなことは言わない」

「嫌ね、益々本性を現わせないわ。伊藤さんって意地悪なのね」

「いいえ、そんなことありません。俺って気の弱い男ですから」

「まあ…」

苦笑し、顔をほころばせた。

「お客さん、着きました」

会話が弾んできたところで、目的地に着き車を止めた。旭川の繁華街に入ってきていた。

伊藤は料金を払いながら、窓越しに辺りを見廻す。

「運転手さん、『た喜ち』と言ったよね」

「はい、あそこです」

指差す先に店があった。

「ああ、あそこか。ううん、た喜ちか」

美紀らはタクシーを降りた。

「ごゆっくりお楽しみ下さい。有り難うございました」

窓越しに、二人に向かって愛想よく会釈し、ドアを閉め走り出した。先の信号で止まったタクシーのテールランプが、二人を見送るように点滅していた。







目の先に「た喜ち」の看板が光り輝く。

「平田さん、着きましたね。しかし、一体どんな店か心配だな。もし気に入られなかったらどうしよう」

「いいえ、そんなこと気になさらないで。せっかく旭川まで来たんです、どんなところでもいいじゃないですか」

さりげなく気遣った。

「そう言って頂ければ、気持ちが楽になります。そうですよね。たとえ平凡な店でも、そこの雰囲気を楽しめばいいんですから。さあ、どんな店かな」

店へと入って行く。

「あれっ、洒落ているじゃないか!」

「ええ、素敵なお店のようね」

意外とでもいうように見合っていると、店員の声が響く。

「いらっしゃいませ、お二人様ですか。どうぞこちらの席の方にお越し下さい」

ウエイトレスが笑顔で案内した。告げられるまま後について行くと、席で若い女性客やカップルの楽しそうな顔が、淡い照明に浮かび上がっていた。

「ようこそお越し下さいました。どうぞ、こちらのお席へ」

通されたテーブルは、個室のように隣と仕切りが施されおり、向かい合い座ると店全体の照明が遮られ、テーブルに置かれた、グラスの中に灯したローソクの明かりが、二人の顔を浮かび上がらせていた。その神秘的な明かりの中で、見つめ合う。

一瞬、緊張感が走る。淡く燃えるローソクの炎が、そのようにさせるのかもしれない。

「あの…」

美紀が躊躇う。

「は、はいっ!」

伊藤が応える。

「いいえ、何でもないんです」

「ああ、そうですか」

「…」

互いの間に沈黙が訪れ、間が空いた。すると、その場の雰囲気を和らげようと伊藤が口を開く。

「あの平田さん。このお店、意外でしたね…」

「ええ、そうですね…」

「まさか、こんな素敵な店だとは、思いもよらなかったですよ」

「私も今そう感じていたんです」

浮き立つように会話し始めた時、ウエイトレスが来た。

「本日はようこそお越し下さいまして、誠に有り難うございます。ごゆるりとおくつろぎ下さいませ」

笑顔で会釈をする。

「お客さま。お飲み物は、如何致しましょうか?」

メニューを伊藤に手渡すと、それを見ながら尋ねる。

「そうだな…。この中で、お薦めはどんなものですか?」

「はい、当店ではワインを中心にご用意させて頂いております。本日のお薦めは、ビノビアンコ、ノビレフォート、それにカベルネとなっております」

「結構揃えているんだね。ううん、そうだな…」

種類の多さに戸惑う。

「それじゃどうするか。平田さんはワインはお好き。いや待てよ、お嫌いですか?」

「いいえ。そうね…、今晩はちょっとお洒落に頂こうかしら」

「そうでしょう。僕もワインがいいと、ちょうど思っていたんです」

すると、ウエイトレスが尋ねる。

「どちらものが宜しいでしょうか?」

「そうだな。どれが飲みやすいかな?」

上目使いに伺うと、即座に応える。

「そうですね、こちらのビノビアンコなどは如何でしょうか?本日一押しのワインとなっております」

「それじゃ、それにしようか」

「かしこまりました。それでは、お料理の方は如何致しましょうか?」

「先にワイン持ってきてくれるかい。それからお願いするから」

「はい、かしこまりました。それではご用意させて頂きます」

下がる前に、すかさず伊藤が尋ねる。

「あのさ、こちらのお店。タクシーの運転手さんに紹介されたんだけれど…」

「あっ、それは有り難うございます」

「いや、いいんだ。それでちょっと聞きたいことがあるんだけれど、串ものとパスタ料理と聞いていたが、串ものというと、やっぱり焼き鳥なの?」

すると、ウエイトレスが苦笑する。

「いいえ、焼き鳥もございますが、それ以外に北海道特産のアスパラとベーコン巻きやカマンベールチーズの串味。それにフォアグラ、ホタテのバター焼きなどがあります。いろいろと揃えてございますが」

手元のメニューを差し、付け加える。

「こちらに載ってございます」

「そうだよね、焼き鳥屋じゃないもんな」

冗談ぽく言うと、ウエイトレスも笑みを返す。

「何時も間違われるんですよ。それでは、ワインをお持ちします間に、何が宜しいかお決め頂ければと存じます」

軽く会釈をし下がった。

「平田さん、びっくりしましたね。さっきの運転手の説明からは、こんな素敵な店とは想像出来ませんでしたよ。とんだ早とちりをしたもんだ。それに、店員さんの応対も感じいい」

「まあ、伊藤さんったら。綺麗な人を見ると、直ぐに鼻の下が長くなるんですから」

「いや、そんなことないです。平田さんのような美人を前にして、そんなことするものですか」

見透かされ否定する。

「また、そんなこと言って。他の人に聞かれたら恥ずかしいわ」

照れ気味に言い、話題を変える。

「そういえば、運転手さんの説明では、ここまで話してくれませんでしたから。つい、悪いイメージを膨らませてしまったんだわ。こんなに素敵なお店なのに、最初からもったいぶらずに教えてくれればいいのにね」

店内を見回し納得する。すると、伊藤が反省する。

「そうそう、僕だって。場末の料理屋なんて言っちまって。失礼なことをしたんで、あの運転手に謝らなければならんな。それにしても彼の話し方が意味深で、『行ってみれば分かるから』なんて言うから。少なからず疑ったりしたが、確かに来て見て納得したよ。

ああ、そうだ。そんなこと言っている場合じゃない。注文するもの決めなくっちゃ。ウエイトレスさんに言われていたんだ。平田さん、料理の方は何にします?」

「そうね、何がいいかしら。でも、どれも美味しそうで、迷ってしまうわ。できたら…、決めて頂けると有り難いんですけど」

「あ、そうですか。そう頼まれると責任重大だ。それじゃワインが来る前に決めなきゃ」

メニューを目で追う。

「そうだな、それじゃ。アスパラのベーコン巻きと、ホタテのバター焼き、それにカマンベールチーズ、それからと…、スモークサーモンと生うにのクリーム和えなんかどうですか?」

「ええ、どれも美味しそうだわ。せっかく北海道に来たんですもの、地のものがいいと思っていたの」

「ずばりですね。僕も同じことを考えていたんで、これらに決めたんですよ」

「伊藤さんって、さすがですね。見直したわ」

「わおっ、平田さんに褒められるなんて嬉しいな!それにしても、歓んで貰えると、選び甲斐がありますね。しかしどうですか、このお店の雰囲気。このグラスのローソクの放つ輝き、結構凝っていますよね」

「ええ、そうね。何となくメルヘンで、ロマンティックな感じですわ」

燃える炎に浮かび上がる顔を見合い、美紀は上気してゆく自分を感じていた。

「さっき、こちらの席まで来る時に視たんですけれど、男性だけのお客なんかいませんものね。女性客やカップルばかりだわ」

すると、伊藤が呟く。

「ああ、羨ましいな。ワインを飲み、愛を語り合う。そんなカップルばかりだもんな」

「あら、私たちだって。同じように二人連れじゃないかしら?」

「ええっ、そんなこと言っていいんですか?」

「ええ、構いませんことよ。こんな素敵な雰囲気の中、そう思わなきゃ、損する気分になりませんか?」

「そりゃそうだ。平田さんとカップルだなんて。考えただけでどきどきする。ああ、炎の明かりでカップルか…。まるで恋人同士みたいだな」

感激のあまり顔を引きつらせ美紀を見る。すると、照れくさそうに呟く。

「まあ、伊藤さんったらそんなに見つめて。嫌だわ、恋人みたいだなんて。それに何時の間にか、ちゃっかり周りの様子を見ているんだもの。それにしても、素敵なお店ね。東京の店と比べても、遜色ないんじゃないかしら。むしろ、北の大地の雰囲気にマッチしている気がする」

「いや、まさしくその通りだ。東京だってこういう店、そうはないと思いますよ。それに、北海道の夜にぴったりだ」

「そうよね。よかったわ、ここまで連れてきて頂いて。素敵なお店でお酒が飲めるなんて。最高だわ…」

「いや、気に入られてよかった。それにカップル気分なんて最高です」

「また、そんなこと言って。聞かれたら恥ずかしいじゃないですか」

「大丈夫です。誰も聞いていませんから」

雰囲気を味わっている時に、ウエイトレスがワインボトルの入ったバスケットを持ってきた。

「お待たせ致しました」

慣れた手つきでコルクを抜き、二つのグラスに手際よく注ぐ。

「どうぞ、お召し上がり下さいませ」

促されグラスを持ち、淡い炎に浮かぶ笑顔をじっと見合う。

「それじゃ、北の大地の今宵を楽しむために、乾杯!」

軽く合わせ口に運ぶ。

至福の味と香りが身体中に広がってきた。

「如何でございますか。こちらのビノビアンコのお味は?」

ウエイトレスが尋ねる。

「ええ、とても美味しいわ…」

「うん、これは行ける」

二人は感嘆の言葉を発した。

「それは、ようございました。お客様のお口に合わなければと案じておりました。それでは召し上がり頂くのものは、お決まりになりましたでしょうか?」

「うん、そうそう。さっき決めたんだ。こちらのアスパラのベーコン、それにホタテのバター焼きと…伝々」

肴を一通り注文した。

「とりあえず、それくらいにしておこうかな」

「かしこまりしました。それではご確認させて頂きます。アスパラのベーコン巻き、それに…伝々と、生うにのクリーム和えでございますね」

注文品を復唱する。

「以上で宜しいでしょうか?」

「あっ、それに海草たっぷりのコンビネーションサラダも付け加えてくれるかい」

「平田さん、こんなところでいいですか?」

「ええ」

美紀が笑みを返す。

「それじゃ、お願いします。あっ、悪いけど腹ぺこなんで、なるべく早く頼むよ」

「それはそれは、かしこまりました。至急、ご用意させて頂きます。出来上がりました品からお運びしますので、少々お待ち下さい。それではごゆるりと、おくつろぎ下さいませ」

笑みを持ち、ワインを注ぎ下がった。

ワインを含み香りを味わいながら、ローソクの明かりに浮かぶ互いを見つめ合う。

「平田さん、どうぞ飲んで下さい。今日はたっぷり時間がありますから」

ワインボトルを差し出す。

「有り難う…」

遠慮がちに出されたグラスに、ビノビアンコを注ぐ。そして、まじまじと神秘的に揺れる美紀の顔を見る。

「平田さんって、本当に美しいですね。こんな綺麗な方と食事が出来るなんて、僕は幸せ者です」

「まあ、歯の浮くようなこと言って…」

はにかみ返す。

「何をおっしゃいますか。綺麗だから綺麗と言い、美しいと感じるから美しいと本気で言っているんです。おせいじなんかじゃありません!」

真顔で応じた。

「そんなこと言って、私、本気になってしまうじゃないですか」

「ええっ、僕だって。あなたのことを好きになってしまうかもしれませんよ!」

「そう。それなら私だって、伊藤さんのこと好きになるわよ」

「ええ構いませんよ」

すると、真面目くさった顔で告げる。

「あの、伊藤さん。それなら平田さんと呼ぶのは止めてくれますか。ちゃんと名前があります。美紀と言って下さい」

「ええっ、あっ、それなら。そちらだって俺のことを、伊藤って言っているじゃないですか!」

「あら嫌だ。呼びつけはしていません。ちゃんと伊藤さんと言っています!」

「それなら俺だって、名前がちゃんとあります」

名乗るのが気恥ずかしいのか口ごもる。

「ええと、敏、敏也というから。そう呼んでくれますか」

「まあ、敏也さんって言うの。素敵なお名前ね」

「からかわないで下さい。恥ずかしいから、敏也でいいです」

「じゃ、そうするわ。敏也さん」

「おおっ、呼んでくれた!」

「さあ、敏也さん。ワイン、どうかしら?」

ボトルを向ける。

「わおっ、頂きます!」

上ずり、空になったグラスを差し出した。

「さあ、私の名前も呼んで下さる」

求めつつ、俯き顔を赤らめた。

「ええっ、恥ずかしいな。改めて名前を呼ぶなんてな」

「あら、ずるいわ。私ばかり呼ばせて」

「いや、恥ずかしい。でも…」

「早く美紀と呼んで下さい!」

「いやそう言われると、尚更恥ずかしくなる。でも、勇気出して呼ぶか」

小声で発する。

「美紀さん、ワインをどうぞ…」

「あら、今、何かおっしゃいました?聞こえなかったわ」

美紀の挑発に狼狽える。

「ちゃんと言ったのに…」

「だから何とおっしゃったの。もっと大きな声で呼んで下さるかしら?」

「くそっ、参ったな。しょうがねえ。こうなったら破れかぶれだわい!」

やけ気味に大声で叫ぶ。

「美紀さん、綺麗だ!」

ちょうどその時、ウエイトレスが料理を運んできた。

「お待たせ致しました」と告げようとし、タイミングが悪かったのか、語尾が切れる。

「お料理、お持ちし…」

罰が悪そうにテーブルへと並べた。

すると伊藤が、気まず気に美紀を覗うと、恥ずかしそうに視線を落としていた。それでもウエイトレスは、平常心を装う。

「ごゆっくりと、お召し上がり下さいませ」

軽く会釈をし、「ご馳走様です」とでも言いたげに、伊藤に小さくウインクを投げ下がった。

店員がいなくなるのを見計らい息を吐く。

「いや、びっくりしたな。まさか来ているとは、気づかなかったよ。ああ驚いた」

「そうね、私だってびっくりしたわ。でも、嬉しい。こうして、名前を呼んで頂いたんですもの。それに…、こんな素敵なお店で敏也さんとお酒が飲めるなんて。誘って頂き有り難う」

「何をおっしゃいますか。美、美紀さん、こちらこそ嬉しいです。あなたのような美しい方と一緒に、飯、いや食事が出来るなんて、最高です!」

続けて促す。

「美味そうですよ。さあ、どうぞ」

「敏也さんも食べて。何なら、食べさせてあげましょうか?」

「えっ、そんなこと…、そんなことして貰ったら、俺頭に血が上ってしまいます」

「あら嫌だ。こんなことで血が上ってどうするの?」

「でも嬉しいな。美紀さんにそう言って頂けるだけでも、その気持ちだけで胸が一杯になります」

「まあ、そんな心にもないこと言って、いけない人ね」

「ええっ、俺ただそう思い、正直に言っただけです。他意はありません」

「ほんと、それなら安心したわ」

「当たり前じゃないですか。さあどうぞ」

「それじゃ、頂くわ。敏也さん、このワイン、ええとビノビアンコでしたわね。とても美味しいですね」

二人はワインを飲み、運ばれてきた料理に舌鼓を打った。

「美紀さん、こちらの料理は気に入って頂きましたか?」

「ええ、さすが北海道の味ね。とても美味しい。それにホタテも新鮮だし。それと、ねえねえ食べてみない?こちらのカマンベールチーズもいいわよ」

酔いが廻ってきたのか、打ち解ける口調で勧めた。

「そうだね。美味いや」

チーズを頬張り返す。そして時間の経過と共に、酔いも手伝ってか気負いもなくなり、美紀に促す。

「ほら、このホタテ見てごらん。生きたまま殻付きで焼いたみたい。バターとのコンビネーションが抜群だ。やっぱりホタテはこうでなくっちゃ。これぞ本場物だ。美紀さん、食べてごらんよ。何なら食べさせてあげようか」

「いいわね、お願いできるかしら?」

敏也の誘いに、躊躇いも消えていた。

「…でも俺、恥ずかしいから止めとくわ。誰かに見られたら嫌だしな。だってさっき、運悪くウエイトレスさんに聞かれちまったもの」

「まあ、意気地なし。でもいいわ、自分で取って食べるから」

駄々を捏ねるように返す。すると、

「分かったよ。それなら一度だけ食べさせてあげるよ。ああ、余計なこと言わなければよかった」

周りを気にし、フォークで取り差し出す。

「ほら、美紀さん。早く食べてよ」

「まあ、そんな投げやりで。せっかく食べさせてくれるなら、もっと優しく食べさせてくれない」

「恥ずかしいから、早く食べてよ!」

躊躇いつつ美紀の口に入れる。

「有り難う、敏也さん。とても美味しいわ」

笑顔を返した。

「それじゃ、今度は私が食べさせてあげる。ねえ敏也さん、何が食べたいかしら?」

「いいよ。自分で取るから」

美紀の気持ちを振り切り、生うにのクリーム和えを口に放り込む。

「うむ、これは美味い。美紀さん食べてみて!」

「そう、それじゃ。私も頂くわ」

フォークで取り食してみる。

「あら、本当。美味しいわ。あっ、そうよね。美味しいわけよ。ここは北海道ですもの。ここで採れた、採り立ての生うにでしょ」

「そうですよ。多分…」

「それに、このアスパラだってそうだわ」

「そうだよな。俺たち北海道に来ているんだもの。ここに並んでいる料理は、この地で採れたものばかりだ。不味いわけがない」

すると、真顔で美紀が洩らす。

「こんな美味しいもの食べられるなんて、私幸せです…」

「俺だって、本場ものを君と食えるなんて最高だ」

敏也も同調した。

「私、敏也さんに感謝しなければね」

「どうして?」

「だってそうでしょ。こんな美味しいもの食べさせて頂いて、それにこうして一緒にお酒も飲めるんですもの」

「いいや、俺の方こそ感謝しなければいけないよ。美人と一緒に居られるんだ。言うことない。どんどん飲んで下さい。このワイン、何て言ったっけ。そうだ、ビノビアンコだっけな。美紀さん、どうぞ」

「嬉しい、頂きます」

一気に飲み干しグラスを差し出す。

「おお、飲みっぷりがいいな!」

グラスにワインを注ぐ。

「有り難う。それじゃ、今度は私が注いてあげる」

差し出されたグラスに注ぎ入れた。

「今夜は最高ね。気持ちがいい…」

酔いが廻ったのか、思いを素直に表わした。

「俺だって。この北海道まで来て、君とこうして美味い酒が飲めるんだから。気分いいな。あれ、ワインがないぞ。ボトルの追加、頼まなくっちゃ!」

周りを見渡し、手を挙げた。すると、先程のウエイトレスが来る。

「如何致しましたか?」

「ワインがなくなったんで、一本頼みたいんだけれど」

「有り難うございます。銘柄は如何致しましょうか?」

「そうだな。美紀さん、どれがいいかな。何にするか、決めてくれると有り難いな」

「そう、それじゃ。決めさせて頂きます」

メニューを見て指差す。

「それじゃあ、これにするわ」

「はい、どれでございますか?」

「ええとね。これこれ、富良野ワイン。これがいいわ」

メニューの端に記されたワイン名を指で示した。

「かしこまりました。富良野ワインでございますね。お持ちさせて頂きます」

「あの…、こちらのワイン。美味しいの?」

美紀が尋ねる。

「ええ口当たりがよくて、結構いい感じですよ。それに地元、富良野で醸造されたワインですので、地場ワインとでも申しましょうか」

「あらそうなの、富良野ワインか。どんな味かしら、少し興味があるな」

酒興を示すと、敏也が口を挟む。

「ですよね。地場ワインなんて、やっぱり北海道に来たら、地元のワインを味わってみないとな」

「そうよ、どんな味か楽しみだわ」

伊藤の説に納得した。

「それではお持ち致しますので、少々お待ち下さい」

告げ、笑みを残して下がった。







直に、富良野ワインが運ばれてきた。

「おお、きたぞ。どんな味だろうか。それでは、美紀さんどうぞ!」

美紀のグラスに注ぎ、自分のに注ごうとする。

「待って、私が注いであげます!」

ボトルを預かり注いだ。

「初めて味わうワイン。富良野産の地場物だから、北海道の味が一杯詰まっているんでしょうね」

「それじゃ、改めて乾杯しよう」

「そうね、さっきは北海道に来たことに乾杯したわよね。今度は、どうしようかな。そうだ、私たち二人のために乾杯しましょ」

「二人のためって、どんなことかな…」

茶々を入れる。

「まあ、何よ。何か期待しているの?」

敏也の顔を覗う。

「ああ、いけないんだ。敏也さんったら、今、いやらしいことを考えているでしょ!」

「何を言うんだ。そんなこと考えちゃいない。誤解だ、まったくの誤解だよ!」

首を振り否定した。すると疑いの眼になる。

「本当かしら?何だか怪しいわ。敏也さんの顔にそう描いてある。正直に白状しなさい。それでないと許さないわよ。もうまったく、いけないんだから」

「うへっ、悪い悪い、誤魔化せないな。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ君のこと、抱きたいな。なんて考えてしまった。ご免、許してくれ!」

「まあ、そんなこと言って。敏也さんっていけない人ね」

俯き加減に、小さな声で呟く。

「でも…、私、少しぐらいなら許してあげる」

「ええっ、本当かよ。あっといけない。つい君の口車に乗るところだった!」

口を押さえ返した。すると、美紀が平然と言う。

「嘘よ、嘘…」

「そうだろうな。危なくその気になるところだったぜ」

「まあ…。でも今日のお酒、本当に美味しいし楽しいわね」

「そうだね。こんないい夜はめったにないよ」

談笑が進んだ。酔わせるワインのせいか、打ち解ける二人の間は急速に狭まっていた。

弾む会話と見つめ合う目。

美味い海の幸と濃厚なワインが、伴に酔わせていた。あっという間に、富良野ワインが底をつく。

「あれっ、もう空になっちゃった」

敏也が飲み足りなさそうに口を尖らす。ウエイトレスを探し、手を挙げた。直ぐにやってくる。

「すみません、ワイン頂けますか」

「有り難うございます。同じもので宜しゅうございますか?」

「美紀さん、どうする?」

敏也が問いかける。

「そうね…。クラシコかノビレのどちらにしようかな。ううん、今度はノビレにしようかしら」

メニューを見つつ決めた。敏也が注文する。

「それじゃ、そのノビレにしよう。店員さん、それにしてくれるかい」

「はい、かしこまりました。ノビレワインでございますね。お持ち致します」

会釈し引き下がろうとした時、伊藤が何やら興味を示す。

「あっ、それにここに載っている『ダチョウのねぎま…』って、なんだい。美味しいの?」

すると、自信有り気に応じる。

「ええ、当店の自慢の品でございます。何ならお召し上がりになってみては如何ですか?。きっと、ご満足頂けると存じますが?」

「私、初めて。ダチョウなんて食べたことないの。美味しいかしら?」

不安そうに敏也を伺う。

「俺もだ。どうだろう、彼女が美味いと言うんだ。それだったら挑戦してみるか?」

「ちょっと、怖いけど」

不安視する美紀を覗いつつ注文する。

「それじゃ、そのダチョウの何とかというの、お願いします」

「かしこまりました。一人前になさいますか。それとも、二人前に致しましょうか?」

「とりあえず初めてなので、一人前でいいか」

「はい、かしこまりました」

確認し下がった。すると、美紀が躊躇う。

「ああ、頼んじゃった。大丈夫かしら、初めて聞く料理よ。何だか怖いわ。どんなお料理なんだろう?」

「おいおい、了解したじゃないか。俺だって初めてなんだ。君にそう言われたら、ちょっとびびるな。それにしても『ダチョウのねぎま』って、どんな味だろうか」

互いに初物に対する不安と期待を胸に、見つめ合いワインを口に運んでいた。

直に新しいワインと注文料理が運ばれてきた。

「お待たせ致しました。ノレビワインとダチョウのねぎまでございます。どうぞお召し上がり下さいませ。きっとお気に召されると存じます」

テーブルに置き、笑顔で戻った。二人は珍しそうに眺めるが、箸をつけようとしない。

「しかし、どうなんだろう。美味いのかな…」

「そうね、敏也さんちょっと食べてみて?」

「えっ、俺が!」

「そうよ、決まっているでしょ。淑女を前にして、先に毒味するのが紳士の役目じゃなくって?それで何ともなかったら、どうぞ召し上がれと、薦めるのが紳士でしょ。ああ、その時どんな味かの、一言も付け加えて欲しいわね」

「そうかもしれんが、初めてなんで…。仕方ねえ、美紀さんに言われたら腹をくくって挑戦するか」

遠慮気味にフォークで取り食すが、急に目を輝かせ勧める。

「これは美味い。美味いですよ、美紀さん。どうです、食べてみませんか!」

「敏也さん、本当に美味しいの?」

興味を示しつつ、不安気に疑う。

「嘘じゃないでしょうね。私を騙して食べさせようとしていんじゃないでしょうね」

「そんなことしないさ。本当に美味いんだから。嘘じゃないよ」

更に続けて食べた。

「それじゃ、私も頂こうかしら…」

慎重な面持ちで食べてみた。

「あら、意外といけるのね」

「そうだろう。俺も始めてだけど、これは癖になりそうだ」

「それに、このワインと合うみたい」

美紀が舌鼓を打つと、話題を変える。

「そうだ、うっかりしていた。美紀さん、写真、写真!」

敏也が思い出した。

「あらいけない。忘れていたわ!」

ハンドバックを引き寄せ、カメラを取り出し見る。

「これ、これよ。撮った写真を見なきゃ」

再生ボタンを押すと、ファーム富田での映像が映し出され見入る。すると伊藤が、見たそうに求める。

「美紀さん、俺にも見せてよ」

「いや、これはいいの。何だかぬぼっとしているし、写真写りが悪いから見せられないわ」

「そんなことはないはずです。絶対によく撮れていると思うんだが。何て言ったって、撮り手の腕がいいから」

「おあいにくさま。残念ながらいい写真ではありません!」

次の画面に移そうとする。

「駄目です。よこしなさい!」

カメラを奪うように取り、画面を覗き込む。

「ほら、素敵に撮れているじゃないですか」

真顔で自慢した。

「いいえ、そんなことないわ」

美紀が照れる。敏也が写真と見比べ、感嘆の声を上げる。

「素敵に撮れている。けれど写真もいいが、実物の方がもっといい。心臓がバクバクして破裂しそうだ」

「何をおっしゃるんですか!」

手を伸ばし、敏也の胸を押した。すると大袈裟に反る。

「あっ、そんなことされたら、目眩がして倒れちまう。そうなったら美紀さんのせいだ。介抱して貰わなきゃならん。ううう、何だか胸が破れ裂けそうだ」

テーブルに突っ伏し惚けた。

「まあ、どうしましょう。もし倒れたら困ってしまう。でもいいわ。そうなったら、私が介抱してあげる」

「それは嬉しいな。ああ、どうも叩かれた胸がすごく痛くなってきた。ううう、苦しい」

「そんなこと言って…」

不安な面持ちになる。

「美紀さん、そんな悲しそうな顔しないで下さい。ほんの冗談ですから」

澄まし顔で取り消した。

「まあ、敏也さんの意地悪…」

美紀の瞳が涙目になってきた。

「あっ、ご免。悪かった」

慌てて謝った。

機嫌を直す彼女を覗いつつ、デジカメの送りボタンを押すと、ポーズを取り微笑む姿や、更に敏也とのツーショットが写し出され、感嘆の声を上げる。

「ううん、美紀さんの写真はどれも素敵だ。これ見て下さい。俺の顔がにやけちゃって、締まりがねえな」

ツーショットの画面を美紀に見せる。

「敏也さん、この目つきいやらしくない。目じりが下がって、鼻の下が長くなっているわ。でも、嬉しそうね。よく見ると、結構男前に撮れているんじゃないかしら」

貶し、褒め上げた。すると、

「目つきは生まれつきです。従って、目じりが下がっているのも仕方ありませんが、鼻の下は長くないと思いますがね」

真顔で反論する。

「そうかしら。今日の働き振りを見ていたら、写真のようになっていず、凛々しかったと思うけど」

「あいや…、そこのところは、少々大目に見てくれませんか」

「よくってよ。その代わり、ワイン飲み干したら許してあげる」

「ええ、本当ですか。それじゃ、注いで下さい」

グラスを差し出す。

「冗談です。そんなことしなくても許してあげます」

美紀が笑みを湛え、ワインを注いだ。

「有り難う!」

にやけゆっくりと飲み、話題を変える。

「それにしても、今日はお天気もよかったし、ラベンダー畑といい、四季彩の丘や大雪山系の山並みといい、雄大な北海道を見られて感動しませんでしたか?」

「ええ、とてもよかったわ。こんなに広い北の大地を見られ、美味しい空気も吸えた。それに、ラベンダーや広大な丘陵、どれも驚きの連続だった。それと、こんな素敵なお店でお酒も飲めたし、美味しいお料理も沢山頂けたんですもの、言うことない。私、幸せです」

礼をいい、更に続ける。

「これも、敏也さんがプランニングして頂いたおかげだわ。感謝します」

「そこまで褒められたら、お勧めした甲斐がありますよ。俺だって、こうして君と親しくなれたし、一緒に飲んで楽しませて貰っている。礼を言うのは、むしろ僕の方かもしれない。そうでしょ、美紀さん」

「まあ、そんなこと言って…」

目と目が合い、言葉が途切れた。もっと話したいことが渦巻くが、胸が詰まり思うように出なくなった。

グラスの中で燃える淡い炎に、ワインの酔いも手伝ってか、火照り顔が赤く染まる。上気する気持ちを抑え、互いに見つめ合っていたが、ふと伊藤が腕時計を見る。

「あっ、もうこんな時間だ。美紀さん、もう九時を過ぎています。そろそろ引き上げましょうか?」

沈黙を止め促した。

「待って」

美紀が慌て手を伸ばし、制止するように彼の手を押さえた。が、はっとして引っ込めようとする。その手を敏也が絡め握った。

美紀が恥らいつつ甘える。

「敏也さん。もう少し一緒にいたいの…」

「俺だって、ずっとこうしていたいよ。でも、明日早いし。このまま酔い潰れて仕事ほかしたら、俺クビになっちまうし、皆に迷惑をかけることになる…」

首を切る真似をした。すると美紀が乞う。

「それじゃ、もう一杯だけ付き合ってくれる?それなら言うこと聞くから。いいでしょ」

「ううん、仕方ない。我侭なお嬢さんなんだから。俺も美人には弱いしな」

互いのグラスにワインを注ぐ。

「それじゃ、乾杯しよう」

敏也が告げると、美紀が尋ねる。

「ねえ、何に乾杯するのかしら?」

「いや、急にそんなこと言われても…」

「それじゃ、私が答えてあげる。敏也さんと私がもっと深い仲になれますように。神様、お願いします」

すると敏也が覗う。

「美紀さん、それって本気なの?もし、本気なら。俺、とことん付き合っちゃうよ」

「まあ、嫌ね。また、変なこと考えているでしょ。敏也さんったら、エッチ!」

美紀が吹き出した。

「ああっ、また騙したな。この意地悪、美紀!」

額を指先で軽くこづいた。

「痛い。敏也さんったら、私を虐めている。泣いちゃおうかな」

目尻に指先をつけおどけた。

「こらっ、美紀はいけない子だ。お仕置きしてやる!」

敏也が叱った。

「あら、お仕置きって、どんなことするの。やれるならやってみなさい。よくってよ!」

胸を張り、鼻をつんと上げた。

「おお、開き直ったな。それじゃ、お尻をぺんぺんしてやる!」

「あら嫌だ。女性のお尻を触ろうとしている。痴漢だわ。ああ、いけないんだ!」

「何だなんだ、お仕置きだぞ。痴漢じゃないわい」

敏也がたじろぐ。

「怖気づいたのね。敏也さん…」

「何言いやがる。痴漢呼ばわりして。まったく参っちまうよ」

二人して、じゃれ合う会話が続いた。そして止る。

「ああ、疲れた。敏也さん、楽しかったわ。そろそろ帰りましょうか?」

「そうだな。そうしょうか」

未練そうに敏也が告げ、軽く手を挙げ席を立つと、直ぐにウエイトレスが来る。

「お帰りでございますか?」

「うん、引き上げる」

頷き、レジへと向った。

勘定を済ませ尋ねる。

「あの、層雲峡の国際ホテルまで帰りたいんだけれど、どこへ行けばタクシーを拾えるかな?」

レジ担当が微笑みつつ説明する。

「はい、お客様。こちらのお店を出て大通りに行って頂ければ、乗合のタクシーが止っておりますので、そこで行き先を告げれば大丈夫でございます」

「ああ、そう。それは有り難う。ところで今頃の時間でも、層雲峡まで行ってくれるかな?」

「ええ、ご安心下さい。結構この時間帯ですと、タクシーでお帰りになられる方が多いので、運転手も心得たものです」

「それはよかった。行ってくれないと帰れないものね」

美紀がおどけると、レジ担当がにこやかに返す。

「お客様、今日はよほどいいことがあったようですね」

敏也が割り込む。

「ああ、今日は最高だ。こんな素晴らしい夜はない」

「ええ、私も。こんな素敵なお店で過ごせてよかったわ」

「それは、宜しゅうございました。本日はお越し下さり、誠に有り難うございます。ところで、料理の方はご満足頂けましたでしょうか?」

「ああ、美味しかったよ。こちらのお店、タクシーの運転手さんに勧められ来たんだけれど、とてもよかった。なあ、美紀さん」

「ええ、ワインも美味しいし、お料理も良かったです。あのダチョウのねぎまは意外だった。あんなに美味しいとは思わなかったわ。初めて食べたけれど、すっかり気に入ったわ。それにお店の雰囲気も、とてもよかったです」

「それは有り難うございます。お褒め頂きまして嬉れしゅうございます」

「あの、こちらで出されたダチョウ料理ですけれど。どちら産のものなんですか?」

「はい、こちら地元牧場で飼育しているものです」

「ふうん、そうなの。北海道でも飼われているのね」

「ええ、結構評判よくて。最近は随分畜産農家が増えているんですよ」

「へえ、知らなかったよ。そうなんだ」

横で敏也が感心した。

「本日はお越し頂き、誠に有り難うございます。是非、またお越し下さいませ」

「また、来たらね」

「そうね。私も来られたら、是非お寄りしたいわ」

「有り難うございます。旭川にお越しの節はお寄り下さいませ。お待ち申し上げております。お気をつけてお帰り下さいませ」

感謝の顔に見送られ、二人は店を出た。







酔いが廻り火照る身体に、心地よい夜風が纏わりついてくる。

「爽やかで気持ちがいい」

美紀が顔を上げ呟いた。すると、敏也も大きく深呼吸し、笑みを浮かべくすんと頷く。

「うん、本当だ。酔った身体にちょうどいい。ああ、気持ちがいいな!」

同時に顔を見合わせた。そして教えられた大通りに出ると、道端に数台のタクシーが止っていた。その一台に乗り込む。運転手に行き先を告げ走り出した。程なく走ると、再び愛別という街を通り過ぎる。その街を窓越しに見ていた美紀が、敏也に寄り添い上目使いに尋ねる。

「この街ね。愛別というのは」

「そうそう、旭川に来る途中に言っていたところさ」

「ここが愛別か。あなたが教えてくれた愛別ね…」

「何だ、美紀さん。何だか関心があるみたいだね」

「ええ、いいえ別に…」

酔いに任せ寄りかかり、肩に頭を乗せる。

「私、何だか酔ったみたい。こうしていてもいい?」

敏也に甘える。

「いいとも…」

敏也がそっと美紀の手に指を絡ませ、更に片方の腕で肩を抱く。ちょっと躊躇したが、腕へと身体を預け握り返した。

沈黙の時が過ぎて行く。

言葉などいらない。

時折視線を合わせ、手を握り合うだけで充分である。互いに何かを求めるが、口に出せずにいた。

吐息が交じり合う。

寄り添うことで、髪から漂う甘い匂いが、敏也を刺激した。たまらなかった。激しい衝動が胸の奥で疼いていた。酔い心地と相まって強く抱き寄せる。

「あっ、痛い…」

小さく発した。敏也が気遣う。

「おっと、ご免ね…」

互いに意識していた。また、暫く沈黙が続く。がしかし、車中の空気が衝動を抑え、握る手に力がこもる。

「そんなに強く握られたら、痛いわ…」

上目遣いに甘える。

「すまん」

美紀の潤む目を見つつ詫びた。

すると、その瞳に惑わされたのか、鼻腔が膨らむほど甘酸っぱさを感じ取り、高鳴る鼓動を抑え切れなくなっていた。たまらず小さな声で呟く。

「美紀…」

耳元で囁かれ、黙ったまま敏也の手を強く握り、そっと返す。

「敏也さん…」

互いの身体が寄り添う。短い言葉の中に思惑が凝縮し、温もりとなり感じ合っていた。目を合わせるだけでよかった。街の明かりが、時々車窓から二人を包み込む。その度に見つめる瞳が柔らかく輝き合う。まるで二人だけの世界だ。

美紀は先程通り過ぎた街の名前を思い起す。

愛別…。

今の気持ちの裏返しのような気がした。握り合う手の温もりを通じ、幸せの小波が止めどなく押し寄せてきた。

夢心地の二人は、押し黙ったまま車に揺られていたが、間もなく層雲峡の温泉街へと入り国際ホテルの前に着いた。

「お客様、着きましたが…」

固く握り合う手を離す。タクシーを降り、静まり返ったホテル前で走り去るタクシーを見送った。

「着きましたね、美紀さん…」

「ええ、今日はすごく楽しかったわ。美味しいお酒も沢山飲めたし、それにお料理も美味かった。ううん、いい気持ち」

美紀は夜風を吸い込み、身の内に落とした。

「そうだね、今夜は有り難う。俺みたいな者に付き合わせちゃって、迷惑じゃなかったかい?」

「うう、うん。そんなことない。あなたと食事ができてよかった。お礼を言うのは私の方だわ。あっ、それに旅は始まったばかり、まだ続くのよ。明日も宜しくね」

言葉に表したい思いを胸に押し込め、儀礼的に告げる。敏也とて同じだ。

「こちらこそ。一緒にいられて楽しかった。有り難う」

「明日の朝は早いし、敏也さん寝坊しないでよ。そんなことしたら、大変なことになっちゃうんでしょ」

「そうなんだ。これになっちゃうからな」

また、首を切る真似をした。

「そうね、それじゃ部屋に戻りましょうか」

美紀の言葉に、一途の望みを託すように敏也が告げる。

「うん、そうしよう。部屋まで送るよ。何て言ったって、俺は紳士だから、淑女を送るのが義務だ」

すると、望む美紀が揶揄する。

「まあ、敏也さんったら、どんな紳士かしら?」

「おお、立派な紳士だぞ。美しい乙女を野獣から守るナイトだ」

「そうかしら。私を守るんじゃなくて、覗って食べようとしているんじゃない?ほら見なさい。紳士の目つきが、いやらしくなっているわ」

挑発するジョークが出た。

「ああ、何という言い草だ。これは許しがたい。この罰として野獣化してやる。美紀、覚悟しろ!」

「きゃっ、助けて。誰か助けて下さい。私、食べられちゃう!」

茶目っ気たっぷりに逃げ、エレベーターホールへと小走りに走って行った。

「こら、待たんか。この俺様から逃げられるとでも思っているのか!」

猛獣の格好をして追いかけ後についた。

急いでエレベーターボタンを押すと扉が開き、その中へと逃げ込む。敏也が乗り込むと同時に扉が閉じた。弾む息と共に二人は黙って見つめ合う。そして美紀を呼び込み抱き寄せた。待っていたように、厚い胸の中へと落ちた。強く抱き合い、激しく口づけを交わす。

長い間抱き合ったままでいた。すると、不意に美紀が告げる。

「敏也さん、このエレベーター動いていないんじゃない?」

「ありゃ、いけねえ。行き先階のボタン押し忘れた!」

慌てて六階ボタンを押すと、カタンと揺れて動き出した。すると同時に、抱き合い口づけを交わしていた。直ぐに六階に着き扉が開く。降りて六○七号室の方へと黙って歩く。

二人とも何も話なせない。別れが近づくと、離れ難い思いが強くなる。互いが求めていることを言葉に出せず、繋いだ手を強く握り締めあっていた。

そして、部屋の前て歩みを止める。

「さあ、着いたよ。紳士の役目もこれで終わりだ…」

無理に欲望を抑え告げた。

「有り難う。今夜は楽しかったわ…」

そこまで言い、たまらず弾けるように身体を預けていった。敏也は反射的に抱きとめる。すると、腕の中で美紀が涙声になった。

「嫌、離れたくない…」

応えるように強く抱き締め、熱く口づけを交わす。暫くその場で抱き合っていたが、理性が欲望を制した。美紀を離し潤む瞳を見て優しく告げる。

「明日また会えるじゃないか」

「…」

黙って頷く。

応えるように敏也は再び強く抱き締めた。

「それじゃ、明日の夜もね。約束だぞ」

小指を出すと、美紀も嬉しそうに絡めた。

「そうね、明日早いから…」

「そうだ、明朝の大雪山空中散歩だけど、俺は添乗員だ。君はお客様だから分かっているね」

「ええ…。そう、私は敏也さんのお客様になるわけね。それじゃ我侭言っちゃおうかな」

「あいや、すると明日は下僕みたいなものか。それは辛いな」

冗談ぽく振る舞い、冷静さを装った。

「それじゃ、おやすみ」

「おやすみなさい…」

美紀は別れ難い思いを抑え、手を振り笑顔を返した。そして、姿がなくなるのを見届け部屋に入った。

切なさが胸にくすぶる。言葉では言い尽くせない何かが身体中を駆け巡っていた。

そんな疼きは治まりそうにない。仕方なくシャワーを浴び、胸のもやもやを洗い流そうとした。顔にお湯をかけ、唇に残るキスの余韻をそっと指先でなぞる。疼く乳房にもかけたが、その高鳴る鼓動は容易に静まらない。そっと乳房を揉んでみる。敏也の吐息が耳元に呼び戻されてきた。

「ああ、敏也さん。あなたが欲しいのに。どうして抱いてくれないの…」

漏れる喘ぎが、シャワーの音に掻き消されていた。暫く浴びていると、徐々に気持ちが落ち着いてくる。

そうだ、また明日会えるんだわ…。そう、その次の日だって。

そう思った。すると悦びが湧き出て、何とも言えない充実感が満ちてくる。

北海道に来て、本当によかった。こんな素敵な気持ちになれたんですもの。これで過去の忌まわしい心の傷を、やっと癒すことが出来る…。

そうよ、それで充分なはずなのに、まだ何かを求めるなんて。何て欲張りなんだろう。私って、いけない女ね。

くすんと小首を倒し、吹っ切るように額を軽く小突いた。そして、そそくさとシャワールームから出て、冷えたジュースを冷蔵庫から取り出し飲み干すと、一気に爽快感が広がっていた。

ああ、いい気持ち。私って、何て幸せなんでしょう。バスタオルを巻きつけたまま背伸びをする。

そうそう、明日の朝は早いんだ。早く寝なきゃ。バスタオルを取り、そのままベッドへと潜り込んだ。

睡魔は瞬く間に美紀を包み込んでゆく。充足感と一日の旅の疲れからか、直ぐに夢の中へと落ちていった。美紀の寝る部屋にはラベンダーの甘い香りが漂い、その中で満ち足りた寝息が何時までも続いていた。




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