第3章 目覚め


美紀にも、営業部へ突然の異動辞令がでていた。

新しい職場なので、慣れないせいか本当に忙しいわ。それにしても、そろそろ日取りを連絡しないと。でも、こんな状態で行けるのかしら?何とか休暇を取らなきゃ。せっかく申し込んだんだし、区切りをつけるためにも実現しなければ。

そんな思いで、日々仕事に追われていた。そして旅行代理店から連絡を受けたのが、栄子と「カルパッチョ」へ行った一ヵ月後だった。伊藤が臨時添乗だのと、仕事に忙殺され手続きが遅れていたのだ。

彼にしてみれば、美紀は一元の客である。それは、彼女の取った行為が余りにも唐突すぎ、その結果厄介という印象のものであったのだ。

訳の分からぬことばかり言い翻弄された挙句、即金を払い契約したが日取りが決まらず、プランも不完全なまま何の音沙汰もない。まったく、何を考えているんだか。このくそ忙しい時に、本当に旅行する気があるのかよ。

困ったものだと思いつつ、仕事に忙殺され先送りにしていたが、いよいよ後がなくなり、痺れを切らし連絡する羽目となった。

何と言うことない。結局、契約した時のままだ。俺は焦ったね。そうだろ、肝心な日取りが決まってない。どうなっているんだと。そうかといって無視は出来ない。単なる相談だけなら、そのまま放っておくが、シーズン時の一番高い料金で入金されている。これでは放っておけず、それで何度か連絡を取り、ようやく旅行プランが完了したのが、そうだ、二ヶ月ぐらい経ってからだったからな。

振り返り嘆いた。

ただ、美紀が一般客に比べ、手間を取らせたことは事実であり、好印象を与えたわけではない。むしろ、敏也には負のイメージが刻まれていた。それ故、旅行手続きが完了し解放されると、彼女のことは仕事の多忙さに埋没した。

美紀もそうだった。手続きが終わるまで何度かやり取りし、それが終えた時には、異動先の忙しさもあって、彼のことが視界から消えていた。

本人たちには、まったく予期せぬことだが、偶然が偶然を呼ぶ。いずれこの出会いが、二人の運命を弄ぶことになる。そのきっかけは、美紀に翻弄されつつ、やむなくパソコンから打ち出したツアープランであった。それと偶然にも、この旅行の臨時添乗員として、敏也が駆り出されたことである。

通常であれば、現地の添乗員がツアーを受け入れ引率するので、東京の支店事務担当者が赴くことはない。だが、今夏のシーズンは北海道への旅行が一大ブームとなり、現地対応だけでは捌き切れず、東京の各支店から緊急に駆り出されていた。

目白支店でも要請を受け、異例対応すべく事務担当の敏也が、臨時添乗員の命を受けたのだが、担当する添乗ツアーに、美紀が参加しているとは気づかなかったし、夢にも思わなかったのである。

臨時の添乗とはいえ、任務に就く以上添乗業務の一環として、参加者の名前等を確認するが、まさかメンバー表に同名の参加者が入っていることに、あの世話を焼かせた本人とは思っていなかった。

繁忙期の応援に狩り出され、他の引受者と同様に事務的にチェックした。それが、五月の始め頃である。それからというもの、五月連休が過ぎれば、次のかきいれ時は夏季シーズンとなる。敏也は忙殺する仕事の中で、一致させる機会がなかった。

美紀にしても季節違いの異動で、慣れぬ仕事に追いかけられていた。旅行は決めたが、休暇が取れるかどうかも分からぬまま、月日が経っていたのだ。

それでも美紀は旅に出ることで、一つの区切りになることを期待し、苦い過去にけじめがつけられると確信していた。

大自然の中に身を置き、爽やかな空気と花の香りに包まれれば、身体に染み付いた負の遺産を、消し去ることが出来るはず。そう、隆二のことを…。

そうだわ、そうしなければいけないの。何時までも過去の亡霊に縛られ、生きて行くわけにはいかない。だって私、女ですもの。一度きりの人生、新たな何かに捧げてみたい。そして、もう一度この胸を激しく燃やしてみたい。今度の旅行を、そんな何かに巡り会うきっかけにしてみるつもり。出来得るなら、そう願いたい。

その新しい巡り合いが何であるか、今はまだ分からない。けれど、この北海道への旅立ちで、新たな何かを得られるなら。北の大地の花々が、教えてくれるはず。そう、ひょっとしたら、もう一度胸を焦がす相手が現われるかもしれない。

そう思うと、何やら内なるものが燃え仕事にも熱が入った。また、新職場で一ヶ月が過ぎ、ようやく仕事の要領も掴め、若干の余裕も出てきた。かねてより夏季休暇願を出さねばと、やきもきしながら仕事に精を出し、ようやく休暇の許可を得た。







そして、運命の出会いとなる日がやってくる。

勿論美紀にとり、そんな極みは考えていない。淡い想いは後回しにして、ただ自分を癒し、忌まわしい負の過去を断ち切る門出と位置づけ、けじめの旅として参加したのである。

旅立ちの当日が来た。

出発時間が午前九時過ぎの札幌行き、ANA五十三便の集合時間が八時となれば、浜松町経由で羽田空港まで行くには、自由が丘の自宅から電車を乗り継ぐとしても、余裕を持って二時間近くは見なければならない。早起きは苦手だったが、今日ばかりは早朝目が覚めた。電車を乗り継ぎ気忙しい思いをして、集合場所の羽田空港までやってきた。空港内はシーズン中でもあり、旅立ちする客でごった返していた。

目を見張り感嘆の声を上げる。

「すごいわ。やはりシーズンだから、皆さん出掛けるわけね。これじゃ、どこへ行っても人だらけになっちゃんじゃない。それにしてもすごい!

さて、どこかしら。…集合場所のツーリストカウンターを探さなきゃ」

困惑気味に周りを見渡し、グラフワンリズム主催「夏スペシャル花の楽園爽やか北海道」の集合場所を探すと、直ぐにその場所は見つかった。

案内係らしき男性が小旗を持ち、参加するツワー客を待ち立っていた。その男性に近づき尋ねる。

「あの、東海日本ツーリストの方ですか?」

「はい、そうですが」

「ええと、今日出発の『北海道花カーニバルツアー』の集合場所は、こちらで宜しいのですか?」

美紀の問いに笑顔で応える。

「はい、お待ちしておりました。こちらが集合場所です。本日はご参加頂き有り難うございます。搭乗チケットはこちらでお配りします。なお、飛行機の出発は午前九時二十分となりますので、十五分前までには搭乗手続きを済まされ、九番ゲートの方へお越し下さい」

「そうですか。あの、一緒に行って下さる添乗員さんは?」

「はい、新千歳空港の方でお待ちしております」

「分かりました」

案内係が参加者名簿を見ながら伺う。

「ええと、お客様。ご参加の確認をさせて頂きます。お名前をお聞かせ頂けますか?」

「はい、平田と申します」

「平田様でございますね?」

名簿を指で追い確認する。

「ええと、目黒区自由が丘の平田美紀様でございますね。ようこそお越し下さいました」

改めて礼をする。

「平田様、この度は二泊三日の『夏スペシャル爽やか北海道花カーニバルの旅』にご参加頂きまして有り難うございます。それでは、こちらにご記入頂けますでしょうか」

「はい」

促され書類に署名した。

「こちらがチケットでございます。それでは搭乗時間まで、今暫く時間がございますので、どうぞごゆるりとお過ごし下さいませ」

聞きつつ、航空券を受け取る。

「そうね、まだ時間があるわね。それじゃ、コーヒーでも飲んでこようかな」

腕時計を見ながら返した。

「宜しくね」

声をかけ、その場を離れた。空港内にある喫茶店へと入りコーヒーを飲み、これから訪れる北の大地へと思いを馳せる。空港内では、仕切りなしに各方面に発つ出発便の案内が響き渡っていた。耳に飛び込む放送に、何時の間にか高ぶる気持ちで己を見つめていた。

そうだったわ…。

遠い昔を覗う如く目を細める。

あの人と行った北陸・金沢の旅。よかったわ。でも…。

思わず、くすっと苦笑する。

北陸路の景色もお料理も、ほとんど覚えていない。だって、あの人のことばかり見ていたんだもの。それに、彼に抱かれ…。思い出してか、ぽっと頬を赤く染めた。

けれどそれが、あんなことになって…。破局を迎え、苦渋に満ちる目となるが、跳ね返すように洩らす。

「でも、今日は違う。北の大地への一人旅、それもあの人を忘れる大切な旅なんだ。それで、忌まわしい過去を消し去るつもり」

きっぱりと告げ、気持ちを切り換える。

そう言えば、北海道ってどんなところかしら。いろいろ聞いたけれど、とにかくスケールが大きいらしい。と言うことは、お花畑も広いんでしょうね。心に染みるほど迫ってくるものならば、それは素晴らしい思い出作りが出来る。新しい素敵なページに、塗り替えることが出来るんだ。

それこそ、心の傷となった苦い思い出に、この北海道での感動を上書きしてしまえばいいのね。そうすれば、完全に消却できるし、吹っ切れるわ。

意を新たにし、強く心に決める。

そうするために、北の大地へ旅立つの。

コーヒーを啜りつつ思いを巡らしている時、場内アナウンスが、その時を告げるように響き渡る。

「ANA五十三便札幌行。ただ今より、搭乗手続きを開始させて頂きます。ご搭乗頂きますお客様は、九番ゲートまでお越し下さい。ANA五十三便札幌行き、ただ今より搭乗手続きを開始させて頂きます。ご搭乗頂きますお客様は…」

アナウンスを聞き、ふと我に返った美紀が耳を傾ける。

「あら、この便だわ。さあ、いよいよ出発ね。急がないと」

時めく気持ちで喫茶店を出て、手荷物検査を受け搭乗口である九番ゲートに向かった。

乗り込んだ飛行機のエンジンが轟音を放ち、機体と共に身体がふわっと浮き上がると、瞬く間に雲上の人となっていた。真っ青な天空から降り注ぐ陽射しは遮るものがなく、大きな翼に反射し小窓から窓際に座る美紀に陽光を投げかけ、雲上人になった彼女を上気させていた。

ジェット機音と共に、定刻どおり飛び立ったANA五十三便は、上空二万フィートまで上昇し、一時間二十分程の快適なフライトで新千歳空港へと舞い降りた。

とうとう着いたわ。北の大地に…。

今、着陸した滑走路を滑る飛行機の窓越しに空港の風景を見て、北海道へ来たことを実感していた。着陸後、到着のアナウンスを合図に席を立ち、大きく深呼吸し客室乗務員に見送られ、浮き立つ顔で空港ロビーへと歩いた。すると、到着ゲートを出た付近にグラフワンリズムの小旗を振る男性が目に止まる。

あれだわ。あの方が今日からお世話になる添乗員さんね。

到着客とそれらを迎える人々。それに搭乗客らの熱気で、ロビーは蒸していた。

「お待ちしておりました。『花の楽園爽やか北海道のツアー』にご参加頂きます皆様、こちらが集合場所となっております!」

ロビーへ入ってくるツアー客の一行に向かって、添乗員と思しき男性が、大きな声を張り上げていた。その声を聞き、美紀はふと思う。

あら、どこかで聞いたような声だわ…。思い出せず、そのまま声の方へと歩く。

「さあ、こちらです。『花の楽園爽やか北海道ツアー』へご参加頂く皆さん、こちらにお集まり下さい!」

小旗を振り懸命に張り上げる様を見て、やはりどこかで見たような気がした。見覚えがあるが、分からなかった。美紀の思いをよそに、構わず続ける。

「皆さん、お集まり頂けますか。こちらです。こちらが『花の楽園爽やか北海道夏スペシャル花カーニバル三日間の旅』、ご参加の皆さんの集合場所でございます!」

懸命に呼び集めていた。到着ゲートから出た一行が、その声の方へ集まる。集合したところで点呼を取り出す。

「ようこそお越し下さり、誠に有り難うございます。それでは皆さん、今回のツアー参加者様の確認をさせて頂きます」

書類を見つつ顔を上げ、集まり具合を見定める。

「始めまして、私がこれから三日間のお供させて頂く、東海日本ツーリストの伊藤敏也と申します。宜しくお願い致します!」

皆を前にし、笑顔で挨拶した。

「それでは確認させて頂きます」

名簿を見ながら名前を呼び始める。

「田中様、三名様。いらっしゃいますか?」

「はい、私です」

小太りの男性と家族らしい三名を確認した。

「分かりました」

「次は、吉住様。ええとお二名様」

「はい!」

声の主を確認し頷く。

「宜しくお願い致します。次に谷山様、四名様はどちらにおられますか。谷山様」

応答がなく、きょろきょろと見廻す。

「ええ、谷山ですが、私たちのことですか?」

後ろの方から、ようやく手が挙がる。

「はい、谷山様。ええと四名様いらっしゃいますか?」

「はい!」

一斉に手が挙がった。

「それに、吉田様。…伝々」

次々に読み上げられ、後半近くになって美紀が呼ばれる。

「ええ、平田美紀様。ええと、お一人様ですね。いらっしゃいますか?」

「はい」

中盤から、小さな声と恥ずかしそうに手が挙がった。

「ううん、平田様…。あれ、あの時の平田さんじゃないですか?そうですよね!」

改めて美紀を見直した。その時、ツーリストの目白支店で申し込みの相手をした伊藤であることに気づく。

「お久しぶりです」とでも表現するように微笑み、軽く手を振る。すると思い出したのか、伊藤も愛想笑いで頷き、残る参加者の点呼が進む。

「最後に宮崎様、いらっしゃいますか」

「はい」

「以上、四十六名のご参加でございます。楽しい旅行となりますよう、添乗員として精一杯努めさせて頂きますので、宜しくお願い致します」

参加の感謝を込め、改めて頭を下げた。

「こちらこそ、宜しくお願い致します!」と、ツアーの一人が告げた。

すると、皆期待するように一斉に拍手を送る。

「有り難うございます。それでは、バスの方にご案内致します。皆さん、ついて来て下さい!」

小旗を掲げ歩き出すと、そろって期待顔の皆がついて行く。空港の出口まで来ると、伊藤がバスと一行を相互に見ながら説明する。

「あちらに止っているバスがそうです。席の方は決まっておりませんので、どうぞ順に奥の方からお座り下さい」

そして、美紀の傍に近づき笑顔で告げる。

「暫くぶりですね。今回のツアー、私がお供することになりました。その節は有り難うございました」

「いいえ、こちらこそ。先般はいろいろ我侭言って、ご迷惑をお掛けしてすみませんでした。今日から迷惑をお掛けしないようにします」

「どう致しまして。担当させて頂いたのも何かの縁ですし、こうしてご一緒出来るのもまた奇遇ですね。このシーズンになると、私たちも駆り出されるんですよ。不慣れな点があるかも知れませんが、一生懸命努めますので、どうぞ宜しくお願い致します」

「いえ、こちらこそ」

「それにしても、まさかこうして会えるなんて考えもしませんでした。普段では近場の手伝いはあるんですが、今年は異例なんです。こちらに来ての手伝いは」

「そうですか。それにしても、あの時の伊藤さんとは気がつきませんでした。皆さんに、声をお掛けしているのを聞いて、どこかで聞いた声だとは思ったのですが、直ぐには分かりませんでしたわ。その節はお手数かけました」

「いいえ。私の方も、まさか気づきませんでしたよ」

美紀の謝辞に応えていた。親しみを感じたのか、美紀が告げる。

「今回は一人旅です。知らない人ばかりで心細かったけれど、伊藤さんが添乗して下さるとは心強く思うし、何だか仲間がいるようで安心しました」

「そう言って頂けると、私の方も遣り甲斐が出てきます。とりあえず、まだやらねばならないことがありますのでこれくらいにしておき、また落ち着きましたらお話でもさせて下さい。お迷惑じゃなければですが?」

「迷惑だなんて、とんでもない。ええ、構いませんわ。どうせ一人旅ですし、話し相手がいないので退屈せずにすみますから。是非、そうして頂けると嬉しいわ」

歓迎すべく笑顔を送った。

「そうですか、それでは」

「頑張って下さいね!」

「はい!」

軽く会釈し、バスの方へと走って行った。それについて美紀は、皆と一緒に歩きバスへ乗り込んだ。また伊藤と話が出来るようにと、座席の前よりに座る。すると乗り込んできた伊藤が、居場所を確認し笑みを送る。そして参加者が全員いるか、頭数を数えていた。

「よしっ!」

名簿を見つつ小声で発し、おもむろにマイクを取る。

「皆さんお揃いですね。それでは恐縮ですが、隣の人を確認して下さい。そして、どなたが座っているか覚えて下さい。これから三日間、皆さんは多分、お座りの席が指定席になると思います。団体行動となりますので、いろいろなところを見学して戻った時、互いに隣同士がいるか確認して頂くことになります。そこで皆様に、お願いがあります。この旅行をスムーズに進めるには、確認作業を都度行って頂くことなりますので、ご協力の程お願い致します。どうですか、皆さん!ご協力頂けますでしょうか?」

「はいっ!」

一斉に、元気な声と共に拍手が起きた。

「有り難うございます。ご協力、宜しくお願い致します」

伊藤が頭を下げた。

「それでは、観光の案内をして下さるガイドさんを紹介させて頂きます」

バスガイドにマイクを渡し、席を譲った。

「はい、皆様。本日はようこそ、北の大地、北海道へとお越し下さいまして、誠に有り難うございます。今日は快晴とはいえませんが、皆様の日頃の行いが宜しいのか薄日が射しており、暑くもなくよい旅行日和ではないかと存じます。

申し遅れましたが、今日から三日間、『花の楽園 北海道 夏スペシャル爽やか北海道花カーニバル』と、ちょっと長めのタイトルの旅。ガイドさせて頂きます大沼観光の木下加奈と申します。運転手は築地正雄。共に三日間お供させて頂きますので、宜しくお願い致します」

告げると、期待を込めて一斉に拍手が起きた。

「有り難うございます。皆様に応援の拍手を頂き、身の引き締まる思いでございます。ところで恐縮ですが、皆様から見て右側のお席の方が少々少なめでございます。どなたか右側にお移り頂きますれば有り難いのですが…。それでないとバスが傾いてしまいますので」

要請すると、皆の笑いと共に数人が右席に移動し、大きな拍手が湧き起る。

「有り難うございます。決して、私の我侭で申したのではございません。あくまでも皆様の安全のためでございますので、ご容赦下さいませ。

あまり片方に集まりますと、バスがそちらの方に傾いてしまい、運転手の築地が困ります。両側均衡になるよう、右側のお席にお移り願いました。お移り頂いたお客様、ご協力有り難うございます」

冗談っぽい言い回しに、皆の顔は緩み、車中は和やかな雰囲気に包まれていった。頃合いをみて案内し始める。

「それではこれからの日程と、どのようなコースで進めて参りますかご説明させて頂きますので、こちらの地図を見て下さい。

はい、皆様。そんなことはどうでもいい。早く走らせろという顔でいらっしゃいますので、直ちに出発させて頂きます」

促すと、ゴトンと揺れバスが動き出した。

「皆様の視線に促され、早速走らせて頂きましたが、これから一路、富良野へと車を進めて行くことに致します。それでは、三日間の北海道花カーニバルの旅。訪問予定を簡単に、こちらに掲げてある地図でご説明させて頂きます」

運転席後ろのテレビ画面に貼り付けた、手書きコースの記した北海道地図を指差しながら伺う。

「えっ、見づらい?そうかもしれません。この地図、私が記しました手作り地図でございますので、その点はご容赦頂きたいと存じます」

すると、労うような拍手がぱらぱらと起きる。

「有り難うございます。ご納得頂けたかと感謝します。よく書けている?有り難うございます」

和やかな笑いが起きる。一礼し、そして富良野を指差す。

「今、皆様が降り立った新千歳空港を後にして、今日の日程は、こちらにございます富良野の『ファーム富田』へと参り、香り高いラベンダー畑で摘み取りの経験。それに次は、虹のような色彩の花畑が広がる花園を観賞して頂きます」

地図を目で追い指差し、ツアー客を交互に見つつ笑顔で進める。

「富良野のラベンダーを楽しんで頂きました後、『彩香の里』、『花人街道』、『美瑛・四季彩の丘』へと行き、美しい花街道の写真を展示します『拓真館』へと参ります。以上、本日のスケジュールですが、明日の日程につきましては、今お話しても、皆様お忘れになりますでしょうから、明日の朝、こちらのバスにご乗車されてから、改めてご説明させて頂きます」

さすがガイド歴が長いのか、簡潔明瞭に終えた。心が踊るのか、誰もが直視し聞き入っていた。

広大な北海道、富良野のラベンダー…、か。美紀も胸中で、こそっと呟いてみた。ジーンとした響きが鼓膜を伝い鼓動と供に湧き上がってくる。

…富良野か。ラベンダーの咲き乱れる花畑が広がり、綺麗なんだろうな。それに甘い香りが、一面に広がっているのかな。

香り渦巻く広大な花園を思い描き、咲き誇る花に包まれている自分を置き、何やら心時めく面持ちになっていた。そしてバスガイドの説明を聞き続けるうち、北の大地、北海道へ来たという実感が、胸中に広がっていた。

旅に出た目的だって、何時までも過去の亡霊に縛られている私を、完全に解き放つためのもの…。だから、この地にやってきた。

何ものにも拘束されず、大自然の力で包み込んで貰い、強烈な印象を心の襞に刻み込む。それで私は、忌まわしい呪詛から解放される…。そう、隆二のことなんか、すべて過去の遺物でしかないの。彼とはそれだけのこと。だから、私にとってこの地への訪れが必要だったし、そのための旅立ちなの。それに、今では新しい時めきが、入り込めるスペースがこの胸にはあるんだもの。

北の大地に第一歩を踏み入れた時から、美紀の胸にまだ見えぬ、新たな息吹が生まれ始めていたのだ。

窓側の席に座り、窓枠に肘をかけ手の甲に顎を乗せ、車窓から映り行く景色を眺め、つらつらと思いを巡らせる。

ガイドの木下が、細やかに北海道の景観についてマイクを通し説明していたが、彼女には、ほとんど耳をすり抜けるだけだった。上気した面々の美紀らを乗せた観光バスは、札幌市街を抜け道央自動車道に入り、どこまでも真っ直ぐ延びる高速道路をひた走った。岩見沢を抜け滝川まで進み、そこから国道三八号線に入り、暫く走ると富良野にある最初の目的地「ファーム富田」へとやってきた。

凡そ一時間三十分の走行であったが、不満を浮かべる顔はなかった。車窓から飛び込む広大な風景に圧倒され、むしろ心地よい揺れとその景観を楽しむような雰囲気が漂い満ちていた。

夢心地の皆を、現実の世界に引き戻すように木下がせっつく。

「さあ、最初の目的地『ファーム富田』に到着致しました。これから皆様にラベンダーの咲く畑で、摘み取り作業を行って頂きます。バスを降りましたら、私について来て下さい。そこでお願いですが、この摘み取りは場所が決まっており、一人一株となりますので、畑に入る前にハサミと輪ゴムを貰い、係りの人について畑へと入って下さい。宜しいでしょうか。それではご案内させて頂きます」

バスが駐車場に止りドアが開いた。前から順に降り木下について畑の方へ向かった。美紀も続く。

「まあ…」

煌く陽射しに手をかざす。美紀は上気していた。

ううん、素敵ね。この眩しいばかりの輝き、そして何とも言えないラベンダーの香り。まさに北の大地だわ。

立ち止まり大きく息を吸い、沸き立つ空気と香りを満喫した。

やっぱり東京と違い、澄んでいるから陽射しが強いのね。でも、この陽射し、どことなく爽やかで優しいし、気持ちがいい。本当に違うわ。

前の丘に広がる広大なラベンダー畑を仰ぎ見て、感嘆の声を上げる。

「何て素敵なのでしょう!」

そこへ、伊藤が近づき声をかける。

「平田さん、ご覧になっていますね。このラベンダーの群生、本当に素晴らしいですよね。それに、この香りが何とも言えない芳しさですね」

「ええ、こんなに沢山のラベンダー見たことない。何と美しいんでしょ。それにこの広さ、咲き誇るラベンダーで一面に埋め尽くされている。私、感激しちゃいます。それと、この香り。息を吸い込むと私自身が、この芳しさの中に溶けてしまいそうだわ」

「やはり北海道ですね。スケールが違う。まったく大きいし広い。こんな景色、何度見ても感動しますよね。これこそ季節の贈り物ですし、北海道そのものじゃないでしょうか」

「そうね、私も始めて。これほど広大なラベンダー畑の中で、お花摘みが出来るなんて夢のよう。まるでおとぎの国に入り込んでいくみたい。とても素敵だわ!」

美紀にとって、今まで見たことのない景観に圧倒され、心の襞に深く刻み込まれていたのである。

「平田さん、早くラベンダーを摘んできて下さい。それにもっと近くに行き、幸せの香りを楽しんで下さい」

伊藤に促され、広大な丘の畑へと入り行く。芳しいばかりの香りが、鼻腔をくすぐる。

ああ、何と素晴らしい香りなのでしょう。それも小波のように押し寄せてきて、私を包んでしまう。これが北海道…、大自然の恵みなんだわ。

目を閉じ、うっとりと花に顔を近づけ、思いのままに沸き立つ香りを楽しんでいた。すると麓から、大きな声が飛んでくる。

「平田さん、もう摘まれましたか!摘んだら、輪ゴムでとめてお持ち帰り下さい!」

はっと我に返り、促されるまま手早く持ちきれないほど摘み取り、輪ゴムで結び止め、眩しいばかりの風景を目に焼き付けていた。

するとまた声が飛んでくる。

「平田さん、カメラお持ちでしたら。この景色撮っておいた方がいいですよ!」

「ええ、そうしようと思っていました。有り難う」

気遣いに感謝し、手を挙げた。

「このファーム富田のラベンダー畑は、北海道の中でも規模としては一番か二番なんですよ。どうですか、堪能されましたか!」

説明する伊藤に、美紀が軽く手を振り返す。そして広がる畑を二、三枚続けてカメラに収め、ラベンダーの束を持ち麓へ戻ると、小旗を持つ伊藤が笑顔で迎える。

「お帰りなさい。どうでしたか。素晴らしかったでしょう」

労いに応える。

「本当に素敵だわ。やっぱり北海道ね。こんなに広いラベンダー畑ですものスケールが違う。それに、とてもいい香りだわ」

楽しむように嗅いでいた。そんな様子に伊藤が気を利かす。

「もし、宜しければ。この素晴らしい畑をバックに、お撮りしましょうか?」

「ええ、そうね。記念に撮って頂こうかしら」

すると、更に尋ねる。

「それとも今一度近くまで戻って、あなたを囲むようにしたラベンダーの群生を写真に収めましょうか?」

「そうね、それの方がいいかしら。せっかくだから思い出作りに、もう一度行って、群生と一緒に撮って下さる?だって、これだけ一面に咲いているの今まで見たことないし、囲まれているところを撮っておきたいわ。お忙しいところ悪いんですけれど、近くで撮って頂けますか?」

「ええ、構いませんよ。平田さんのためなら、忙しいなんて言ってられません。それに集合時間まで、まだ時間がありますから。」平田さんのような美しい方を、この広大な畑を背景に写真に収められるなんて、男冥利に尽きると言うものです。それに絵になりますから一、二枚といわず、何枚でも撮ってあげますよ」

「有り難う。けど、まだ先が長いから一、二枚にしておくわ」

「そうですか。それではカメラをお貸し頂けますか?」

「ええ、お願いします」

カメラを渡し、まずはその場で美紀にポーズを取らせカメラに収めた。そして二人で畑に行き、群生するラベンダーに美紀が顔を寄せているところを撮る。

「有り難う、伊藤さん。一人じゃ景色しか撮れないものを、私を撮って頂き感謝します」

「どう致しまして。こんなことでよかったら、何時でも言って下さい。どんどん撮りますから」

畑から戻り、売店へとやってきた。陽射しが強く、喉が渇いていた美紀が尋ねる。

「ちょうどよかったわ。このメロン生ジュース、お飲みになりませんか?喉が渇いたので頼むついでに、撮って頂いたお礼におごりますわ」

「あっ、そうですか。私も喉が渇いて、冷たいものを飲みたいと思っていたんです」

「それはよかった」

絞りたてのメロンジュースを二つ買い一つを手渡す。美紀が美味そうに飲んでいると、近くにいたツワー客の一人が声をかけてくる。

「そちらのお嬢さん、宜しければ記念に、添乗員さんと一緒の写真を撮ってあげますよ。ラベンダー畑をバックにしてね」

「そうですか。それじゃ、お願いしちゃおうかな…」

「それじゃ、カメラを貸して下さい」

手渡し、伊藤とのツーショットで撮って貰う。

「あれ、お嬢さん。今のポーズ、表情が硬いかな。これじゃ駄目だ。もっと笑顔で、そう添乗員さん、お嬢さんの肩に手を乗せて。そうそう、その調子」

構え撮り直した。

「さあ、上手く撮れているかな」

気遣うツアー客に、美紀は笑顔で礼を言う。

「大丈夫ですよ。すみません、何度も有り難うございました」

すると、伊藤が顔を崩し告げる。

「いや、平田さんと一緒に撮って貰えるなんて光栄だな。たとえ引き立て役でもいいんです。こうやって収まれて嬉しいな」

「まあ、嫌ね。引き立て役だなんて。それにしても、メロンジュース美味しくて一気に飲んでしまったわ。空気も美味いけど、ジュースもフレッシュで最高だわね」

「そうですね。喉を潤す冷えたジュースが、身体をしゃきっとさせますよね。これで元気百倍だ!」

口の回りを手で拭き爽快感を顔中に表し、美紀を見つめていた。

集合時間が近づくにつれバスのドア付近に、摘んだラベンダーを持つツアー客が集まり出していた。運転手がバスに乗り込むと同時に、皆が乗り席に座った。美紀もバスに乗る。外で皆の帰りを確認し、伊藤も乗り込んだ。すると木下が客の頭数をチェックし、いることを確認すると、伊藤に報告していた。

「皆様、如何でしたか。ラベンダー畑でのひと時、堪能して頂きましたでしょうか?」

ガイドがマイクで問いかけた。すると、乗客の中から返事が返る。

「こんなに沢山のラベンダーを見たことがないわ。とても素敵だった。見て下さい、このラベンダー。こんなにいい香りです」

束を鼻に近づけ、満足そうに嗅いでいた。

「ほら皆さん、分かりますか?お持ち頂いたラベンダーで、車内が甘い香りに包まれていますね。これで一日中、幸せな気分に浸れ、ご満足頂けるのではないでしょうか?」

更に促す。

「ラベンダーを背もたれの取っ手のところに、ぶら下げておくといいですよ。どうぞ結び付けて下さい」

皆、木下の勧めで、一斉に取っ手に付けていた。各自ひと息つき放つ香りに酔う。

「本当にいい香りね。今日一日、この素敵な香りに包まれ旅が出来るなんて、何て幸せなんでしょう」

満足気に女性客の一人が呟いた。

「そうだ、まったくだ」

皆の間から出ると、笑みが零れ拍手が起った。車内を漂う香りに、皆が酔いしれている時、バスがゴトンと音を立て、ゆっくりと動き出した。すると、それを機に木下が解説し出す。

「それでは皆様。お楽しみ頂きました富良野を後にしまして、次の目的地『彩香の里』へと車を進めて参ります。名残惜しいとは存じますが、出発時間となりましたのでご容赦下さい。それでは皆様、こちらの地図を見て頂けますか。これから向かう『彩香の里』がどこなのか、説明させて頂きます」

手作り地図のファーム富田から、彩香の里へのルートを指先でなぞりながら、マイク片手に説明する。

「彩香の里へは、おおよそ三十分で到着致します。皆様、これから訪れます彩香の里は、ファーム富田に劣らぬラベンダーが咲き誇り、皆様を歓迎してくれます。先程のファーム富田はラベンダーだけでしたが、これから向う彩香の里は、他の花々が広大な敷地に咲いており、北海道の素晴らしさを堪能させてくれるものと存じます」

皆の期待する視線が地図に向けられていた。

観光バスは舗装された道路をひた走り、彩香の里へとやってきた。見渡す限りの広大な丘に迎えられるように、ラベンダーが咲き、マリーゴールド、ペンタス、ケイトウの花々と競演し一行を包み込み、感動の坩堝へと誘っていた。

皆、口々に出る言葉は、決まって、「素敵だわ!」だとか、「素晴らしい!」とか、「こんな感動、初めてだ!」、更に感極まるのか、感嘆する言葉の連続だった。

美紀も例外ではない。

「まあ、素敵。これほど美しいとは、想像以上だわ!」感動し、夢中でカメラのシャッターを押し続けた。

一行は木下の案内の下、そぞろ歩いた。どこへ行っても、感嘆の言葉が溢れる。美紀も鳥肌が立つほど酔いしれ、花々の芳香に夢心地になっていた。

そんな彼女を包み込む眼差しで、伊藤が声をかける。

「平田さん、どうですか?」

「ええ、本当に素敵だわ。こんな素晴らしい旅を演出して下さった伊藤さんに感謝しなければいけないわね」

「とんでもない。私はただの添乗員です。でも、こんなに歓んで頂けて、お勧めした甲斐がありました。こうして、歓ぶ平田さんにお供するだけで光栄です」

謙遜する伊藤に、感謝の気持ちを続ける。

「北の大地への旅を紹介して頂き、素晴らしい香りをプレゼントして貰ったんですもの。嬉しいわ、有り難う」

「平田さん、写真撮ってあげます。カメラ貸して下さい!」

「お願い。綺麗に撮って下さいね」

「勿論ですよ。こんな素晴らしい背景があるんだ。映えるよう撮らせて頂きますよ」

構えシャッターを押す。まるで北の大地で、撮影会をやるような心持ちで、ファインダー越しに覗き込んでいた。

広大な彩香の里は富良野に続き、美紀にとり心の傷を癒す絶好の景観となった。

広大なお花畑、何と素晴らしいんだろう。富良野そして彩香の里、これほど私の心を揺するものはない。きっと花々の精が、再出発を歓迎しているんだわ。

こうして、カメラに収めてくれる伊藤さんが、新しい息吹を乾いた心に吹き込んでくれる。その証として、正直な私の心を映しているに違いない。

これで消し去ることが出来る。この時を今まで、どれほど待ち望んでいたか。それがやっと実現できた。嬉しい。本当に嬉しい。有り難う、北海道。有り難う、北の大地。そして咲き誇る幸せの花々。

胸の内で感謝していた。嬉しかった。そう思うと、目から涙が溢れてきた。落ちようとする涙を、隠しつつ指先で拭った。

すると、伊藤が優しく声を掛ける。

「平田さん、私には分かりませんが、何か吹っ切れたようですね」

「ええ、有り難う。こんなみっともないところを見られ、恥ずかしいわ」

周りの視線を気にすると、伊藤が諭す。

「何をおっしゃいますか。人間、誰でも一つぐらい悩みを持っているものです。だから恥ずかしいなんて思ってはいけません。いいじゃないですか。涙を見せたって」

「でも、こんなおばさんが涙を流して。周りの人が見たら、どうしたんだと思うでしょうね。やっぱり恥ずかしい」

「何をおしゃいますか。あなたみたいな美しい人が涙を見せると、これがまた絵になるんですよ。俺なんか涙ぐむ様を見て、むしろ感動します」

「まあ、嫌ね。意地悪なんだから」

「すみません。余計なことを言って。でも、ラベンダーやペンタスの花々に包まれて涙する。すごくロマンティックですね」

「そんなこと言って…」

恥らうように俯いた。

「お詫びに、もう一枚撮らせて頂きます。美紀さん、笑って下さい、それではいいですか。はい、チーズ!。ううん、ちょっと古いかな」

美紀は応えるように笑顔を作り、カメラに収まっていた。

そして次に向かったのは、これまた広大な丘陵地帯の「美瑛・四季彩の丘」だった。大波がうねるような丘陵地帯に、ひまわりやとうきび畑が這うように燃え立ち、ところどころに牧草ロールが積まれて、夏の太陽の陽射しに輝くような陽炎が沸いていた。

南欧の田園風景を思わせる情景に、美紀がうっとりと眺める。

素晴らしい!この広大な台地。ラベンダーもいいけれど、この何ともいえない丘陵風景は、ちじこまった私の心を大きく開いてくれるみたいだわ。

突き抜ける青空の下、見渡す限り広がる丘を、目を細め眺めていた。

「美紀さん。どうですか、この広大さ。見ていると心が洗われませんか。私なんか、小さなことでうじうじすることがあるんですが、この景色を見ていると、そんなことはどうでもいいような気になりますよね」

伊藤が遠くを眺めつつ話しかけた。

「そうですね、言われる通りだわ。この広大な丘を見ていたら、小さなことに悩んでいる自分が恥ずかしくなりますわ。清々しい気持ちになれるのも、この四季彩の丘に私自身が立てたからね。本当に気持ちがいい。伊藤さん。記念に丘をバックに撮って下さる?」

「あっ、ご免なさい。うっかりして。あまりの素晴らしさに、自分が飲み込まれてしまったみたいだ。直ぐに撮りますから」

カメラを預かり、シャッターを押した。

「どうも有り難う。よく撮れているといいんですけれど、どうかしら…?」

カメラの再生ボタンを押し確かめる。

「あらまあ、私ってこんなに小さいの。まるで、おとぎの国の小人のようだわ」

「あれっ、失敗したかな。ちょと見せてくれますか?」

伊藤が再生画面を覗こうとすると、手を覆い隠す。

「駄目、見せられない格好悪いもの。こんな小さな私。丘に飲み込まれているようで、見せるの嫌だわ」

「何をおっしゃいますか、撮ったのは俺です。もし上手く撮れていなければ、俺の責任ですから見せて下さい!」

強引に頼む。その気迫に負け、美紀がしぶしぶカメラを渡す。画面を覗く。

「ううん、確かに。小さいな…。何でだろう?そうか、美紀さんが小さいのは、景色全体を入れようとしたからだ。原因が分かりました。あまりにも丘が大きいからです。その辺を考慮し撮り直します。だから安心して下さい」

「そうだったの、それなら納得できるわ。景色全体から見れば、私など小さいに決まっているもの」

覗き込み安堵した。すると気を利かせる。

「それじゃ、もう二、三枚、丘の大きさを勘案して撮りますから、そうすれば美紀さんが引き立ち、より美しく撮れるはずです」

立て続けにシャッターを押し、再生画面を見て納得する。

「ほら、思った通りだ。これなら四季彩の丘をバックに、美紀さんがとてもよく撮れています」

画面を見せる。

「まあ、素敵だわ。我侭言ってご免なさい。やっぱり北海道は大きいわね。この丘もこんなに広くて大きいことが再確認できたわ」

告げ話題を変え遠慮気味に伺う。

「それでどうかしら?私ばかり撮って貰っているので。伊藤さん、今度はお礼に、あなたを撮ってあげるわ」

「ええっ、私をですか!」

「そうよ、駄目?」

「いいえ、そんなことありません!」

「それなら、そちらに立って下さる?」

「いいんですか、これは光栄だな。撮って貰えるなんて」

嬉しそうに満面の笑みを浮かべる伊藤をファインダー越しに覗き、カメラに収めた。

撮られている時、伊藤はふと思う。

あれ、何時の間にか俺は、彼女を「美紀さん」と呼んでいる。いいのかな、こんな気安く呼んでも…。

美紀も気づいていた。だが、そう呼ばれていることに抵抗はなかった。気軽に呼んでくれることが心地よかった。とは言え、気恥ずかしさから、伊藤を「敏也さん」とは呼べなかった。けれど、身近に感じるに至ったことは実感した。

広大なスケールに胸打たれつつバスに乗り込み、丘陵地帯を縫うように走り絶景を後にする。ツアー客は程よい揺れに、今まで観てきた景観を思い浮かべ、今だ覚めやらぬのか夢心地になっていた。それは美紀とて同じである。

そして、彼女らを乗せたバスは次の目的地、拓真館へと向かった。車中、木下が説明するのと同時に、宿泊先についても話し出す。

「これから参ります拓真館では、四季を通じた北海道の大自然を、くまなく写真に収められており、皆様の目を釘づけにするものと存じます。限られたお時間ではございますが、ごゆるりとお楽しみ下さいませ。

それと本日お泊りのお宿ですが、層雲峡温泉となっております。こちらへの到着は午後四時三十分と、少々早めの時間となりますので到着致しましたら、ごゆっくりと旅の疲れなどお取り頂ければと存じます。それではまもなく拓真館に到着致します」

一行を乗せたバスは、直に拓真館へときた。美紀らは思い思いに、美しい写真を展示したギャラリーを見学する。大自然の北海道を、四季を通じて撮られた写真は、迫る何かを、観る美紀に与えていた。

極寒の雪景色のキタキツネたち。春風に揺れ、鮮やかな緑に萌えるポプラ並木。北の大地に沈み行く真っ赤な夏の太陽。秋の深まりに色づく木々の中で戯れる月の輪熊の親子。

壁に掛けられた写真が四季の徒然を映し出す。見入るツアー客の間から溜息や感嘆の声が洩れる。勿論、すべてが美紀にとっても新鮮なものばかりだ。

「素晴らしい!」

出る言葉は短い感嘆詞。気持ちの表現はそれで充分である。じっと鑑賞していると、何時の間にか写真の中に吸い込まれていることに気づく。

可愛いわね、このキタキツネ。それに熊の親子、何とも言えぬ愛情が滲み出ている。

先ほどまで味わっていた、大自然の風景にも劣らぬ写真に酔いしれていた。小一時間の観賞も直ぐに終わる。車中に戻っても、脳裏に焼きつき、つらつら思い浮かべていると、マイクを取る木下の声が聞こえてきた。

「如何でしたか。拓真館での写真の数々、充分堪能して頂けましたでしょうか。実際に見る風景も素晴らしいですが、写真に収められている生き生きした動物たちも、また素敵ではありませんか?」

皆が拍手を送る。おさまるのを待ち告げる。

「有り難うございます。ご満足頂けたようですね。それではこれから、今夜お泊りの層雲峡へと進めさせて頂きます。お泊りのホテルは、層雲峡国際ホテルとなっております。これから到着まで一時間ほどかかる予定でございますので、その間、お宿泊やお食事につきまして、添乗員さんから詳しく説明して頂きます。

「それでは伊藤さん、宜しくお願い致します」

マイクを手渡す。

「はい、皆様。お疲れのところすみませんが、今夜お泊り頂く層雲峡国際ホテルでの、これからのスケジュールについてご説明させて頂きます。ホテル到着は木下さんの説明通りの時間となります」

すると奥の席から声が飛ぶ。

「あれ、何時って言っていたっけな。聞き漏らしちゃったよ」

「は、はい。ええと、申し訳ありません。ホテル到着は午後四時三十分ぐらいになろうかと存じます。宜しいでしょうか?」

木下に確認し応えた。すると、後部座席から「了解!」と声が届く。伊藤は予定表を見ながら続ける。

「ホテルに着きましたら、皆様のお泊り頂くお部屋をご案内させて頂きます。各自決められた部屋の鍵をお渡し致しますので、お受け取りになられお越し下さい。お食事の方ですが、午後六時から『光の間』のラウンジでお召し上がり頂きます。ここではバイキング形式となりますので、ご自由にお願い致します。またお風呂の方ですが、地下一階にございます。食事前に行くか、後にするかは夫々お決め頂ければと存じます」

あれこれと細かく説明していった。皆、自分らの泊まる部屋とか、今夕食と明日の集合時間など、知っておかなければならないことを真剣に聞いていた。

「…伝々。と言うことで、明日の出発時間は、ちょっと遅めの午前十時とさせて頂きますので、一階のロビーに遅れないよう集合して下さい」

一通りの説明を終えた。真顔で聞き入る皆に確かめる。

「何かご不明な点はございませんか?」

すると、初老の女性が遠慮気味に尋ねる。

「あの…、パンフレットにある『雲上の神苑を空中散歩』というのに行きたいんですが、どうすれば宜しいでしょうか?」

「はい、それは大雪山黒岳の山頂へロープウエイで行って頂くものですが、オプションですのでご参加の場合は別途料金となります。もし前もってご予約されていないようでしたら、今からでもお申し込み頂ければ参加出来ます。どう致しますか?」

初老の女性が納得し返事する。

「そうですか。それじゃあ、せっかくだから行ってみようかしら。申し込みさせて頂きますわ」

「分かりました。ええと、お客様のお名前は?」

「宇都宮と申します」

「宇都宮様ですね。ご参加は何人様になりますでしょうか?」

「私と主人の二人です」

「分かりました。それでは後程、お部屋の方へお伺いしてお申し込み頂くことにします。こちらの方は、少し早めの午前六時の出発となります。ご参加頂く皆様は、出発時間に遅れないようにホテル前に集合して頂き、マイクロバスで黒岳ロープウエイ出発口へとお連れ致します。私がお供しますので、宜しくお願いします」

揺れるバスにバランスをとり美紀の方を見て、目でオプションセットであることを伝えていた。

「あっ、そうだ!」

言い忘れたのか、伊藤が慌て付け加える。

「大雪山黒岳の空中散歩にご参加されます方々の朝食は、空中散歩が終わり戻りましてからとなりますので、ご了承下さいませ」

するとまた別の方から、間の抜けた質問が出る。

「あの…、明日の出発時間は、何時になりますか?」

「はい、ですから少し早めの午前六時となります」

自嘲気味に応えた。

「いいえ、私はその空中散歩とやらには参加しませんので。それ以降の観光のために、このホテルを何時に出発するのかと思って、お尋ねしたんですが」

遠慮気味に返した。

「それは失礼致しました。明日の出発時間は、少し遅めの午前十時に、こちらのホテルを出発させて頂きます。本日は朝からお疲れとは存じますが、明日はくれぐれも出発時間に遅れないよう、今晩は充分疲れを温泉に浸かってお取り頂き、明日に備えて頂きたいと存じます」

伊藤の説明に納得したのか、皆安堵する顔になっていた。そしてガイドの木下が、マイクを受け取る。

「皆様、お解りになりましたか?はい、それでは間もなくこのバスは、大雪山連峰に抱かれた層雲峡温泉街へと入って参ります。皆様、今日一日、どうでございましたか。一日目の旅、充分お楽しみ頂けましたでしょうか?」

納得したのか、一斉に拍手が起きた。

「このバスの車内も、皆様がお摘になったラベンダーの香りで包まれております。広大な大地、どこまでも続く道路。改めて北海道に来たと実感されていると存じます。まあ私なんか、毎日がこのような環境の中におりますので、時めくことはありませんが、皆様方には、さぞやこの北の大地の広さと雄大さ、そして花の楽園を深く胸に刻み込んで頂けたのではないでしょうか」

回想させるように説明し、急に少し大きめな声で尋ねる。

「皆さん、今日は楽しめましたか!」

「はい…」

二、三の草臥れ気味の返事が返る。

「あれ?楽しめなかった人ばかりのようですが」

今一度、問いかけた。すると笑いが起き、大きな拍手が鳴り渡った。

「そうですか。皆様、お楽しみ頂けたわけですね」

満足気に応えた。マイクを握り直す。

「ほっとしました。拍手されなかったらどうしようかと思いましたよ。ああ、よかった」

胸を撫ぜ下ろし、安堵の気持ちを表した。

「それでは間もなくホテルに到着致します。今日一日、北海道訛りの拙い説明で、皆様には大変お聞き苦しい点があったかと存じますが、そこは、私の美貌でご容赦頂けるなら幸いでございます」

皆が木下を見て、また笑いが起きた。

伊藤が付け加える。

「夕食の方は一階の光の間です。午後六時よりお取りできますので、存分にお召し上がり頂きたいと存じます。六時まで少々時間がございます。温泉に浸かるのもよし、お部屋でおくつろぎ頂くのも結構でございます。ええと、それに夕食時間は午後九時までとなりますので、お間違えのないよう注意して下さい」

一通り説明し、マイクを置いた。終えた頃、一行を乗せたバスが、層雲峡温泉国際ホテルに到着した。







伊藤の先導に従いホテルへと入り、割り当てられた部屋の鍵を受取り各自散っていった。美紀も部屋へ向かおうとした時、伊藤に呼び止められる。

「あの、平田さん」

「は、はい…」

立ち止まり振り返りつつ、何用かという眼差しで覗った。

「後でお部屋の方に電話しますが、どこか出掛ける予定でもありますか?」

「いいえ少し休んで、それから考えようと思っています」

「それなら、一時間後ぐらいに一段落しましたら連絡させて頂きます。明日のオプションの件で、お話しておきたいことがありますので、宜しいでしょうか?」

「ええ、分かりました。電話お待ちしていますわ」

会釈をし、エレベーターホールへと荷物を持ち向った。

美紀の部屋は六階の六○七号室である。部屋に入り荷物を置き、窓際のソファーに腰を下ろす。

ふうっ、ああ、よかった。北海道に決めて正解だった。こんなに素晴らしいとは思っていなかった。このラベンダー、何時までもいい香りがする。そう言えば、バスの中も満ちていた。素敵だわ。何だかロマンティックな気分になるわね。どこか飾り付けるところないかしら?

辺りを見廻し、ちょうどいいスタンドの端にくくりつけた。

これでよしと。今夜はこの香りに包まれて眠るんだわ。何て幸せなことかしら。

くすっと笑みを漏らす。

そういえば、伊藤さん。一時間後ぐらいと言っていたわね。明日のオプションの件って何でしょう。そうだ、今のうちにシャワーを浴び、汗でも流しておくか。

部屋に備え付けのバスルームで、今日一日の汗を落とした。

「ああ、いい気持ち」

バスルームから出て、バスローブを巻きつけソファーに腰かけ、冷蔵庫から取り出した冷たいジュースを一気に飲み干した。

「ううん、美味しい。これですっきりしたわ」

テレビのスイッチを入れると、北海道テレビの放送が映り出された。その番組を見ながら、カメラを取り出し、昼間写した映像を再生してみる。どれも煌くような景色が映し出され、伊藤が撮った美紀自身が満面の笑みを浮かべていた。他の人が撮ってくれた、伊藤とのツーショットの写真が、これまた眩い瞳で撮られていた。

あら嫌だ。何だか自分ばかり嬉しそうな顔している。撮られている時は気づかなかったけれど、不思議なものね。その時の気持ちが、写真に表れているんだもの。

感心し見入る。つい時間を忘れていたが、部屋の電話が鳴り真顔に戻り出る。

「はい…」

元気な声が耳に飛び込んでくる。

「お休みのところすみません。伊藤です、今大丈夫ですか?」

「ええ、ひと休みしていたところで、昼間撮って頂いた写真を見ているところなんです。沢山撮って頂いて、ずっと見ていましたの。みなよく撮れていて見入ってしまったわ。ほら、これなんか、伊藤さんもよく撮れているわ」

「へえ、そうですか。俺みたいな奴は、よっぽどアホ臭く写っているんでしょうね。土台が悪いから仕方ないけど」

「いいえ、そんなことないです。私こそ、にやけて撮れているんで、何だか恥ずかしいわ」

「えっ、それはすみません。写真には自信があるんですが。平田さんが気に入らぬように写れていたら、それは俺のせいだ。どうしよう…」

「いいえ、伊藤さんのせいとは言ってません。あまりにも素晴らしいところばかりだったので、気持ちが表れているんでしょうね。それに素材が悪いんですもの、にやけて撮れていても仕方ありませんわ」

「何をおっしゃいますか。平田さんみたいな美人を撮っているんです。素材が悪いなんてとんでもない。にやついているなんて、おかしいな。あんなに晴れやかな表情をしていたんですよ。素敵に撮れているはずなんだがな…。でも、美紀さんにそう言われると、面目ない気持ちになる。もし気に入らなければ申し訳ないです。ところで平田さん。お食事の方はどうされます?」

「少し経ったらラウンジへ行こうと思っています」

「そうですか…。当然、お一人で召し上がるわけですよね」

「ええ、そのつもりです。だって仕方ないもの。一人で来ていますから」

「そうですか。添乗も私だけですので、一人なんです。一人で食事するのも、何だか味気ないですよね」

「そうね、同感だわ。伊藤さん、もしよかったら一緒にお食事しませんか?」

「えっ、いいんですか。僕なんかじゃ、お邪魔虫ではありませんか。でも、平田さんが宜しければ、異存はありません。喜んで同席させて頂きます」

「お邪魔虫だなんてとんでもない。私の方こそ、ご迷惑じゃないかしら。それに、お仕事の方頑張っていらっしゃたので、お疲れではありませんか?」

「いいえ、平田さんと食事が出来るなら、疲れなどふっとんでしまいます。本当に宜しいんですか?」

「ええ、お邪魔じゃなければ」

「それじゃ、一緒に食事しましょう。一人寂しくとるより、二人で食べた方が楽しいですから。それじゃ、せっかくだから。ラウンジですと忙しいので、どこか落ち着いたところへ行きましょうよ。私がご案内しますから。宜しいでしょ?」

「構いませんけど」

「それじゃ、ちょっとお願いがあるんですけれど」

「何ですか?」

「今話していた写真の件、差し支えなければ見せて頂けませんか。僕としては、より最高に撮ったつもりでいるんです。それがもし、お気に召さないものでしたら申し訳ない」

「でも、ちょっと恥ずかしいな……」

「そう言わず、是非見せて頂きたいんです。私としては、お撮りした責任がありますから」

「そうですか。それまでおっしゃるなら、お持ちしますわ」

「ああよかった。断られるかと思いました。それじゃ、今何時かな。ええと…、六時ちょっと前か。それじゃ、六時半頃に一階ロビーでお待ちしています」

更に続ける。

「ラウンジで食事するよりも、美紀さんお疲れでしょうから、ちょっと静かなところで、食事できるところがいいと思い、お誘いしたんです。断られなくてよかった」

「まあ…」

気遣いに美紀も返す。

「嬉しいわ。その方が地元のお料理も頂けるし、ゆっくりくつろげるかもしれませんね」

「それに、今日一日素晴らしいところに行ったんです。食事しながら、その感動を振り返ってもいいんじゃないですか?」

「是非、そうしたいわ。お邪魔かもしれませんが、宜しくお願いします」

「いえ、こちらこそ」

伊藤が付け加える。

「そうですね。少しお酒でも飲みながら、平田さんが北の大地にこられて、どう感動したか聞いてみたいですね」

「まあ、そんなこと言って、話しづらくなりますわ」

はにかむように言うと、伊藤が気遣う。

「そんなことありませんよ。大いなる北海道の醍醐味を味わって頂き、受けた感動を、そのままお話して下さればいいんです」

優しく諭した。

「…」

「あれ、どうしました?」

「いえ、何でもありません。あなたの優しさが、つい胸に詰まってしまって。ご免なさい」

「そうですか、それはすみません。何だか涙ぐませるようなことを強請ってしまい」

「いいえ、泣いてなんかいません。嬉しいんです。それじゃ、六時半頃ロビーへ行きますわ」

「それじゃ。待っています」

電話を切った。美紀は嬉しかった。伊藤の誘いに胸が詰まる思いでいた。







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