2日目と3日目
次の日は予定がたくさん詰まっていた。
御墓参りに行ったり、母さんの知り合いとご飯を食べに行ったりして息をつく暇もない。
あまり知らない人とご飯を食べるのは苦手だ。
母さんの知り合いだから、僕のことも一応知っているようだったけど。
「スイ君はもう高2なんやね、あと1年もしたら受験や。」
とか、
「夢とか決まっとるんか?」
とか、僕にとっては嫌な話ばかり。僕の父は弁護士だからみんなの期待が刺さる。
適当に曖昧な返事をしたけれど…。
"目まぐるしい1日"はこのことか。変に緊張して、神経もすり減らしてしまった。
ようやく家に帰っても、体が炎天下に置かれた雪だるまみたいにぐったりして、動けそうにない。
今日はもう寝よう。
夏の夜を凌ぐために、氷枕と保冷剤を布団に用意する。
明日はまた堤防にでも行こうかな。
スイに多分会えるだろうし…。
そんなことを考えながら、今日の疲れを吹き飛ばすために、昨日よりもずっと早く床に就いた。
いつもより早く目が覚めたその日は曇天だった。
家の中の暑さから逃げるように外に出る。
母さんの機嫌も悪いし、家にいても宿題をしろと言われるだけだ。
幸い、母さんはこの町で知り合いと話したりと忙しいから勝手に外出しやすい。
こんなどんよりとした天気でも蝉たちは元気よく鳴き続ける。ガンガンと頭に響く蝉の鳴き声が、夏の暑さを増進させた。
堤防に着くと、スイの影が見えた。
レースの服と水色のイヤリングが涼しげだ。
「おはよー、スイ!」
「おはよう!来てくれたんや!」
爽やかなあいさつが気持ち良く風になびく。
叔母の家の中は毎日ムシムシしていて、"おはよう"の一言ですらみんな重苦しいから新鮮だ。
スイの足元を見るとラムネ瓶が二つある。まだどっちも開いていないみたい。
「これ、1本あげる!」
と、スイがラムネを1本差し出してくれた。
汗をかいたラムネは少しぬるい。
まだ1回しか会っていない、来るかも分からない僕を待っていてくれたのか。
曇天だけど僕の心はうららかだ。
今日は空も川も灰色でも、代わりにスイのくれた水色のラムネが爽やかに僕の心を満たしてくれた。
住んでいる場所も環境も性別も違うけれど、
やっぱり僕とスイは気が合う。
一緒にラムネを飲んでいるだけでも心地いいから。
「今日は絵描かんの?」
「うん、今日はただここの景色を眺めようと思って」
でも、
「曇りだなぁ。」
「曇りやねぇ。」
声が揃って、ふふっと2人で笑った。
7日しかないけれど、そんな日もいい。
今日は穏やかな1日だ。
星空は見えないけれど。
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