第四話 新歓より
時刻は午後17時。
春の太陽はその顔を西の空へと隠そうとする中、本日名古屋市内のとあるレンタルスペースでバスケサークルの新歓が行われる。
バスケサークル所属の在学生達が会場の準備を進める中、続々と新入生達が入ってくる。
新歓の会場内は慌ただしく、最上級生の指示のもとサークル部員たちが会場内を右往左往する。
来場した新入生達を席へと案内する人や食事の準備をする人。
後は何やら新歓用の企画の準備をする人など様々。
そしてそんな物々しい雰囲気の中、小牧傑士が会場へと足を踏み入れる。
(うわぁ…やっぱり人いるな…)
勿論入学式ほどではないものの100人弱の人間が会場に溢れており、傑士は会場に足を踏み入れたが人の多さに物怖じし、思わず入り口で立ち止まってしまう。
先程、RINEで鈴木と宮里からすでに会場に着いたと連絡があり、早く中へ進みたい気持ちはあるが不躾に中に入り、先輩達を邪魔する恐れがあり、中々進むことが出来ない。
「新入生君!ごめんね慌ただしくて。ようこそ私達のバスケサークル『アミューズ』へ!!」
若干不審者にも見える素振りで会場内の様子を窺っていると傑士に気が付いた女の上級生が小走りでこちらに向かい、傑士に声をかける。
「私は三年生の星野空奈(ほしのそらな)。よろしくね」
「はい!僕は新入生の小牧傑士です!よろしくお願いします!」
なんだか機械音が聞こえてきそうな程身体がガチガチに固まり、動きがぎこちなく、綺麗な45度腰を曲げて挨拶をする傑士。
緊張感が嫌でも伝わり、それを感じ取った星野先輩がくすりと笑う。
(こっこの人が鈴木君達が言ってた星野先輩か…確かに凄いスタイルがいい人だな)
その名を聞き、この人が鈴木と宮里が話していた星野先輩だと知る。
しかしまあ二人が胸に胸を膨らませていただけあってこの星野先輩、かなり胸がでかい。
4月の上旬、まだ寒さが残るこの季節な為、厚い長袖のセーターを着ているがそれでも浮き出る胸の形と大きさ。
これはヤリチン共が放っておくわけがないだろう。
「じゃあ席に案内を…」
「ああ!傑士君!」
星野先輩が傑士を席へ案内しようとした時、奥のほうで聞き覚えのある優しい声音が聞こえてくる。
目を向けるとこちらに向けて笑顔で手を振る大治先輩の姿が見えた。
「大治先輩!」
「待ってたよ!傑士君!来てくれてありがとう!」
嬉しそうにこちらに駆け寄り、自然に傑士の手を握って大歓迎の意を何度かの強い握手で示す。
「麗大君の知り合い?」
「はい。今朝僕が落とした新歓のチラシを彼が拾ってくれてそれで今日の新歓に是非と誘ったんです」
「ええ!運命じゃない!」
「ですね。彼はきっと『アミューズ』に導かれるべくして導かれたんですよ!ね?」
「あっはい。自分もそう思います」
後にこの男がキョロ充モンスターになるとも知らず、傑士を置き去りにして舞い上がる二人にただ首肯をするしかない傑士。
「じゃあ僕が席に案内しますね。星野先輩は次の新入生をお願いしますね」
「分かった。それじゃあよろしくね」
「はい。傑士君行こうか」
「あっ分かりました。お願いします」
傑士のことは大治先輩に任せ、次の新入生のもとへと急ぐ星野先輩。
そして大治先輩は傑士を会場の奥へと案内する。
「会場まで迷わなかった?一応僕が地図を描いたんだけど分かりにくかったよね?」
「いやそんなことないですよ。凄く分かりやすかったです」
「そう?じゃあ良かった。まあでも今時皆あんな分かりにくい地図を見るくらいならさっさとGGマップで検索するよね」
「うーんどうですかね…」
実は自分もGGマップを見て来ました。
…なんて口が裂けても言えなくなった傑士は適当に返事を濁して誤魔化す。
大治先輩がいい人なだけあってその優しさを無下には出来ず、記載されていた地図が分かりにくい事も胸の中にしまった。
「おっ傑士!」
「こっちこっち!」
「あっ涼君と裕人君!」
中に進むともう既に椅子に座り、テーブルに並べられた飯をつまんでいる鈴木と宮里が傑士に向かって手を振り、そんな二人に傑士は犬のように尻尾を振って近づく。
「ごめんちょっと遅れた」
「全然。俺達も今来たとこ」
「うん」
「あれ?三人は知り合いなの?」
引率してくれていた大治先輩が自分を追い抜かした傑士に尋ねる。
「はい。入学式で知り合って」
「そうなんだ!じゃあ傑士君はここの席で大丈夫だね」
「はい。大丈夫です」
「じゃあ先に食べてゆっくりしててね。もう少しで始まるから待ってて」
「分かりました。ありがとうございます大治先輩」
「うん。じゃあね」
傑士が軽くお辞儀をすると大治先輩は微笑みを浮かべて忙しなく去っていく。
そんな大治先輩を傑士は見届けて、鈴木と宮里が座っている横の席に座る。
「あれが大治先輩か…」
「イケメンで優しい…強いな…」
顔をしかめ、軽い舌打ちを挟みながら大原先輩の背中を見る二人。
完全に敵として見ている二人と違い感謝と憧憬の目を向けていた傑士はテーブルに目を向ける。
テーブルにはピザ、フライドチキン、ポテト、お寿司、お菓子、ジュースなど如何にもパーティーらしいジャンクフードや飲み物たちが並んでいた。
一般人なら見慣れた食べ物達だが傑士はそれを物珍しそうに目を輝かせて見つめていた。
今まで最上流階級の人間として生きてきた傑士はこの様なジャンクフードを口にしたことが殆どなく、例え同じ食べ物を口にすることがであっても食べ物ランクが何ランクも違った。
それに加え栄養価や見栄えも考えられた食事ばかりで二十歳前後の若者達が適当に並べた市販のジャンクフードが並ぶこの光景を生まれてこの方見たことが無かった。
(凄い!…これがジャンクフード…皆にとっては普通なのかな?)
しかし決して傑士自身がジャンクフードを忌み嫌っていた訳ではない。
ただ傑士の家がそれを許さなかった。それに傑士は従っていただけ。
だから傑士はジャンクフードに対し嫌悪はなく、寧ろ心の底では興味すらあった。
「?腹減ってんなら食えばいいじゃん」
「えっ!?うっうん」
ジャンクフード達を目を輝かせ、ただ眺めている傑士に鈴木はお腹が空いている勘違いして食べるように勧める。
反射的に頷いたもののお腹が空いているわけではない傑士。
だが食べたいのは事実なので傑士はテーブルの上にあるチキンナゲットに手を差し伸べ、一つだけ指でつまんで口へと運ぶ。
(…!?これがジャンクフード…凄いおいしい!)
口に入れたナゲットを一嚙み一嚙み大事に味わい、食べたことのない濃い味とその油の量に感激の表情を浮かべる。
食べ終わり、飲み込んでもまだ口の中が油まみれで噂通りのジャンクフードの味と感触に目を輝かせる。
「傑士ってい旨そうに飯食うんだな」
「えっ!?まあちょっと…お腹空いてたから…」
今までジャンクフード食べたことがありませんなんて言えず、誤魔化す為ともう一度味わいたくてナゲットを再び口に運ぶ。
「あーあー…新入生の皆さん!お待たせしました!これより僕たちのサークル『アミューズ』の新入生歓迎会を始めます!!」
その瞬間、正面にあるプロジェクターの前で一人の男の先輩がマイクとスピーカーを通じて話し始め、新歓開始の宣言をすると会場の皆が大きな拍手をし、会場内がその音で包まれた。
午後17時ちょうど。定刻通り新歓が始まる。
美女とキョロ充 平等望 @hiratounozomu
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